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川魚

「ユリ、川に行くぞ!」

「え?」


朝ご飯を食べ終わると、唐突に言われた。


「鮭、見に行かないの?」


あー、イクラ丼の話を覚えていてくれたのね!

でも今日は無理だわ


「今日?今日は人が来るわ。栗持って栗剥きに」


「ユリは、鮭がほしいの? 捕まえるのがやりたいの?」


鮭を捕まえるのがやりたい女性は少ないような?


「まな板の上に欲しいけど、捕まえる趣味はないわ」

「なら、俺が捕まえてくるよ!何匹有れば使えるの?」


何匹って、もしかして売る気なの?


「えっと?店で出す前提なの?」

「鮭フライ食べたい! ユリの作ったタルタルソースつきで!」


タルタルソースね。


「あーうん。大きさにもよるけど、4~5匹位かしら?」

「期待して待ってて!」


ソウは転移していった。

手に何も持っていなかったけど、うーん。木彫りの熊みたいに素手で捕まえるのかしら?

って、そんなわけないか。


「おはようにゃー。なに騒いでるにゃ?」


ユメが起きてきた。


「おはようユメちゃん。ソウが、鮭捕まえに行くって、手ぶらで行ったわ」

「・・・熊なのにゃ?」

「ふふふふふ、私も同じこと思ったわ!」


手ぶらで鮭と言ったら、熊よね。

二人で少し笑いあった。


「ユリは行かなくてよかったのにゃ?」

「午後から栗持った人が来るのよ」


まあ、暇でも、捕まえるのはあまりやりたい作業ではないわね。


「あ、でも、ソウはお弁当も持たずに行ったけど、昼ご飯の頃には帰ってくるのかしら?」

「届けるにゃ?」

「ユメちゃんが届けてくれるの?」

「昼に戻ってこなかったら、届けても良いにゃ」

「じゃあ、帰ってこなかったらユメちゃんお願いします」

「任せるのにゃ!」



ユリはユメにパウンドケーキを出した後、掃除を始めた。

ユメも手伝ってくれるようで、パウンドケーキを食べ終わると、掃除機を持っていった。


部屋の掃除をしながらシーツやバスマットを洗い、白衣やタオルを洗い、昨日来ていた服を洗い、干すところがなくなった。


布団は後で干そうと、取り合えず部屋の掃除をすることにした。

リビングに行くと、ユメは紙雑巾付きワイパーで、フローリングを掃除していた。


「ユメちゃん、ありがとう」

「これの取り替えるのはどこにゃ?」

「替える専用の紙雑巾はここにあるわ」


掃除用の重曹等が入っている場所から取り替え用の紙雑巾を持ってきた。

ユメが装着をやりたがったので、教えて任せた。

最初はなかなか上手につかず苦戦していたようだったが、コツをつかんだらしく、しっかり外れなくなったようだ。


「外掃いて来るわねー」

「わかったのにゃ」


ユメは引き続き、廊下も紙雑巾付きワイパーで、拭いてくれるらしい。


ユリが外を掃き掃除していると、お休みを知らずに来店した人が来た。


「今日は休みなのですか!?」

「はい。土曜日(つちのひ)日曜日(おひさまのひ)はお店はお休みなんです」

「なんと! ・・・」

「あと、営業している日でも、11時からです」

「それは知っていた。なので少し早く来たつもりだったのだ・・・」

「どこからいらしたのですか?」

「レッド領の先のバーミリオンからだ」

「んー、用意の関係で、軽食か、作りおきでよろしければ提供いたしましょうか?」

「本当か?何でも良い。お願いする」

「あ、何人でお越しですか?」

「御者を含め3人だ」


3人前ならホットサンドは時間がかかるから凍結ドリアを解凍すれば良いわね。


「では、ドリアと冷茶を提供します」


馬車を寄せてもらい、店に入ってもらった。


「誰か来たにゃ?」


ユメが降りてきて店を覗いていた。


「お休みを知らずに遠くから来たらしいから、凍結ドリアを出そうかと思ってね」


ユリは厨房の冷凍庫から凍結ドリアを3つ出すと2階に行き、電子レンジでドリアを解凍した。

その後オーブントースターで焼き色をつけ、お店まで持っていった。


「こちら、キノコドリアです。お熱いのでお気をつけてお召し上がりください」

「早速いただこう!」


ユメがお店にいてくれるというので、ユリは、レアチーズケーキを6つ半解凍にするために、再び2階の電子レンジまできた。


厨房に戻り、手早くブルーベリーソースを作り、店に行った。


「デザートも提供できますが、どうされますか?」

「是非お願いする!」


ユリは、レアチーズケーキのココットの上に、作ったブルーベリーソースを乗せ持ってきた。


「まだ少し凍っていますが、レアチーズケーキです」

「チーズの菓子なのか?」

「はい」


恐る恐る食べだした。口に含んで少しすると、勢い良く食べ出し、すぐに無くなった。


「なんと旨い料理と旨い菓子だ!」

「ありがとうございます。冬箱か真冬箱をお持ちなら、先ほどのドリアは持ち帰り販売をしていますよ」

「冬箱なら持っている、是非売ってくれないか!」

「おいくつ必要ですか?」

「先ほどと同じ容器であれば、4つ、いや5つ入る」

「では、5つお持ちします。馬車から冬箱を下ろされると良いですよ」

「了解した」


一人が店を出て冬箱を取りに行った。

ユリの予想よりかなり大きな冬箱を持って来た。

これなら他の物が入っていても、ドリアも入ることだろう。


ドリアを5つ渡し、食べ方を説明した。

すると、帰ったら自分で焼いてみると言っていた。

器を返却するとポイントがたまることも説明し、最後に会計を聞かれた。


「6000☆です」

「では、18000☆だな。持ち帰り分はいくらだ?」

「あ、いえ、お食事と、デザートと、持ち帰り分を合わせて6000☆です。単品価格は、ドリア500☆、レアチーズケーキ500☆、持ち帰り用の凍結ドリア600☆です。冷茶はセットサービスです」

「なんと・・・。 では、こちらをお納めください」


渡されたのは、小金貨(一万☆)だった。

大分多い。

ユリは少し考え、ユメにクッキーはまだあるか聞いた。

するとユメがクッキーを、渡しに来てくれた。


「黒猫クッキーにゃ!」

「これは素晴らしい黒猫クッキー!」

「パウンドケーキです。お疲れの際に召し上がってください」


パウンドケーキを6カット分渡した。

するとユリの対応に感激したらしい。

三人組は何度もお礼を言いながら帰っていった。


「ユメちゃん、レアチーズケーキ食べる?」

「食べたいにゃ!」

「持ってくるから休憩しましょ」

「食器下げとくにゃ!」

「ありがとう」


ユメにレアチーズケーキを出すと、ちょうどソウが戻ってきた。

細目の竹の枝の部分に鮭を吊って、肩に担いでいた。


熊だわ。


「熊みたいにゃ・・・」

「ただいまー!なんか言った?」

「お帰りなさい。何で鮭吊ってるの?」

「道具持っていくの忘れたから、枝に吊るしてきた!」

「どうやって捕まえたの?」

「川の中に結界張って、水だけ抜いた」

「そんな結界の使い方があったのにゃ・・・」

「お魚担いで服汚れないの?」

「俺自身に結界張ってるから汚れないよ!」

「そんな結界の使い方があったのにゃ・・・」


結界って、便利なのね・・・。

たぶん違う。ソウの使い方が、独特すぎるだけである。


「流しにおいて良い?」

「あ、うん。後でさばくわ。ソウもレアチーズケーキたべる?」

「うん!」


ソウにレアチーズケーキをだし、ユリは考えていた。

明日のメニューを。



手に入れた鮭を美味しく食べるためにフライにしよう。ソウも食べたいと言っていたし、お店でも抵抗が少ないと思う。

それに、夏に漬けておいたピクルスもある。


白身魚のフライと言えば、タルタルソース。

鮭が赤く見えるのはアスタキサンチンの色で、(れっき)とした白身魚である。



鮭4匹はよく洗って(ぬめ)りをとって、キッチン鋏でエラなどを切り、お腹の中を傷つけないように肛門から包丁で開けていき、卵などを取りわけ、骨や内蔵などを丁寧に取り除く。


「やったー!4匹とも卵!」


薄口醤油、酒、味醂を鍋に入れ火を通し冷ましておく。


50度くらいの湯を作り、塩を入れ、そこに筋子(鮭の卵)を、いれた。

要らない割り箸でかき混ぜてから手を入れ、余分な膜を取り除いていった。


何度か水を変え、浮いてくるものを取り除き、最後にざるに入れて水を切った。


作っておいたタレに漬け込む。

白っぽかった卵が、鮮やかな朱色に変わる。

清潔な容器に小分けにし、1日置いた後、食べない分は冷凍する。


「イクラの醤油漬け出来たわ!」

「おおー!」

「お寿司のイクラにゃ?」

「お寿司やさんのは、塩漬けかな?」

「ユメ、寿司屋のイクラより旨いぞ!」



筋子(鮭の卵)が4匹分も手に入ったので、イクラの醤油漬けを作った。

ただ、ソウとユメの3人で食べるにはさすがに多すぎる。


「ソウ、転移組の人、招待ってできるかな?」

「手紙出すだけなら構わないよ」

「えーと、9人?」

「料理人なら6人、医療従事者と案内役も合わせるなら14人」

「うーん11~12人前くらいだから9人が限界なのよね」

「じゃあ、料理人だけにして、俺らは2回食べれば?」

「うん、そうする」


名簿にあった、あと3人の料理人はどうしたんだろう?



◇ーーーーー◇

イクラ丼 食べませんか


新鮮な鮭とイクラが手に入ったので、イクラの醤油漬けを作りました。

ながらく魚類を食べていないので、いかがですか?

予定は一週間後の日曜日のお昼頃です。


ランチとおやつの店 アルストロメリア 

          店主 ユリ・ハナノ

◇ーーーーー◇


手紙を作って、ソウに配って貰ったら、そのまま返事があった。


王都組は、どうしても食べたいので行きたいが、距離的に無理。

ご近所組は、自分の店を休んででも行く。


連れてくるのは実質的に難しいらしい。

どうしたら良いだろうと悩んでいると、ユメが呆れたように言った。


「ご飯の方を運べば良いにゃ」

「なるほど!」


再びソウは転移しようとして、とっさにユメをつれていった。


戻ってきたソウとユメは、丼や、ラーメンの器のような揃わない器を持ってきた。

返しに来なくて良いように、連絡と交換に預かってきたらしい。


「皆、楽しみにしてるって」

「そうなのね。良かったわ」


でも、みんな来ないなら、冷凍の醤油漬けを配ればよかったのかしら?

店まで来るのは、ラーメン屋のコバヤシと、焼肉屋のハヤシだけらしい。残りのメンバーは王都に居るのだそうだ。



◇◇◇◇◇


転移組その後


転移組の基本的身分は貴族扱いである。


イチロウ・モリ (日本料理)

寿司割烹の店を営んでいて、募集要項の寿司屋に×がついていたので、日本料理として申し込んだが、ここは魚を食べない国なので何も作れず廃業

事前説明がなかった救済措置で、他者の所で修行中。

パープル侯爵領に出店予定


ケンジ・スズキ (フランス料理)

存在しない人物・名簿の人数合わせ

(つまり、サクラ)


マコト・コバヤシ (ラーメン店)

ほどほどに成功している。

パープル侯爵領に出店


ダイゴ・サカキバラ (イタリア料理)

ほどほどに成功している。

実態はピザ屋

ピザソース類を大量に持ち込んでいる。

王都に出店


ヒサシ・ハナダ (焼き鳥・串焼き)

かなり成功している。

鳥をさばけるため猟師から直接仕入れている。

修行中のイチロウ・モリを預かっている。

王都に出店


ススム・タケシタ (お好焼き・鉄板焼)

ほどほどに成功している。

但し、青海苔、鰹節、ソース、マヨネーズは持ち込んだ物のみ

王都に出店


ジン・ハヤシ (焼き肉・しゃぶしゃぶ)

ほどほどに成功している。

たれを自分で配合しているため。

但し、焼き肉のみの営業。

高級肉の薄切りができないので。

パープル侯爵領に出店


ユウ・サエキ (中華料理)

存在しない人物・名簿の人数合わせ

(案内人の兄弟の名義)


ハルト・ムトウ (和食・小料理)

王都に出店も、元々スナック経営者で、料理を一から作ることができないため廃業

規約違反者のため救済措置なし。

王都で労働階級に転落


ユリ・ハナノ (洋食一般)

かなり成功している。

ソウの領地(パープル侯爵領内)に出店

安すぎる価格設定&食べると癒される為。



こう見ると、文明を理解して来たのは、焼き鳥屋とユリだけのようである。


◇◇◇◇◇◇

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