色素
お休みも残り3日になった。
以外と遅くまで寝ていられないもので、今日も普段通りに目が覚めた。
ソウと朝ご飯を食べた後、いまだに開けていなかった、未整理の段ボール箱や、秋冬物の衣類を出して整理した。
「ユリー、ラムネ食べちゃったのにゃ。もう作れないのにゃ?」
リラに渡す前に食べ終わってしまったらしい。
「あら、おはよう ユメちゃん。ラムネ作る?」
「作れるのにゃ?」
「材料的には可能よ。かき氷シロップはないけど、天然色素で色付けすれば良いしね」
「何を使うにゃ?」
「青は、バタフライピー。赤は、ビーツ。黄色はあれば、くちなしね。香りがしないけど、味はあまり変わらないと思うわよ」
「手伝うから作ってにゃ!」
「良いわよ。今から作る?」
「お願いするにゃ!」
「黄色がすぐには用意できないから青と赤だけで良い?」
「それで良いにゃ!」
袋の中に、粉糖、コーンスターチ、クエン酸をよく混ぜ、濃い色水を加え均一になるまで混ぜる。水っぽさがなくなったら重曹を加え混ぜる。
かき氷シロップよりも濃度がないため、少し水分は控えめにする。
ユメが青いラムネを担当した。
「にゃ! バタフライピーは青いのに、入れたら桃色になったにゃ!」
「クエン酸が入っているからね」
「青いラムネにならないのにゃ?」
「重曹を入れれば、又青くなると思うわ」
重曹を混ぜたが、少し斑になっているようだった。
「青いところと青くないところがあるにゃ・・・」
「粗い目の網で濾して良く混ぜると均一になるわよ」
大きなストレーナーを持ってきてラムネの素を手で押し出すようにして濾した。
サラサラの状態になり扱いやすくなった。
「あ、計量スプーン同じの二つ無いわね・・・ならこれを使いましょう」
ユリはプラスチック製の製氷皿を二つ持ってきた。
ハートと、星と、三角形が並んでいる。
先に作ってあったビーツで色付けしたラムネの素をハートの型のいっぱいまで入れ表面をおおよそ馴らしてから同じ型の製氷皿を重ねて裏側でぎゅーっと押し込んだ。
はみ出た分をきれいに払い、脇の盛り上がる分を竹串でおとしてからそっと伏せ余計な分をおとした。
今度は木のまな板の上に、トンとリズミカルに伏せた。
型からラムネが一気に外れ、ハート型のラムネがたくさん出来上がった。
「凄いにゃ!」
「青いのはどの形にする?」
「星が良いにゃ!」
「失敗しても直せるから、ユメちゃん作ってみる?」
「やってみるにゃ!」
ユメが作ると、きれいなものと、崩れるものがあった。
きれいなものも移動させようと持ち上げると崩壊した。
「にゃー! 崩れたにゃー」
「押し込みが弱いのかもしれないわね。体重かけて押し込むと良いわよ」
「にゃるほどにゃー」
もう一度作り直し、かなり念入りに押し潰すと、今度は形がきれいに出来上がった。
「きれいにできたにゃー!」
「良かったわね」
残りの赤いラムネの素も全てユメが作った。
「今日一日乾燥させると良いわよ」
「わかったにゃ」
ソウが様子を見に来た。
「何やってるの?」
「ラムネ作ったにゃ!」
「あ、これラムネなんだ。この星型どうやったの?」
「製氷皿よ」
「へぇー。売り物みたいに綺麗にできるもんだなぁ」
「ユメちゃんが作ったのよ」
「凄いなユメ!」
「リラに渡すのにゃ!」
「これ、売れそうだな」
「クエン酸が手に入らないから難しいかな・・・」
「ユリ、材料系は持ち込んでも大丈夫だぞ? 持ち込み素材のままの販売を禁止してるけど、クエン酸は、例えそのまま販売することがあっても、そのまま使わないだろ?」
「まあ、そうね。紫蘇ジュースもクエン酸要るけど、溶かしてしまうものね」
「紫蘇ジュース! そういえば今年飲んでない!」
「赤紫蘇見かけなかったし」
「ユリ、紫蘇ジュースは、紫蘇と何があれば作れるの?」
「赤紫蘇と、クエン酸もしくはお酢と、砂糖よ」
「クエン酸はどこで売ってる?ユリに聞いた店は売り切れだったよ」
「スーパーの製菓材料コーナーか、薬局ね」
「揃えたら作ってくれる?」
「良いわよ。あ、少し多めに用意してもらえる?」
「売るの?」
「アンチエイジングって言われてたはずだから、アルストロメリア会に提供しようかと・・・パニックになるかしら?」
「まあ、買ってきてくれとは言われるかもね」
「というか、まだ売ってるかしら?梅干しの時期が終わると見かけなくなるのよね」
「あ、そうか、売ってないかもしれないのか」
ソウが考え込んでるとユメが呟いた。
「赤い紫蘇にゃ? どっかで見たにゃ」
「え、生えている場所があるの?」
「葉っぱ、良い匂いだったにゃ」
「ユメちゃん、思い出してー」
「たぶん、パープル邸にゃ」
「よし、今から行こう」
「昨日も行った気が・・・」
ユリは、残りのクエン酸をポケットに持ったまま、ソウが転移した。
ユメは自力らしい。
前々回来た部屋だった。
ソウがハンドベルを鳴らすと、すぐにメイドがやって来た。
「庭の草を貰っても良い?」
「草でございますか?ただいま聞いて参ります」
少し時間をおいて、ラベンダーが顔を出した。
「ユリ先生!」
「ラベンダーさん。突然来てごめんなさいね。たぶんお庭にある草で、欲しいものがあって・・・」
「いえいえ、ようこそお越しくださいました。ただ、父も母も不在にしておりまして、私でわかることでしたら」
「赤紫色の葉っぱにゃ。東側に生えてたにゃ!」
「私もご一緒してもよろしいですか?」
「むしろ、ご同行願います」
ユメの案内でぞろぞろと建物の東側に向かった。
途中庭師に声をかけ、ハサミを借りたら、お嬢様が土で汚れたものを持つなどあり得ないと言って、ついてきた。
マーガレットとメイドに見つかり、さらに大所帯になった。
ユメの案内で赤紫蘇と思われる植物が生えている場所につくと、完全に雑草として大量に生えていた。
「ユリ、これにゃ?」
「確かに赤紫蘇ね」
「お!これで紫蘇ジュースが飲める!」
「ユリ先生、何か作るのですか?でしたら厨房をお使いくださいませ!」
「あ、うん・・・」
ユリは庭師に声をかけ、赤紫蘇を全ては刈らないように収穫して貰った。
収穫している間にラベンダーとマーガレットは割烹着を取ってきて貰ったらしく、準備万端だった。
「見てこいと言われましたー」
料理人が偵察(?)に来た。
どうせならと手伝ってもらうことにした。
「枝から葉っぱだけをもいで、良く洗います」
大量なので、手があるのは助かる。
「洗っている間に鍋に湯を沸かします」
「何度洗っても汚れがあるのですね!」
「そうですね。3回位は水を変え洗った方が良いです」
メイドも参加してみんなで葉っぱを洗った。
「ソウ、砂糖を量ってもらえる?」
「Ok! 手伝わないと飲めなさそうだよな!」
ソウは笑いながらグラニュー糖を計量していた。
ユメはもちろん洗う方に参加している。
洗い終わった赤紫蘇がざるに積み上がっていく。
全て洗い終わる頃、ちょうどお湯も沸いた。
「洗ったこの葉っぱをしっかり茹でます」
いくつかの鍋に分けてお湯を沸かしているので、赤紫蘇も鍋の数に分けて茹でた。
「10~15分しっかり茹でたら、網などで濾します。使うのは液体の方です」
「なんだか赤黒いですわね」
「ここに、魔法の粉を加えます」
ユリはひとつの鍋にクエン酸を入れた。
「うわ!綺麗な色になりましたわ!!」
「お酢でもできます、ふふふ」
「お酢を!」
「かしこまりました!」
メイドが急いでお酢を取りに行った。
「順序はどちらでも良いので、砂糖を加えてください」
「はい」「はい」「はいにゃー」
砂糖を加え、良く混ぜ溶かした。
戻って来たメイドは、色々な酢を持ってきた。
色が響かないものを選び、全て違うものを加えた。
「これで出来上がりですか?」
「冷えたら、氷水で割って飲むと美容に良いらしいです。あと、アレルギー緩和にも良いらしいです」
美容にと言った瞬間、女性たちの目が変わった。
空いているワインの瓶を集めてきて洗い出した。
保存容器の確保だと思われる。
鍋ひとつが4リットル位なので、ワイン瓶5本分出来上がる。
その鍋が5つあるので、26瓶ほどになった。
ユリたちに6本(クエン酸2、お酢各1)
ラベンダー5本、マーガレット5本、ローズマリーに5本とりわけ、残り5本を屋敷の使用人で分けることになった。
「この半端に余って混ぜた残りは今ここにいる皆さんで飲んでみましょう」
手伝ってくれた庭師も呼んできてもらい、カップと氷水を用意させ、人数を数えて全員分作った。
「うわー!きれいですねー!」
「綺麗な色にゃ!」
「どうぞー飲んでみてください」
「あ、美味しい!」「美味しい!」
「うまいな!夏の味だ!」
「美味しいにゃ!」
「今まで花の可愛い雑草だと思ってました」
メイドの一人が呟いた。
「その花も食べられますし、この草は色々使い道があるんです。私の国では、赤紫蘇と呼びます」
その後和やかに解散になり、ユリたちは転移で戻ったが、屋敷に帰って来たローズマリーが話を聞き、赤紫蘇を栽培するように指示を出したと、後日聞くことになった。




