急転
今日のランチは特に問題なく終わった。
質問してくる客もいなければ、持ち帰りを希望する客もいなかった。
イーゼルに乗せる看板に、詳しく書くのは重要なんだわ。とユリは思っていた。
実のところ、客の方が慣れてきただけである。
みんなのお昼は麻婆豆腐で、ユメとリラの分を先に作った。
これは辛味を控えた特製版だ。
ソウとマーレイも帰ってきたので、普通の辛さのものも作った。
「こっちが、リラちゃんとユメちゃんの分ね。こっちが辛い方ね」
「ありがとにゃ!」
「ありがとうございます!」
「お!俺辛いの足そう」
「ラー油あるわよ」
「ユリ様、それはなんですか?」
「簡単に言うと、ごま油に唐辛子を漬け込んだものね」
「か、辛そうですね」
「辛いわね。さあ、食べましょう」
ソウは少し食べてからラー油を足していた。
本当は、花椒とかあると良いのかもしれないけど、手に入らないしね。
「豆腐って面白い食べ物ですね。甘くないプリンみたい」
「豆乳花という、豆乳を固めて、甘くして食べるデザートもあるわよ」
「やっぱり、大豆は凄いですね!」
「そうね。食べ終わったなら、九龍球を食べてみると良いわよ」
ユリは外おやつ用に、バットのフルーツ寒天をカットして、ココットに入れて45個作った。
寒天が四角いと、みつ豆のようである。
冬箱には32個しか入らないので、途中で足しに行こう。
しっかり昼休みを休み、おやつタイムが始まった。
◇ーーーーー◇
おすすめおやつ
九龍球(フルーツ寒天) 900☆
冷茶 200☆
お茶(注文した方のみおかわり自由) 200☆
常温おやつ
パウンドケーキ 150☆
クロ猫ッカン 250☆
ブルーベリーパイ 300☆
マロンパイ 350☆
リラの華 200☆
黒猫クッキー 時価
(ユメちゃんから直接購入してください)
軽食
ホットサンド(ハム、たまご) 500☆
ポットパイ(パイ皮付きシチュー) 500☆(限定30)
ごま風味サラダ 350☆
栗ご飯 300☆
おにぎり(新生姜の佃煮) 200☆
おにぎり(大葉味噌) 200☆
持ち帰り専用
九龍球(1人前) 1500☆
(2人前) 2500☆
(九龍球、瓶入りシロップ、紙袋)
九龍球を持ち帰る場合、10分以内に冬箱に入れて、揺らさず持ち帰ってください。
黒蜜 800☆
黒蜜・容器持参(150ml・180g) 500☆
凍結グラタン(1人前) 600☆
凍結ミニミニグラタン(1/4人前) 200☆
(ハム、コーン、ブロッコリー、マカロニ)
グラタン&ドリアの持ち帰りについて。
冬季以外の販売は、冬箱か真冬箱をお持ち方に限ります。
解凍し釜で焼いてからお召し上がりください。
※器返却スタンプ始めました!
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九龍球は持ち帰りが高いのもあって、食べていく人ばかりだったが、ユリの一言でガラッとその目が変わった。
「付属のシロップの他、発泡酒、スパークリングワイン等を注いで食べても素敵ですよね」
「持ち帰り2つください!」
「私も買って帰る!」
「私は4つだ!」
今日はあまり売れないと思っていたので、いつもよりかなり少なめに作っている。
あまり早く売り切れるのも少し困る。
持ち帰り客に対応し、最初の注文が落ち着いたので、ユリは厨房にこもることにした。
まずはパイを折り、次に、シートのココアスポンジを焼いた。
月曜日分のパイを半仕上げし、クロッカンの下地まで作った。
月曜日のパイはフルーツパイで、パイナップル、アプリコット、ブルーベリーが少しずつ乗っている。
「ユリ様、お酒はないかって聞かれました」
「私が対応します」
リラに言われてお店を見に行った。
「どのようなお酒をご要望なのでしょうか?」
「九龍球に注ぎたいんだが」
「残念ながら発泡酒やスパークリングワインはご用意がございません。お持ち帰りになって、お家でお楽しみください」
「あいわかった。持ち帰り3人前用意してくれ」
「お酒を注がれるならシロップは2人前でも大丈夫そうですね。3500☆です」
「安くなるのか?」
「価格の主な原因は、シロップの容器代です」
「えー!」「なんだってー!」「そうなのか!」
会話していた相手より回りからの反応がすごかった。
「ユリ・ハナノ様! シロップが要らない場合はいくらなのですか?」
「九龍球の容器代で100☆上乗せの、1000☆ですね。まあ、冬箱を持参しない限り、紙袋代が100☆かかりますが」
結局、その場の全員が、お持ち帰り購入になった。
ユリは厨房にもどり、コーヒーシロップを作った。ボトルコーヒーに、カルーア(コーヒーリキュール)と、糖分を足した。
マスカルポーネを使い、緩いチーズムースを作り、ココアシートスポンジにたっぷりコーヒーシロップをハケ塗りして4層にした。
ココアシートスポンジを丸型で抜き、大きいココットでも作る。これは持ち帰り用だ。
明日上にココアを振るう。
ユメとリラに交代で来てもらい、クッキーやクロ猫ッカンを作ってもらう。
その間ユリが店をみる。
その前に、外おやつの追加に行ってこよう。
魔力を込めていない真冬箱に入れて持っていった。
残りが2つしかなく、ギリギリだった!
スプーンを洗ったものに変え、残りそうなパウンドケーキも、持ってきた。
「ユリ・ハナノ様、いつもありがとうございます」
「あ、聞いてみたかったんですが、冬、寒くなったら、どこで待っているんですか?お店の外に焚き火をするのと、この倉庫内に椅子を置くのと、どちらが良いですか?」
「焚き火はありがたいですが、火を見る人がいないのは少々恐ろしいことかと。この倉庫内に椅子をおいていただけるのは、大変ありがたいです」
「では、椅子を置きましょう!」
「どうもありがとうございます!」「ありがとうございます!」
ユリは厨房にもどり、メモに、椅子を注文する。と書いた。
リラに厨房で作業してもらい、ユリはお店を見に行った。
「ユリ・ハナノ様、今日のケーキは華やかですね」
「見た目は良いですよね。作るのは大変なんですけどね。ふふふ」
「ユリ・ハナノ様、聞いてもいいですか?」
「何でしょうか?」
「栗を持ってきたらケーキにしてもらったと聞きました。芋はどうですか?何かケーキになりますか?」
「さつま芋ならスイートポテト、大学芋、芋けんぴ、芋羊羹、きんつば、きんとん、蒸しパン、炊き込みご飯、ジャガイモなら芋餅、ポテトチップス、ポテトサラダ、肉じゃが、コロッケ、まあ、色々なものになりますし、モンブラン風や、プリンなども作れますよ。紫芋ならその色をいかして更に色々作ることができます」
「持ってきて良いですか?」
「でしたら、日曜日の昼頃にお願いします」
厨房に戻ると、先程の工程を繰り返しながらリラに今の話をした。
「日曜日に、芋持参で来るらしいわ」
「Sの日、見に来ますね!」
「リラちゃん、明日のパープル邸も来るでしょ?休み、なくなるわよ?」
「ユリ様よりは働いていませんよ?」
「あ、明日のパープル邸で、ドレッシングちゃんと作れているか、確認してもらえるとありがたいんだけど」
「はい!完璧なのでお任せください!」
「全部手動だけど、マヨネーズ作れそう?」
「家で1度作りました!」
「リラちゃん、あなた本当に偉いわよね」
「卵は汚れをきれいに洗って乾かしてから、濃いお酒でもう一度洗って、それから使うんですよね」
「その通りよ。生で使うからね。よろしくね」
「はい!」
ユリは話しながら、ココアシートスポンジにたっぷりコーヒーシロップをハケ塗りし、マスカルポーネでチーズムースを作り、4層にし、2台目を作り上げた。
クッキーが終わったリラが、ユメと交代してクロ猫ッカンを作りに来た。
「ユリは何を作ってるにゃ?」
「ティラミスよ」
「てぃらみすにゃ?・・・あ!ティラミスにゃ!」
「あら、知っているの?」
「上にココアがかかっているにゃ?」
「そうよ。食べたことあるの?」
「流行ってたにゃ」
え?ティラミスが流行ってた時代なの?
たしか今から 年も前・・・。
「ユメちゃん、ワンコインショップって、いくらだった?」
「100円にゃ、違うのにゃ?」
「消費税は?」
「しょうひぜい?って、なんにゃ?」
「ワンコインショップはね、その始まりこそ100円だったけど、消費税で、103円、105円、108円、110円って上がっていって、そのうち商品自体の値上げもあって、1000円+税で8コインって、チケット制のような専用コインを使うようになって、更に7コイン、6コインって減っていって、現代では1000円で4コインなのよ」
「100円均一じゃないのにゃ!!」
「名前は、ワンコインショップだからね」
ユメはショックを受けた顔をしていたが、ユリはユメが生きていたらしい時代を理解した。
クロ猫ッカンが作り終わり、ユリも3回目、大きいココットのティラミスが作り終わり、今日の仕事が一段落した。冷凍庫がパンパンだ。
九龍球もいい具合に売り切れ、変に残ったものもなくユリは予定通りでスッキリしていた。
店の客も帰り、さあ、ご飯を食べましょうとユリが言おうとしたら、ユメが店の真ん中で突然立ち止まった。
「にゃ!!」
◇◇◇◇◇
(リラ、ソウ視点)
「にゃ!」と言った後、少し黙ってしまったユメがユリのところまで走っていった。
「ユリ、頼みがあるにゃ!人を助けてほしいのにゃ!」
ユメが突然言い出した。
「私にできることなら手伝うけど?」
「ユリにしかできないのにゃ!」
「何をすれば良いの?」
「その前に、リラ、一人で待っていられるにゃ?ソウが来たらソウに連れて来てもらうと良いにゃ」
「はい・・・」
「ユリ、2階から行くのにゃ!」
ユメは、ユリを連れて慌てた感じて行っていまい、リラは取り残された。
特に説明もなく、とても慌てていたユメに理由も聞けず、何をすれば良いかわからなかったリラは、取り敢えず片付けをすることにした。
少ししてソウとマーレイが来て、ユリがいないことを聞かれた。
「ユメちゃんが慌てた感じてユリ様を連れてお2階に行ってしまいました。どなたかを助けると話していました。ホシミ様に連れて来てもらうように言われました」
「そうか。マーレイ言って良いか?」
「はい。私から説明します」
「お父さん?」
ソウが、人のいない場所をサーチし、店の回りは動くもの(歩いている人)が多く、少しだけ離れた場所に決めた。
「取り敢えず移動しよう。直接屋敷のそばにいくぞ!二人ともつかまれ!」
マーレイとリラは、ソウの腕に捕まり転移した。
リラは初めてだったが、転移酔いもなくしっかりしていた。
「リラ、今まで隠していたが、イリスが病気でここに居るんだ」
「え!?お母さん病気なの!?・・・まさかユメちゃんが慌てていたのって」
店の前には、到着を待っていたのか番頭がいた。
「ホシミ様!マーレイも、もしかしてこの子は、」
「ユリ、いや、ユメが来ていると思うんだが?」
「はい、黒猫様が先ほどお見えになり、お嬢様を見てくださっていらっしゃいます。小柄な女性をお連れでした」
「案内してくれ!」
「かしこまりました」




