不明
時間的にもちょうど良いので、とりあえず、お昼ご飯を食べる準備をしましょう。ということで、全員片付けをすることになった。
ユリは、先にケーキを仕上げてあるので、ユメとリラが来たら食べさせようと思っていたのに、いつになっても二人が来ない。
ケーキを食べるだけなら、私が帰る頃に迎えに来る予定なのかしらね?
そう考えていたユリだったが、ユリを呼びに来たメイドに、侯爵夫妻のところに行くと部屋に案内されて驚いた。
すでにユメがいた。ソウもいる。王妃まで。
どういうこと?
ソウから「ユリ、こっちに座って」と呼ばれ、ソウの横に静かに着席した。
「ユリ、呼び出してごめんなのにゃ」
「え、いいけど、ユメちゃんいつ来たの?」
「いつもくらいに来たのにゃ」
いつもくらいって、9時頃?
「えー!今までどこにいたの?」
「栗剥き手伝ってたのにゃ!」
「・・・」「・・・」「・・・」「・・・」
うわー、全員微妙な顔してる。
そりゃそうだよねー。
「お屋敷の調理場にいたの!?」
「リラはまだ手伝ってるにゃ」
「そうなのね。あ、みなさん、お話を中断させてすみません」
「ユメ様、このお話はいつ公表されるのですか? 」
「服ができてからにゃ。城で話すにゃ」
王妃とユメの話し合いのようだ。
パープル侯爵夫妻がバラバラにいるのは、ローズマリーさんが、ユメちゃんの侍女をしているからなのかな?
今までどんな話をしていたとしても、王妃が、抜け出してからなので、たいした時間ではない。がしかし、ユメがユリには聞かせたくなかった内容は、すでに話したあとだった。
「お呼び立て致しまして、申し訳ございませんでした」
「もう良いのにゃ?」
「城でお持ちしております」
「帰るのにゃ?ご飯食べないのにゃ?」
「すぐに帰る予定でしたので・・・」
「ローズマリー、貴族25人は誰までにゃ?」
「王妃殿下の護衛騎士と従者を含む人数でございます」
「なら、栗ご飯とロールチキン、王妃の分もあるにゃ」
ユメが、作るのを手伝ったのだから食べていけと、無理矢理すすめていた。
王族って、毒味とか必要なんじゃないの?と思ったけど、ユメちゃんの方が偉いのならそのまま食べるべきなのかなぁ?
いつものランチルームに案内され、私は、ソウとユメと、パープル侯爵夫妻と、アルストロメリア会のメンバーで食べた。
栗ご飯は大変良くできていた。
鍋で炊いているだろうに、凄いなぁ。と思っていると、どうやらリラが監修したらしく、塩加減もバッチリだった。
他のメンバーにも好評で、また食べたいと言っていたのを聞いた。
ロールチキンも、良くできていて、大分練習したのかな?と思われるほど、形もきれいだった。
最後に出てきたリンゴがウサギリンゴで驚いていたら、これもユメの仕業らしかった。
ユメちゃんは何しに来たんだろう?
王妃は、いつものランチルームには来なかったけど、栗ご飯を食べていったらしい。
ユメに、「大変美味しゅうございました」と、言伝てがあった。
「ユメちゃん、午後はどうするの?」
「ユリはなにするにゃ?」
「私は、パイの続きを教えるわ」
「手伝うにゃ!」
「私はありがたいけど、他の人たちは大丈夫なの?」
「にゃー、ダメだったらリラのところに行くのにゃ」
「わかったわ」
ソウは引き続き、パープル侯爵と話すことがあるらしい。
アルストロメリア会の午後は、14時から開始することになった。
食休みに大分時間があるので、先日の赤紫蘇の生えていた場所を見に行ってみた。
なんと、柵が作られ、入れなくなっていた。
「あらら、立ち入り禁止みたい」
「本当だにゃー」
「どうかされましたか?」
ふりむくと、庭師の二人が立っていた。先日ハサミを貸して(?)くれた人だ。
「ここって、本当は立ち入り禁止だったんですか?」
「いえいえ、あの後なりました。間違って除草されないようにするためです」
「種をとるためですか?」
「はい。畑で栽培するように申しつかりました」
「それは、お仕事を増やしてしまってごめんなさい」
「とんでもございません。とても美味しかったのです。奥様にご指示いただかなくとも、おそらくメイドの誰かには頼まれたことかと思います」
その後、庭師の二人はニコニコと立ち去っていった。
◇◇◇◇◇
ユリとユメが庭を散歩していた頃、ソウとパープル侯爵は、いまいち伝わらない会話をしていた。
「ここより西側の大きな川、あれって、どこの領地?」
「隣の領地との境の事でしょうか?」
「たぶんそれ」
「川が、どうかされましたか?」
「あの川の魚って、とって良い?」
「魚など、どうされるのですか?」
「え、食べるんだけど?」
「川魚をですか?」
「その予定」
なにか思い出したのか、パープル侯爵がすごく嫌そうな顔をした。
「泥臭いですし、骨だらけで、わざわざあのようなものを召し上がらずとも・・・」
「で、とっても問題ないわけ?」
「おそらく隣の領地からも魚に関してなにか言って来ることはないかと思われますが・・・」
「了解。なにか言われたら、直接俺に言えって、言っといてよ」
「かしこまりました」
この国は、食べるものに恵まれ過ぎていて、面倒なものを調理したり、面倒な手間の料理を作ろうと言う風潮があまりない。
ただし、災害復興等の為の自衛軍があり、貴族男性のほとんどは数年間軍に所属したことがあり、簡単なサバイバル調理経験がある。その為、川魚は食べるのが面倒で泥臭いと思っているのである。
この国では、料理は基本的に、男性がする仕事なのだ。
(平民の家庭では、男女関係なく家族の誰かがします)
◇◇◇◇◇
「ユメちゃん、いなくならないよね?」
「ユリ、なんか言ったにゃ?」
「ユメちゃん、言えないことは聞かないけど、いきなり居なくなったりしないでね」
「わかったのにゃ」
先ほど途中参加だった話し合いを、ユリは考えていた。
私がいない間に、何を話し合ったのだろう?
ユメちゃんは、教えてくれないみたいだけど、ソウに聞いたら教えてくれるのかしら?
王妃さんは、わざわざユメちゃんと話すために来たってことよね?帰っちゃったみたいだし。
「ユリ、クロッカンに使うパイを、クッキーの型抜きを使ったら素敵だと思うとリラと話したにゃ」
「え、うん」
「それで、黒猫の型抜きで作ったら良いと思うと私が言ったのにゃ」
「うん」
「そしたらリラが、唸るほど考えたあげく、『クロ猫ッカン』って、言ったのにゃ」
「え・・・オヤジギャグ? と言うか、言語の齟齬はどうなってるの?」
「リラが言った『猫』は、ユリと同じ言葉だったと思うにゃ」
「王国語って、日本語に近いの?」
「文法は日本語に近いにゃ。単語は、世界各国混ざってる感じにゃ」
「フランス語が伝わらないのは?」
「自動翻訳の魔法を組むときに、単語登録を拒否されたからだと思うにゃ」
「・・・? 」
「すごーく、疑問だったことを聞いても良いかな?」
「なんにゃ?」
「この国、この世界って、どこにあるの?」
「どことは、どういう意味にゃ?」
「先日、私が元居た国に一緒に行ったわね」
「そうだにゃ」
「それと、この国の位置関係と言うか距離と言うか、」
「ユリの言っている意味がよくわからないにゃ」
「言い方を変えるわね。私は、次元の扉の先にある国に来たつもりなんだけど、先日帰るとき、ソウとユメちゃんは、転移と結界越えだって話していたから、もしかして、ここは地球上のどこかなのかなと」
「ここが異界なのは確かにゃ。この国は、魔力がないと住めないにゃ。魔力がないと酩酊してそのままになるにゃ」
メイドが現れて告げてきた。
「ユリ様、皆様探されていらっしゃいます」
「あ、すみません。すぐ戻ります」
アルストロメリア会に戻ることになった。