挨拶
ユリは引っ越したあとのホシミ家に初めて来た。
広い庭がある和風の素敵な家だった。
和風だけど、バリアフリーになっている。
ソウの母親が出てきてユリに気がついた。
「まあ!まあ!ユリちゃん!! 元気だった?」
「ご無沙汰しております」
「堅苦しい挨拶は良いから、ほら、早く上がってちょうだい」
「はい。お邪魔いたします」
玄関にはソウの父親が待ち構えていた。
「ユリちゃん!久しぶりだなぁ。ソウとはうまくやってる?」
「おじさま!ご無沙汰しております。ソウにはとてもよくしてもらっています」
「あなたもこんな所じゃなくて」
「おお、そうだな」
ユリは二人に手を引かれ連れていかれた。
ソウは後ろから、仕方ないなぁと言わんばかりについてきている。
高さの有る座椅子が置いてある居間に連れてこられた。
「座って座って、今お茶を持ってくるわ」
「あ、あの、お菓子作ってきました」
「あらー、気を使ってくれたのね。いつもありがとう!」
「早速食べようじゃないか!ユリちゃんの作ってくるお菓子旨いからなぁ!」
「俺、お袋を手伝ってくるよ」
ソウはユリの作ってきたパウンドケーキをもってキッチンへ行った。
ソウの父親が、ワクワクした雰囲気を隠しもせずに聞いてきた。
「ユリちゃん、今日は何かあるのかい?」
「あ、いえ、遅い夏休みです」
「そうなのか。てっきり・・・」
◇◇◇◇◇
一方、ソウと母親は、
「ソウ、ユリちゃんにプロポーズはしたの?」
「ぶほっ! なに?突然」
アイスティーを飲んでいたソウは吹き出しかけた。
「結婚の挨拶に来たんじゃないの?」
「ち、違うよ。夏休みで帰郷しただけだよ」
◇◇◇◇◇
「おまたせー。ユリちゃんはアイスティーで良いかしら?」
「はい。ありがとうございます」
すっかり結婚の挨拶だと思っていた両親は、ユリに内緒で落胆したが、ソウとユリが仲良くやっているらしいことがわかりひと安心した。
「じゃ、又来るから」
「いつでも来て良いんだからね。次は待ってるわね」
「どうもお邪魔しました」
「ユリちゃん、次も一緒にくるんだぞ!」
「?はい・・・」
ホシミ家から離れてからソウに聞いた。
「次とか待ってるって何の事?」
「あれは・・・お袋と親父が勝手に言ってるだけだから気にしなくて良いよ」
「うーん・・・わかったわ」
ユリは聞くのを諦めた。
「あとは何処に行く?」
「お墓参りに行っても良いかしら?」
「花買ったりする?」
「今日は良いわ」
「じゃ、そのままいこう」
「え、転移して大丈夫なの?」
クラっとして、もうお墓の前だった。
墓石をたてずに樹木葬にした。
両親もユリも、死後にあまり興味がなかった。
生前から、墓なんて要らない散骨で良い。と言っていたからだ。
「ユリ、線香なんて持ってたんだ」
「うん。向こうに送った荷物にね。だから持ってきた」
二人で手を合わせ冥福を祈った。
「次は一度帰ろうか」
「うん。ユメちゃん大丈夫かな・・・」
ソウの部屋に転移で戻ってきた。
部屋を出てキッチンへ行ったが、ユメもカエンもいなかった。
テーブルにはメモがあり、「少し出掛けますが、夕方には戻ります。カエン」と書いてあった。
「ソウ、カエンちゃんのメモがあったわ。夕方まで戻らないみたい」
「昼ご飯どうしようか」
「昼ご飯は適当に食べてしまって、夕ご飯は何か作りましょう。みんなの分を」
「そうだな。なら、昼は寿司でも食べよう。魚食べたいだろ?」
「そうね! でも、夕飯も恐らく魚よ。うふふ」
二人で回転寿司に行った。
ユリは普段あまり食べない生物ばかり食べていた。
帰りがけに買い物し、フライ用に鯵と天ぷら油を買った。
スーパーの買い物が懐かしすぎて、あれもこれも買いそうになり、ソウに止められた。
「冬箱と真冬箱持ってくれば良かった!」
「あー、あれは確かに画期的だな」
電源が要らない冷蔵庫や冷凍庫。便利すぎる。
「今度来ることがあったらカエンちゃんに、アイス箱さしあげようかしら?」
「あー、あれも画期的だよな」
お店に30台有るし、1台くらい良いわよね?
ユリは小声で聞いた。
「カエンちゃんって、魔力有るのよね?」
「あるな」
あ!なら、ホシミのおばさま達にも!
「おじさまとおばさまは?」
「たぶん無いな」
「そうなの!?」
「昔、俺が言ったことを試しにやってくれたが、できなかった」
何を試したのかしら?
「私にも言った?」
「イヤ、言ってないと思う。小学生の頃の話だよ。当時ユリは10歳になっていない」
ソウが、10歳の時なら私は7~8歳ね。
「えーと、(魔力は)10歳以降なんだっけ?」
「当時ユリは幸せそうだったし」
「ん? 今だって幸せよ?」
まるで今は幸せじゃないみたいな言い方はなぜ?
「そ、そうか、それなら良かった」
「ソウがいて、ユメちゃんがいて、私のお店があって、幸せに決まっているじゃない」
「そうだな」
ソウが笑顔になって良かった!
ソウも、ユリが笑顔のままで良かったと思っていたのである。
「さあ、ユメちゃんが帰ってくる前にご飯作るわよ!」
「何手伝えば良い?」
「ソウの家だから、私が聞く方なんだけど?」
「あはは、とりあえず急いで帰ろう」
「うん!」
ソウの家に戻り、ご飯の支度をしてユメの帰りを待った。
少しして、ユメが笑顔で帰ってきた。
「ユメちゃんお帰りー!」
「ユメお帰り」
「た、ただいまにゃ」
ユメがホッとしたように見えた。
カエンにも一緒に食べようとすすめたが、カエンは「水入らずな感じでどうぞ」と言って食べずに帰っていった。
「ソウ、迷惑かけてごめんなさいなのにゃ。ユリ心配かけてごめんなさいなのにゃ」
「確かに心配はしたけど、辛いことは我慢するんじゃなくて、助けてって言うのよ?」
「ユメ、明日は買い物にいこうな」
「二人とも、ありがとにゃ!」
ユメちゃんが元気になったみたいで良かった。
ユメちゃんの悩みは、いつか話してくれるかな。




