白鳥
スワンが、思ったより素敵に出来上がったらしく、みんな喜んでいた。
失敗した主な原因を説明し、絞るのに時間がかかったと納得していた。
ふと、ユメちゃんが静かだな?と思ったら、高い椅子の上で寝ているようだった。起きるのが早すぎたんだと思う。
お昼になり、ランチに招待された。
唐揚げと、さつまいもの炊き込みご飯と、サラダと、ポットパイだった。
サラダのドレッシングがゴマドレッシングだったので、明らかにリラ監修だろう。
ユメを起こしてきてテーブルに着くと、花籠シューを見て喜んでいた。そういえば、店では作らなかった。
他のメンバーは自分で作ったスワンシューにうっとりしていて、お気にいりのようである。
「すみません、言い忘れていましたが、スワンシューは持ちませんので、誰かに提供したい場合は、提供する直前に仕上げることをおすすめします。首がぐにゃんと曲がってしまいますので」
驚いたあと、見つめていた全員が、食べだした。
ご飯のメニューは今回も好評だった。
唐揚げは、材料はなにかと驚かれ、ポットパイは楽しいと喜ばれ、ユリはとても嬉しかった。
特にサラダのドレッシングが好評で、どうやって作るのか聞かれた。
口頭で簡単に説明したが、作らない人に言っても伝わらないので、次回のアルストロメリア会のあとで各家の料理人を呼んでもらい、ドレッシング講座をすることになった。
ユメはローズマリーに呼ばれたので、別行動になった。
次回は、ラ・ポンムを作りたいらしい。
解散したあとリラのところに行くと、リラはマヨネーズの特訓を指導していた。
どうやら今までは、マヨネーズが成功せず、ユリが渡したドレッシングレシピは作れていなかったらしい。
リラによると、ケチャップに似たトマトを煮詰めたソースがあるらしく、それを使ってコブサラダドレッシングも教えたそうだ。
ユリも味見させてもらうと、ケチャップより少し甘味が足りないが、ドレッシングで使うには問題なさそうだった。
リラは、シーザーサラダドレッシングも教え、足りないのは、マヨネーズを混ぜる根性だけらしかった。
電動ホイッパーとか、ブレンダーとか、ミキサーとか無く、マヨネーズは大変よねー。
「ユリ・ハナノ様! リラちゃんのお蔭で、いただいたレシピが作れました!」
「レシピ、簡単にしか書いてなくてごめんなさいね。他にも渡したものでわからないことがあったら聞いてくださいね」
「このマヨネーズというものはすごいですね!なんにでも合うし、色々なものを作ることができる!」
「油の種類や、お酢の種類を変えて作ってみるのも良いですよ」
「ユリ様、タルタルソースは聞かれましたがピクルスがわかりませんでした」
「あー、私はピクルスという、キュウリの酢漬けを使いますが、酸味のある漬け物の野菜ならなんでも構いません」
「おろしハンバーグというのを作りましたが、あのおろしというのは辛いものなのですか?」
「あー、それ、私も想定外で、前日におろしてからランチで使いました」
「今日の唐揚げはどうでしたか?」
「良くできていました。人数分作るのは大変だったでしょう?」
「リラちゃんの指導のもと、頑張りました!」
「それで、侯爵様より報奨を預かっておりますが、リラちゃんが受け取って良いかわからないというので、ユリ・ハナノ様からお渡し願えませんか?」
「はい。必ず渡しましょう」
ユリは料理長から布袋を受け取った。
「ユリ・ハナノ様、スブタという料理は指導可能ですか?」
「うちの店で売った料理は、ほぼ可能ですよ。無理なのは、季節的に材料が手に入らないもの位です。酢豚はいつ教えますか?」
「次回までには材料を揃えておきます」
「あの、噂なんですが、川魚を食べたって本当ですか?」
「はい。ランチに出して大変ご好評いただきましたよ」
「・・・」
「河口付近で捕まえた鮭をフライにして、タルタルソースで提供しました。リクエストノートにも多数のリクエストが書き込まれていますが、私では捕まえられないもので、再販はしていません」
「誰が捕まえてきたんですか?」
「ソウです。ソウ・ホシミです」
「魚って美味しいんですか?」
「下処理をきちんとすれば美味しいですよ」
「下処理なのか・・・」
「又入手することがあれば、凍結して残しておきますね」
その他にも色々質問されたが、ほとんどは、リラに聞いても解決しなかったことらしく、細かいことだった。
そろそろ帰ろうかと思ったが、ユメが帰ってこないので困っていると、メイドが呼びに来た。
「ユリ様、ユメ様と奥さまがお待ちです。お越しいただけますでしょうか?」
「あ、はい。リラちゃん、又あとで来るわね」
「はーい」
メイドにつれられていくと、ユメがぐったりして長椅子に伸びていた。
「ユメちゃん、大丈夫?」
「正装疲れたにゃ」
「あー。成る程・・・」
「ユリ様、こちらのサイズ合わせをお願い致します」
「どうやって着るんですか?」
渡された服は被るしかないような感じだが、頭から被るべきか、下から履くように着るべきか悩むタイプだった。
「こちらの白い服はワンピースタイプで後ろを留めます。こちらの薄いものは被っていただき、後ろを結います。最後にベールをつけます」
「ベール?」
「聖女は顔を知られると、言い寄る不届き者が増えるので、常に聖女の正装ではベールを着けます」
「ユリ、面倒だったら認識阻害かけるにゃ」
「あ、いえ、ベールあった方が良いです!」
きつくはなく、動きやすく軽い服だった。
全体的に白っぽいため、シンプルなウエディングドレスのようではある。
ベールも、視界は良好なのに、鏡で見ると全く顔が見えなかった。
これを着るときは、髪を全てセットして、髪色さえ分からなくするそうだ。
「ユリ、朝変なのが来てたにゃ」
「え?」
「ここに来たとき居たにゃ」
「あの人って、第一王子かと思ったんだけど」
「そうにゃ。ここで聖女の正装を作ったから、聖女が誰なのか探しに来たらしいにゃ」
「えー!」
「ソウに引き取ってもらってよかったのにゃ」
私は、探されていたのか。
ユリは少し複雑だった。衣装だけのつもりが、本当に人を助けることになって、これを着る正当性ができてしまったからだ。
「助けられる人は助けたいと思うけど、私は自分のお店、アルストロメリアをやっていきたいわ」
「それで良いにゃ。聖女は大変にゃ。手の届くところだけ助ければ良いのにゃ」
「ローズマリーさん、こんな感じで良いですか?」
「はい。大変お似合いでございます。このまま仕上げまして、5日程で出来上がるそうでございます」
ユメは座り直した。
「ローズマリー、よろしく頼むのにゃ」
「かしこまりました」
「ローズマリーさん。いつも色々ありがとうございます」
「いくらでも頼ってください」
ローズマリーがふと微笑んだ。
「ユメ様、公表の前日に、我が娘に話すことをお許しください」
「今日この後、話して良いにゃ。公爵と侯爵には先に通達するにゃ。同じ扱いで良いにゃ」
「誠にありがとうございます」
「ユリのことは内緒にするのにゃ」
「かしこまりました」
「ユリ、脱いだら帰るのにゃ」
「はーい」
ユリは衣装を脱ぎ、着てきた服に着替えた。
着るときも、脱ぐときも、ローズマリーが手伝ってくれた。極秘案件だかららしい。
ユメと一緒にリラを迎えに行き、店まで戻ってきた。
「リラちゃん、明日はお客様が多いんだけど、私はいるけど、12時頃まではバタバタしているから来るなら12時以降にしてもらえる?」
「忙しいなら何かお手伝いしましょうか?」
「んー。ぶっちゃけて言うと、魚の生卵を食べる集まりがあってね、この国の人にはハードルが高いかなぁって・・・」
「サカナノナマタマゴ・・・いえ!来て手伝います!見るだけでも価値がありますので!」
「あ、うん。なら、好きな時間からどうぞ」
リラとマーレイは笑顔で帰っていった。
明日、何時から来る気なのだろう?
「リラ、チャレンジャーにゃー」
「そうね。卒倒しないことを祈るわ」




