千葉
気を取り直し、アルストロメリア会をはじめた。
冬箱を開けると、百合の花のカードが乗っていた。よく見ると、他のパイ生地にも花のカードが乗っている。
名前の代わりなのかしら?
「はい、昨日と同じように、三つ折り、四つ折りをしてください」
皆もくもくと作業に入った。
「できたら冬箱で休ませます」
できた人から冬箱にしまいに来た。
「次は、カスタードクリームを作ります」
「小麦粉、コーンスターチ、グラニュー糖1/3をよく混ぜておいてください」
「ボールに卵黄をいれ、ホイッパーで混ぜてから残りのグラニュー糖を加え、しっかりよく混ぜます」
「ここに粉類を合わせ、粘りがでない程度に混ぜます」
「温めた牛乳を加えしっかり混ぜたら裏ごします」
「鍋とスパテラでしっかり混ぜながら中くらいの火で加熱します。あまり弱い火力だとおいしく出来上がりません。強すぎると鍋の回りが焦げます」
「とろみがついてきたら気を付けて加熱します。混ぜすぎると腰が抜けて、柔らかくなってしまいます」
「最後に、バター少々を加えます。扱いやすくなります」
「出来上がったら氷を当てるなどして急激に冷やします。バニラエッセンスを加えます。バニラエッセンスは、バニラの香りをアルコールで抽出したものです」
「バットなどにいれ、固く絞った清潔な濡れ布巾をかけて、冬箱に保存します」
「パイに戻ります」
「ある程度まで伸します。ここから先は、使う分だけ伸します」
「希望がある場合に限りますが、パルミエ、リーフパイ、フルーツパイをついでに教えることができます。どうしますか?」
「ユリ先生!、『ついで』で、できるものなのですか?」
「パイ生地余りますし、そんなに難しくないので、『ついで』です。パルミエもリーフパイも、グラニュー糖だけでできます。フルーツパイは、カスタードクリームと焼いても良いフルーツだけで、できます」
「私は挑戦を希望します」
「私も希望します」
「はい。では希望されない方は、少しお休みしてください」
王妃だけが、希望しないようだった。
それを確認したローズマリーも抜けようとしたが、王妃は、「あなたは習ってきて、私に少し分けてちょうだい」と言い、ローズマリーをこちらに返した。
「4~5mmに伸したパイ生地は、リーフパイはそのまま使います。菊型で抜いて、グラニュー糖をつけながら中央から上下に伸し、裏表を返し、ナイフで葉脈をつけ少し休ませてから鉄板で焼くだけです。
パルミエは、薄く伸ばし、刷毛で水を塗り、グラニュー糖を裏表につけます。中心を一度折って確認してから、両側1/8位のところを折り曲げ、更に折り曲げ、両端を合わせたら少し休ませます。休ませた後、よく切れるナイフで、5~10mm幅に切り、少し形を整えて鉄板で焼きます。
フルーツパイも、生地をそのまま使います。正方形に切り、斜めに折って三角にします。輪の方から2箇所切り込み三角を開きます。切り込んだ耳を、反対側の繋がっている場所に乗せる感じで、交差させます。すると、容器の形になるので、中心部にカスタードクリームをしぼり、フルーツを乗せて焼くだけです。生地をくっつけるために、水か、溶き卵を塗ると良いです。重ねた耳の部分にも溶き卵を塗ると、美味しそうに焼けます。カット面に、玉子が垂れないように気を付けて塗ってください」
ユリは説明しながら手早く作り、とりあえず見本を先に仕上げた。
「全部作る必要はないので、試してみたい物だけどうぞー。私が今、見本で作ったものは、先に焼きますので、焼き上がりを見てから考えても良いと思いますよ」
「では、ミルフィーユに戻ります。王妃さん、よろしいですか?」
「はいどうぞ」
「一緒に作業してください。ミルフィーユは、生地を薄く伸します。かなり大きく伸しますが、実際食べ難いお菓子なので、小さく作る方が、食べやすいかもしれません」
「ユリ先生!、きれいな四角になりません!」
「端の方を気持ち残す感じで伸してください」
「伸したら、ピケローラーをかけます。中央から外に向かって転がしてください」
「キャッ!生地がついてきましたわ!!」
「そっと回して外してください。必ず中央から外に向かって転がしてくださーい!」
「休ませたあと、粉糖を振るい、裏表を返して、上にも鉄板を重ねて、これを焼き、膨らみが収まったら上の鉄板を外して、粉糖を振るい、焼き色をつけます。釜からだし、冷まします」
「先程のリーフパイ、パルミエ、フルーツパイ(アプリコット、ブルーベリー)が出来上がりました」
わらわらと寄ってきた。
作りたいものが決まったらしい。
ユリは、リーフパイに使った端を集めてクロッカンを作った。
「こちらはクロッカンです。余った端などを1cm角程度に切り、好きなローストナッツとグラニュー糖をまぜ、型に入れて焼くだけです」
「そのために、色々作るのですね!」
「パルミエは、内側に塗る水の代わりに、イチゴジャムを塗ると、色のついた可愛らしい感じになります。また、シナモンや、ココアをグラニュー糖に混ぜると、味のついたものが作れます」
「はい。こちらが、ミルフィーユ用に焼いたパイです。これを正確に三等分します。大きさ定規を作り、あてながら切ると良いです。上下に使う分は、きれいな1枚ものを使用し、真ん中に使う分は、割れたものを集めたものでも構いません」
「わ、割れてしまいましたわ、2枚・・・」
「上に使う1枚がきれいでさえあればなんとかなります」
「一番きれいな分を決め、二番目にきれいなものを下にします。カスタードクリームを薄く塗ったあと、イチゴを挟んで、大きめの丸口金で、長く絞り、平らにならします。三番目にきれいなものを間に挟み、同じように重ねます。柔らかくてやりにくい場合は、少し冷やしてから次の段を作ってください。一番上にきれいなパイを重ねます。このままでも良いですし、側面を塗りつぶして、細かく割った余ったパイを付けても良いです」
「しっかり冷やしてから切り分けます」
「失礼致します」
メイドが声をかけてきた。
外から呼んでいる人がいるらしい。
話を聞くと、制服を着た騎士が、王妃を呼びに来たようだ。
うっすら届く言葉に、「見つかりました」と聞こえた。なにか探していたのかしら?
王妃は、中座を詫びて、騎士と一緒にどこかへいってしまった。
まあ、作業はほぼ終わっているので、残りのパイはランチの後するつもりだったし、今残っているのは片付けくらいだ。
ミルフィーユは、千枚の葉っぱという意味のフランス語です。