衣装
「おはようにゃ!戻ったにゃ!」
「え!ユメちゃん!?」
「縮んだ・・・」
戻ったってことは、こっちが基本なの?
ソウと朝ご飯を食べていると、ユメが120cmサイズの黒髪猫耳のユメで現れた。
「もう大きくならないの?」
「大きくもなれるにゃ! でも着替えがいるにゃ」
「私にはこちらの服は用意できないから、ローズマリーさんに相談しましょうか」
「それで頼むにゃ」
「今から行くか?」
「私は構わないわ」
ソウが馬車をとってきてパープル侯爵邸に出掛けることになった。
朝ご飯を食べていないユメのためにパウンドケーキも少し持った。
「侯爵邸に行くから、ユリとユメは客車に乗ってくれ」
「はい。ありがとう」
「ありがとにゃ!」
「ユメちゃん、何を揃えれば良いの?私はドレスとか全くわからないけど」
「ローズマリーに言えば大丈夫にゃ」
「大きくなる時、服がいるんだよね? 大きなシーツとか必要?」
「王族だったときは使用人の前では普通に裸だったにゃ」
「なるほど。湯浴みとか着替えとか手伝うのね」
「一人でもできるにゃ。子供の頃は一人でやってたにゃ」
子供の時は一人で、大人になってからは使用人が居たの?
王族って良くわからないわね?
パープル侯爵邸につくと、執事がとんできた。
予告なしで来ても良いとは言われてはいたが、来ればやはり慌てるのだと思う。
先にソウと話した執事は、客車を開けて告げてきた。
「奥さまはもうすぐ戻られます。お部屋の方へご案内いたします」
着替える事になるだろうと言うことで、ソウは侯爵の所に行くらしい。
来たことの無い客間に案内され、お茶を出されて少し待っていると、ローズマリーが帰ってきたようだ。
「ユリ様、ユメ様、ようこそお越しくださいました」
「突然ですみません。私ではわからなく、ローズマリーさんに相談があって来ました」
「どのようなことですの?」
すると、ユメが一歩前に出た。
「ローズマリー、信頼のおける侍女以外下がらせるのにゃ」
「仰せの通りに。サリー以外下がりなさい」
「ユリが気にするのにゃ、シーツを1枚欲しいのにゃ」
「かしこまりました」
サリーが持ってきたシーツを、床にたっぷりつく長さで片腕を出し、反対側の肩の上で結ぶと、ユメは変身した。
ぽぅっと淡く光った後、更に強く発光し、170cmの金髪美人に変わる。
ローズマリーが呟いた。
「しょ、初代様!」
ローズマリーは予想していたのかあまり驚かなかったが、サリーは あんぐり口を開けて驚いていた。
「我が登城する為の衣装を整えよ」
「かしこまりました。サリー、サリー?」
「も、申し訳ございません。針子を呼んで参ります」
われに返ったサリーが針子を呼びに行き、ローズマリーは、感激で泣きそうだった。
すぐに 戻ってきたサリーは、薄い下着のようなワンピースと、2人の針子をつれていた。
薄い下着をユメに着せ、張り子がサイズを計っていった。
「ローズマリーさん、靴はどうしたら良いですか?」
「靴は外から呼ばないと用意は難しいですの。お時間が大丈夫でしたらすぐに呼びつけますわ」
「ご面倒かと思いますが、呼んでください」
「サリー、手配を」
「かしこまりました」
今計っているのは所詮室内着などの服で、ドレスは専門のデザイナーを呼ぶのだとか。
それも靴屋と一緒に来るらしく、ユメは一度120cmサイズに戻った。
「なんとお呼びしたらよろしいのでしょうか?」
ローズマリーは、ユリに聞いてきた。
恐れ多くて本人には聞けないらしい。
「ユメちゃん、今の姿の時はユメちゃんで良いのよね?」
「ユメで良いにゃ」
「金髪の時は?」
「難しいにゃ。現王がいるからユグドラシルだと誰かわからないにゃ。ルレーブでも初代でも何でも良いにゃ」
「ローズマリーさんが困っちゃうから決めた方が良いと思うわよ?」
「ローズマリーは、ルレーブでも初代でも好きに呼んで良いにゃ」
「他の人は?」
「初代か、グリーンと呼ぶと良いにゃ」
「ありがたき幸せにございます」
とりあえず、デザイナーたちはすぐには来ないのでお茶をすることになった。
サリーがソウとパープル侯爵を呼んできた。
パープル侯爵はソウから聞いていたのかユメの事を把握しているようだったのに、ソウに、「なんとお呼びするべきでしょうか?」と聞いていた。
「初代か、グリーンと呼ぶと良いにゃ」
「初代陛下」
「ユメの時は今まで通りユメで良いにゃ」
「では ユメ様、馬車も設えますか?」
「あ、馬車は要らないよ。うちの使うか、転移するから」
「確かに、ホシミ様の馬車より上等な馬車は無理でございます」
「衣装はいつできるにゃ?」
「今日計って、最短で3週間ほどかと」
「正装1着で良いにゃ」
「え?」「は?」
「ユメは城には住まないよ」
「城には私物を取りに行くにゃ。あと、引き継ぎにゃ」
「君臨されないのですか?」
「今の政治はわからないにゃ。最後の仕事をしに行くにゃ」
突然ローズマリーに聞かれた。
「ユリ様、正装お作りいたしますか?」
「え!? 私? 私も何か着るんですか?」
「俺は一応礼装持ってるよ」
ソウが持ってるとは、なんのことだろう?
「え? あー、一番始めの服?」
「そう、それ」
あー、あの舞台衣裳みたいな服ね。
あれは礼装だったのね。
でも女性はドレスよね?
「作った方が良いなら、まあ、・・・コルセット絞めない礼装だか正装ってありますか?」
「他国の民族衣装でも大丈夫でございます」
民族衣装って、振り袖? コルセットと変わらない気がする。
うーん、と考えていると、ソウが思い付いたとばかりに言い出した。
「聖女の正装なら普通に歩けるし、苦しくないよ!」
「え? 聖女?」
なぜ聖女?どこから出てきたの?
「ユリ、癒し使えるし、問題なし!」
「それは名案ですの! 是非そう致しましょう!」
「それが良い!」
「良いと思うにゃ!」
全員の賛成に話が進んでいく。
「どんな服なの?」
「ユリ、来る時の門の呪術者覚えてる? あんな感じ」
「白くてヒラヒラした?」
「そう、それ」
「んー、どうしても必要ならそれで良いわ」
正装なんて、いつ着る機会があるんだろう?
ドレスほど高くないだろうし、まあ、良いか。
「正装ができたら主要の貴族を呼ぶのにゃ」
「あ、それは俺が声かけとく」
え?ソウが呼ぶの?
今ここにパープル侯爵がいて、その上で?
やっぱりそれは、ソウの方が侯爵より上ってことよね?
ユメちゃんは王族で、ソウも侯爵より偉くて、私は一緒にいて良いのかしら?
「ユリ様、どうされましたの?」
考え込んでいたら、ローズマリーが心配して聞いてきた。
「あ、みんな貴族で私だけ平民かなって」
こんな規格外の平民がいてたまるか!とユリ以外の全員が思った。
「ユリ、ユリの魔力は貴族よりはるかに多いにゃ。今の王族よりもはるかに多いにゃ」
「そうなの?」
「今、300pのアイス箱の充填どのくらいかかるにゃ?」
「ポンというか、ペタっと触るくらいかしら?」
時間にして2秒と言うところだ。
するとローズマリーが教えてくれた。
「現実的にはいたしませんが、普通の貴族が300ポイントの魔鉱石を充填するのにかかる時間は、約3分でございます。普通は2~3人で交代しながら行います」
「つまり100倍くらいにゃ」
「え?あれ?普通の人の100倍なの?」
「それくらい有るんじゃないか?俺も同じくらいだし」
300pの100倍って、30000p有るってこと?
でもそういえば、最初の頃は1分くらいかかっていたかも。その内 半分になって、だんだん短くなって、気がついたら触れば終わるようになった。
魔力的にはソウやユメちゃんと一緒に居てもおかしくないんだ! 良かった・・・。
ユリの表情が緩み、ソウとユメは安堵した。
「ローズマリー、魔力増やしたいにゃ?」
「増えるのですか?」
「登城するとき、侍女が要るにゃ。侍女の特典にゃ」
ローズマリーは是非ともお手伝いしたいと言い、ユメが登城するときのお世話係になった。
「ローズマリー、花、草、葉、木、どれが好きにゃ?」
「植物のローズマリーは薬草なので、草が好きでございます」
「では、ローズマリー・グラス・パープルと名乗るが良いにゃ。登城したあとになるが、名前を書き換えるにゃ」
「ありがたき幸せにございます」
ローズマリーは正式な挨拶で応えていた。
あれが正式な礼なのかしら? 体幹が良くないと引っくり返りそうだわ・・・。
「奥様、デザイナーが到着致しました」
「では、一旦失礼しよう」
ソウとパープル侯爵は部屋を出ていった。
メイドたちを外に出すと、再びユメは変身した。
今度は先ほど借りた下着のようなワンピースを被ってから変身したようだ。
デザイナーがつれてきた針子達に、ユメとユリのサイズを計らせ、どんな服を仕立てるかの説明はローズマリーがすべて決めてくれた。
差し色の希望を聞かれたが、全くわからないので、似合いそうな色でお願いしますと答えるのがユリの精一杯だった。
ユメにしてみても、正装は時代で変わるので、ローズマリーにすべて委ねているようだったが、差し色の希望では、桃色を入れてくれと言っていた。百合のルレーブの色だろう。
今度ソウに買ってきてもらおうと、ユリは考えていた。
ユメは靴も作り、デザイナーも帰り、あとは宝石類となった。
ユメに戻り、疲れて少しのびていた。
「ユメ様、宝石や王冠等はどうされますか?」
「ソウと王宮に行って持ってくるにゃ」
「え?どこから?」
「自分の部屋にゃ。他の誰も入れない部屋があるにゃ」
「調整とかしないと、金属が劣化してたりしない?」
「とりあえず見てくるにゃ」
「なら、ソウと一緒に行ってくるのね」
「ユリはどんな宝石が好きにゃ?」
「うーん、タンザナイトかなぁ」
「タンザナイトにゃ?聞いたことがないにゃ」
「青紫色の透明な宝石で、あ、タンザナイトは商標かもしれないわ。今度調べておきます」
タイミングを見てローズマリーが話しかけてきた。
「ユメ様、ユリ様、お食事は如何ですか?」
「ソウに聞いてみないと・・・」
「硬いのは嫌にゃ」
ユメがぼやいていた。
すると、ソウとパープル侯爵が戻ってきた。
「衣装換えは終わった?」
「あ、ソウ。お昼すすめられたけど」
「ハンバーグらしいよ」
「食べるにゃ!」
「ローズマリーさん、お願いします」
サリーがさっと部屋を出ていった。




