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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
2章

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雪餅

昼休みが終わる頃、外に並んでいる人が見えた。

又アイスクリームだろうと思い 聞いて回ると、なんと半数以上は休み明けの注文についてだった。


いつも思うけど、いったいどういう情報網なのだろう?


ユリは知らないが、非公式ファンクラブの活動の成果である。

「癒しの店通信」という一枚刷りの会報誌を発行している。その中でのユリを指す名前は「食の女神」である。責任者は、領主補佐をしている「この街の偉い人」である。(一番最初にユリにお菓子屋さんをして欲しいと言った人)


雪餅アイスクリームは即販売し、注文は可能なものだけ受け付けた。

可能な注文は、ホットサンドや、過去に出したことのある店側で保存が可能なメニュー。

不可能だと思ったものは、出張営業や、パーティー料理の希望などだった。

個人の持ち帰りならともかく、パーティー料理の持ち帰りは、手も時間も足りない。


「昼休み明けたらアイスクリーム作るよ」

「お願いします。チョコ3回、ブルーベリー2回、全部ココット詰めです」


ソウとマーレイがアイスクリームを作ってくれるらしいので、任せることにした。


おやつ時間が開始になり店内が埋まると、今日のアイスクリームについて質問された。


「ご店主!この弾力の有るこれはなんですか?」

「雪餅というアイスクリームです。餅というのは、モチモチした食感の、米の一種から作られる食品です」


いまいち理解できないという感じだった。


「・・・あと、注文が可能なものがあると伺いましたが、アラレは可能ですか?」

「アラレ! そう、そのアラレは餅を油で揚げた物なんですよ!」

「なんですと!?」

「お休み明けに提供できるようにしておきますね」

「あ、ありがとうございます」


客は、狐につままれたような顔をしたまま、お礼を言っていた。


厨房に戻り、片付けをしていたリラに、ゼラチンとグラニュー糖を量るように指示した。


「それ量ったら、そろそろ釜も温度落ち着いてきたと思うからリラの華と黒猫クッキーお願いします」

「はい! あ、黒い生地お願いします」

「はい、すぐ作るわ。ユメちゃん計量手伝ってください」

「わかったにゃ!」


「すみませーん!」


店から呼んでいる声が聞こえた。


「見てくるにゃ」

「お願いします」


ユメが見に行ってくれた。

すぐに戻ってきたユメは、アイスクリームをいくつか持っていった。追加注文だったらしい。


又冷凍庫を開け、今度は袋に詰めて持っていった。持ち帰り注文らしい。


ユリはすっかり計量が終わり、クッキーの仕込みを始めた。

戻ってきたユメは、「もう量るの終わったならお店見てるにゃ」と言ってそのままお店にいってしまった。


ユリはできたクッキー生地をリラに渡すと、ゼリーの仕込みを始めた。

ユメが器にミカンを分けてくれたので、すぐに作ることができる。


オレンジジュースの一部を温め、砂糖を溶かし、ふやかしたゼラチンを加えた。

良く溶けるまで混ぜ、残りのジュースを加え、ヤカンに移した。

ミカンの入ったココットに注いでいく。

98個注いでもゼリー液は余っていたので、ガラス容器5つに分けた。


固まっていないゼリーを冷蔵庫にしまい、リラのクッキーを手伝うことにした。


途中アイスを詰め込みながらクッキーを作った。


「ユリ、わからない質問されたにゃ」

「代わります。ありがとう」


手に負えない質問をされたらしい。ユメが呼びに来た。

店に行くと、持ち帰ることのできる料理についてだった。そんな漠然とした質問では、確かにユメは困っただろう。


「ホットサンドの他に、持ち帰ることのできる料理はないのですか?」

「すぐに食べることのできる状態で、ですか?」

「それはどういう意味でしょうか?」


具体的に言った方が分かりやすいかしら?


「たとえば、焼くだけのグラタンとか、ドリアとか、かしら?」

「持ち帰り、料理人に焼かせるだけで食べられるということですか?」

「そうです。そういう状態です」

「願ってもない!」

「あ、ちょうど良いのがあるので、ちょっと待っててください」


ユリは午前中に作ったドリアの余りを詰めた、ミニミニドリアと、普通のドリアを持ってきた。


「これ、普通のと小さいドリアですが、冬箱、もしくは真冬箱で持ち帰り、おうちで焼くと食べられます」

「是非売ってください!!」

「大きい方は見本なので、小さい方は器代だけください」

「これを売ったらいくらになりますか?」

「小さい方ならドリアでもグラタンでも店売りで200☆位ですかね。持ち帰りを想定していないので、持ち帰るなら250☆になるかもしれません。大きい方は、現時点では器が貸し出せないので、食器屋さんと相談してからになります」

「わかりました、期待しておきます」

「あ、明日、ランチにミニミニグラタンを出しますよ」

「明日ランチに来ます!」

「よろしくお願いします」


結局、ミニミニドリア代は2つ分で500☆相当が置かれていた。

ユリが厨房へ行ったあと、即帰ったらしい。

ちゃんと冬箱を持っていたのかしら?

焼き方の説明もしていないけど大丈夫なのかと、ユリは心配だった。


「あの、ユリ・ハナノ様、ミニミニグラタンは、明日買えるのですか?」

「予定では、ランチ数より多く作るので、持ち帰り販売ができると思いますが、おやつタイムまでは残っていないかもしれません」

「ランチ時間に来て、残っていれば売っていただけるのですね?」

「はい。それなら大丈夫です」


あれ?ランチ数の1.5倍くらいでは足りなくなるのかしら?


とりあえずリラに、手が空いたらココット200個洗ってくださいと伝えた。


ミニミニグラタンは、4個で正規のグラタン1人前位である。

とりあえずと、50人前のグラタンの材料を計量し、予定では冷蔵でポテトグラタンを作るつもりだったユリは、持ち帰りを念頭に置き、冷凍保存することにしたのだ。


「リラちゃん、少し手伝える?」

「はい!何をしますか?」


リラは手早くクッキーを片付けユリのそばに来た。


「ココット200個に、角切りハムと、硬茹でのブロッコリー各2つずつと、マカロニを適当に入れてくれる?」

「はい!」


ユリは玉ねぎ入りのグラタン用のホワイトソースを作り、リラが用意したココットに分けていれた。


「このくらいずつチーズをのせてください」

「はい!」


2~3個を作って見せ、残りをリラに頼んだ。

ユリは、足りなくなりそうなチーズを持ってくると、ちょうど足りなくなってリラが悩んでいた。


「チーズ持ってきたわ」

「ありがとうございます!」


残りを一緒に作り、ミニミニグラタンが200個できた。


「あら熱がとれてから、100個は冷凍、100個は冷蔵でしまってください」

「はい!」


忙しくユメがアイスをもって往復しているので、手伝おうと店に行きかけたとき、ユメが番重(ばんじゅう)を持ってきた。


「ユリ、これ返すって言ってるにゃ」

「誰かが持ってきたの?」

「知らない人にゃ」

「ちょっと見てきます」


ユメは番重をリラに見せ、しまう場所を聞いていた。

ユリは店に行き、番重を持ってきた人を探した。

おそらくブルー公爵家の関係者だ。

ユリがキョロキョロしていると、外にいますよと客が教えてくれた。


ユリが外に出ると、慌ててソウが追いかけてきた。

ユメから聞いたようだ。


「ソウ・ホシミ様!先日は誠に失礼いたしました」

「ソウ、どなた?」

「ブルー公爵家の執事かな」

「重ね重ね大変失礼いたしました。ユリ・ハナノ様。私、ブルー公爵家の執事をしております。先日は多大なるご迷惑をお掛けして、」

「ユリ先生!」

「ネモフィラさん!?」


執事の言葉を遮るようにネモフィラがユリに呼び掛けた。

良く見ると、護衛3人をつれている。

ネモフィラの前に、小柄な女性に見える護衛。後ろに厳つい2人の護衛。


「番重を返すために、わざわざネモフィラさんが来たんですか?」

「私のクッキーのために体調を崩されたと伺っております。なんとお詫びしたら良いかもわからず、本当に申し訳ございません。もっと早くに伺いたかったのですが、遅くなり重ね重ね申し訳ございません」

「もう大丈夫なので、気にしないでください。注文はネモフィラさんがご存じなかったと伺っています」

「それはそうなのですが・・・」


ユリにしてみれば過ぎたことなので、本当にもう良かったのである。


「お店で食べるわけにはいかないんですよね?」

「はい・・・」

「なら、今日のアイスクリームを買って帰りますか?真冬箱はお持ちですか?」

「真冬箱は馬車にございますが、よろしいのですか?」

「在庫を聞いてきますね」


店に戻り、ユメにアイスクリームの残数を聞いた。

予約分を除いても、まだかなりあるらしい。

外に戻るとソウは執事と話していた。


「今日のアイスクリームは、雪餅です。モチモチの生地に包まれたアイスクリームです」

「いくつまで購入できるのですか?」

「1人2つなので、えーと、10個迄大丈夫です」

「では、10個お願いします」

「真冬箱を渡していただければ入れてきますが、こちらの袋に入れて持ってきますか?」

「袋に入れてください」

「はい、持ってきますね」


ユリは冷凍庫から雪餅アイスクリームを袋に分けていれた。


どうやら入れ替わりでユメが黒猫クッキーを売り付けた(?)らしい。ユリがアイスクリームを持っていくと、騎士を含めた全員が黒猫クッキーを手に持っていた。

ソウが少し笑っていた。


「あ、ユリ、代済み」

「え、そうなの?ソウありがとう。ネモフィラさん、お買い上げありがとうございます」

「ユリ先生、又よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」


歩き出す前に、騎士が持っているクッキーは執事が回収していた。まあ、手にお菓子を持っていては仕事にならないだろう。


ネモフィラの馬車が見えなくなると、ソウが10万☆を渡してきた。


「え?なに?」

「今のお代」

「え?何をいくらで売ったの?」

「アイスクリーム500☆、袋代100☆で、5300☆請求した。ユメが来て黒猫クッキーは値段が決まってないにゃ!と言ったら、お納めくださいって10万☆渡された」

「えー」

「ユメは、全部ユリに渡すのにゃ!って俺に言ってた」


みんなの金銭感覚がわからないユリだった。


その後、仕込み類は順調に終わり、予定通りに営業は終了した。

雪餅はいくつか残ったが、予約分の引き取りは全員来たのでユリはホッとしたのだった。


夕飯はミートドリアだ。

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