花畑
セミの脱け殻の残念な話があります。
苦手な方はご注意ください。
尚、こちらでは大分柔らかくしてありますが、ソウの発言を全て読みたい方は、クロネコのユメの方で省略せずに書いています。
ソウにつれられて歩きだした。
家の回りはどんな靴でも歩けそうな感じだったが、5分くらい歩いた時点で田舎の畦道のような感じに変わった。
「ずいぶん道が・・・」
「あー、舗装されていないからな」
「広い道が平らなのは家の回りだけなのね」
もしかすると、ソウが、舗装のなにかに関わっているのかしら?
関わりどころか、ソウが指示して道を整備したのである。
王宮から受け取った支度金は、家を建てずに、すべて地域の人を雇って道を均すのに使い、家の回りとパープル侯爵邸のある町まで平らな道になったのだった。
馬車ならともかく、歩くには幅は要らないので、ユメを先頭に一列になって歩けば支障がない。
轍のなるべく平らなところを選んで歩いた。
たまにすれ違う人に驚かれ、まれにユメを拝んでいる人もいた。
1時間くらい歩いただろうか、開けた先に色鮮やかな花の絨毯が目に留まった。
「うわー!綺麗!」
「すごいにゃー!」
コスモスが咲いていた。
桃色、白、赤紫、たくさんの花が一面に植わっている。
そよ風に揺れる姿も美しい。
作業している若い人が見えたので、一声かけると、こちらを知っているようだった。
「こんにちは!」
「ユリ・ハナノ様!こちらへはどういったご用で?」
「散歩で来ました。花畑すごいですね!」
「散歩でしたか!どうぞお好きなだけご覧になっていってください」
「ありがとうございます!」
見て回ると、コスモスの他、リコリスやクレオメが咲いていた。
リコリスは、赤、白、橙色、桃色、黄色と、色々あり華やかである。
クレオメは濃い桃色から白い花びらまでがひとつの花にあり、美しい。
「彼岸花・・・」
ソウが呟いた。
「あー、赤以外は彼岸花って呼ばないのよ」
「そうなの?」
「色を指定しないなら、リコリスと呼んだ方が良いかもしれないわね」
「へぇ」
「ユリ、これは何にゃ?」
「西洋風蝶草。クレオメという方が分かりやすいかしら?」
「どっちも知らないにゃ。りこりすも、くれおめも、豪華な飾りみたいな花にゃ」
「私も子供の頃、お姫様の冠みたいって思っていたわ!」
ユメが何か拾ってきた。
「ユリ、栗?が落ちてるにゃ」
「栗?」
見せてもらうと、栗に似ているが少し違う。
「何処にあったの?」
「そこに有ったにゃ」
ユメの指す方向をみると、キワノを小さくしたような太い突起の有る殻が落ちていた。
「あー、マロニエ! 西洋栃の木」
「栗じゃないにゃ?」
「栗ではないわね。んー、たしか渋くて食べられなかったような・・・」
「栗もあったぞ」
ソウが栗を持ってきた。
そばに落ちていたらしい。
「栗は農作物じゃないの?」
「処理が面倒だからあまり拾わないらしいぞ。以前見かけたときに同じことを聞いたんだよ」
「えー!勿体無い!」
栗としてはあまり大きくはないが、殻がたくさん落ちている。
「拾って帰って、栗ご飯にしたいわぁ」
「一応、聞いてからの方が良いかもな」
「そうね。20~30粒もあれば栗ご飯ができるわ!」
「ユリ、何号炊くつもりなの?」
「2階の炊飯器よ? 1~ 2合位しか作らないわよ?」
いくら栗が小粒でも、1合の米に栗を30粒入れたらかなり栗だらけの栗ご飯になる。
普段あまり米を食べないユリだが、栗ご飯は大好きなのだ。
「この栗がダメでも今度和栗を買ってくるよ」
「え!? あー、品種的に西洋栗なのね。むしろ剥きやすいかも?」
ふと気づくと、ユメがマロニエの実をたくさん拾っていた。どうするのだろう?
「ユメちゃん、それどうするの?」
「飾るにゃ!」
「そう。ならリュックに入れると良いわ。手に持ちきれないでしょ?」
「ユリ、ありがとにゃ!」
手に持っていた分だけかと思ったら、色々な場所のポケットから何か色々なものが出てきた。
ドングリ各種? いったいいつ拾ったのだろう?
ユメはニコニコしながらリュックに移し替えていた。
「ふふふ」
「ユリ、笑ってるにゃ?」
「ごめんなさい。ちょっと思い出して」
「面白いことにゃ?」
「ソウがユメちゃんくらいの時にね、セミの脱け殻をポケットいっぱいに入れて持ち帰ったのを、ソウのおかあさんが気が付かずに洗濯してしまって、洗濯物が、セミの脱け殻だらけになったのを見せてもらったことがあってね」
「あー、あのときはさすがに怒られた。(以後省略)」
ユメがドン引きしていた。
気がついたソウが話をやめた。
「想像したにゃ・・・」
「ごめんなさい」
「悪かった」
「これあげるにゃ」
ユメはユリに何かの種をくれた。
「なあに? あ、これ、風船葛!」
「知ってるにゃ?」
「このくらいの風船みたいな実の中にこの種が入っているのよね」
ユリは親指と人差し指で輪を作って見せた。
「来年植えましょう!」
「一緒に植えるのにゃ!約束なのにゃ!」
「はい、約束します!」
「ユリ、そろそろ食べないか? 」
「そうね。どこか座っても良い場所はあるかしら?」
「ちょっと聞いてみようか」
すぐ向こうに作業をしている年配の人が見えた。
「あのすみません。この辺で 座っても邪魔にならない場所はありますか?」
「座るのですか?」
「お弁当を食べようかと思って」
「あー、それならば良い場所がありますよ。この先をもう少し行くと、大きな切り株と丸太を横たえた椅子があるので、休憩や食事に使うと良いですよ」
「ありがとうございます!お借りしますね!」
少し歩くと、野原のような場所に、大きな切り株と丸太の椅子があった。
横たえた丸太と、1人用の椅子サイズに切ったものがある。
切り株のテーブルには、誰かのバスケットと水筒が置いてあった。
水筒が置いてある側を空けて座った。
濡れタオルをソウとユメに渡し、手を拭いてもらってからおにぎりを渡した。
ソウは冷茶を3つ注いで渡してくれた。
することがなかったユメが少しキョロキョロしていた。
「食べましょう。卵焼きとパウンドケーキもあるわよ」
「おにぎり小さくて食べやすいにゃ!」
「あれ?鮭だ」
「あ、こっちが新生姜の佃煮よ」
ソウがおにぎりに手を伸ばしたとき、先程ここをすすめてくれた人が、最初に挨拶をした人と一緒に来た。
「ご一緒させていただけますか?」
「はい。むしろ使わせていただけて助かりました」
「ありがとうございます」
「ありがとにゃ! クッキーどうぞなのにゃ!」
ユメはどこから出したのか黒猫クッキーを2枚差し出した。
あら、全部売ったのではなかったのね。
「これは可愛らしい。どうもありがとうございます」
「ありがとうございます!ユメ様」
バスケットの中身は、バケットのようなパンと、ハムだった。他にリンゴが見えた。
その場でパンをスライスし、ハムをのせて食べていた。
若いほうの人がユメに話しかけた。
「ユメ様は何を召し上がっているのですか?」
「ユリが作ったおにぎりにゃ!」
「それはオニギリと言うのですね。お店で食べるご飯を固めたものですか?」
「ユリ・・・」
ユメが助けを求めているようなのでユリが答えた。
「そうですね。お店で出すご飯を手でまとめるようにしたもので、中にちょっとおかずが入っています」
「ほう!」
「まだありますので、よろしければお一つどうぞ」
ユリは新生姜の佃煮入りの小さなおにぎりを二人に渡した。
鮭は、魚を食べる習慣がないらしい人達には、ハードルが高いだろうと考えたのだ。
「本来遠慮すべきではありますが、とても興味がありますので、ありがたくいただきます」
「ありがとうございます!!」
二人がおにぎりを頬張る。
「ん!これは!」
「甘いのに辛くて旨い!・・・何ですか?何が入っているのですか?」
小さいのですぐに食べ終わってしまい、食べ終わったことを残念そうにこちらを見ていた。
「新生姜の佃煮です。生姜はわかりますか?」
「生姜はわかります」
「生姜の若い柔らかいものを細切りにして、お砂糖とお酒と大豆から作る調味料などで煮たものです」
「お店に行けば食べられるのですか?」
「予定はないのですが、お店で売りましょうか?」
「はい!是非お願いします!」
「では、休み明けに用意しますね」
「ありがとうございます!」
そのあとは、花を育てる苦労話などを聞きながら和やかに食事をした。
帰り際に花束をもらい、持って帰るのは大変そうだということで、ソウの転移で帰ってきた。
店の前に転移してもらい、ユメは自力で転移してきた。
「ソウ、どうもありがとう」
「どういたしまして」
「ユリ、鞄返した方が良いにゃ?」
「ユメちゃんが使うならあげるわよ?」
「使うにゃ!ありがとにゃ!黒蜜が入るにゃ!」
「あー。成る程」
花は花瓶に入れ2階のリビングに飾った。




