骨葉
翌朝。
「既製品より甘味があるね」
出来たコーンフレークをそのままかじったソウが感想を言った。
「それでも牛乳かけるには、砂糖を足さないとさっぱりしすぎるのよ」
「牛乳かけるより、醤油でも塗って食べたいかも」
「確かにそんな感じね」
「そろそろユメちゃんを起こして行ってくるわね」
「いってらっしゃい」
マーレイとリラが迎えに来てアルストロメリア会に向かった。
いつもの挨拶の後、ローズマリーに相談してみる。
「ローズマリーさん、新しい食器を作りたい時、どこに頼めば良いですか?」
「ご紹介いたしましょうか?」
「お願いします!」
ローズマリーがサリーに何か告げると、サリーは急いで屋敷に戻っていった。
リラは厨房に行くつもりらしくサリーが行ってしまって困っていた。
そこへローズマリーが声をかけてきた。
「リラ先生」
「はひ!」
急に呼ばれて声が上ずり急いで振り返ったリラにローズマリーは少し笑っていた。
「こちらをお納めください」
ローズマリーに布の包みを渡され、よくわからないまま頭を下げてお礼をいっている。
「あ、ありがとうございます」
「リラちゃん、開けてみると良いわよ」
「はい」
リラが包みを開けてみると、そこにはユリの予想通り、ライラックの刺繍とリラの名前が入った割烹着が入っていた。
「うわー!凄い!きれいな刺繍!・・・リラって書いてある!!リラのお花だ!」
「良かったわね」
「え!これ、もらって良いんですか!?」
「お納めくださいって言われていたわよ」
「ローズマリー様!ありがとうございます!!」
キラキラした目でお礼を言った後、抱き締めたままくるくる回りながら喜んでいた。
そんなリラを、アルストロメリア会のメンバーは微笑ましそうに見ていた。
少し寝ぼけたままつれてきたユメは、やっと目が覚めたのかリラを羨ましそうにしていた。すると、ローズマリーが近寄ってきた。
「ユメ様、こちらをお納めください」
ローズマリーに包みを渡されユメは驚いていた。
早速包みを開けると、青い目の黒猫の刺繍が入った少し小さめの割烹着だった。
「もらって良いにゃ?」
「はい」
「ありがとにゃー!」
一人だけもらえないと確かに仲間はずれみたいになる。ローズマリーはそこまで考えてくれたと思うとユリは更に感謝した。
ユメはどこから出したのか、黒猫クッキーをその場にいる全員に配り回った。
ユリやリラにまで配る辺り、浮かれるほど嬉しかったのだろう。
リラは当初の予定をやめ、見学することにしたようである。
今回も前回とあまり変わらぬメンバーだった。
ネモフィラ・ブルーが居ない、初期メンバーだ。
サリーが戻ってくると、料理人を2人連れていた。
副料理長と、もう一人は見たことの無い人だった。
今回は頼んだのだ、フルーツカットの上手な人を特別助手につけて欲しいと。
3段のケーキスタンドのフルーツや、食事時の飾りフルーツなど、明らかにユリよりも技術が上なのだ。
「ラベンダーさん、今回はどうします?助手だとフルーツカットが覚えられないかもしれません」
「大丈夫です。ユリ先生の助手をしたいです」
「ではお願いします」
ラベンダーは嬉しそうに笑った。
サリーと一緒に準備をしてくれるらしい。
「生クリームのホイップとアイスクリームの用意をお願いします。バニラ、イチゴ、チョコです」
「はい」「かしこまりました」
リラは、スケッチブックと色鉛筆と水筆を持ってきていた。朝、頼んでおいたのだ。
もし見学するなら、今日作るものを描いて欲しいと。
「今日は、フルーツプリンパフェを作ります。時間がかかると思うフルーツカットからいきます。フルーツカットは私よりも適任者に教えていただこうと思っています。えーと」
「王宮から派遣されて参りました。デザート担当の部門長をしております」
「もうひとりこちらは、パープル侯爵邸の副料理長さんですね」
ユリは料理人を紹介すると、パフェグラスとサンデーカップを取り出した。
「こちらに持ってきました、パフェグラスと、サンデーカップのお好きな方を使って、アイスクリームとフルーツとプリンが乗ったデザートを作ります」
「我々は何をしたらよろしいですか?」
「フルーツカットを指導していただきたいです」
「えっと、誰にですか?」
「もちろん皆さんに」
ユリはニコッと笑ったが、料理人二人はかなりひきつっていた。
ユリは見たことがあったフルーツカットの説明をして二人に作ってもらった。
オレンジをカットして皮をおしゃれに切ったものや、りんごの木の葉切りなど、ユリもできなくはないが、やはり慣れている人の方が上手である。
「ユリ様、アイスクリーム出来上がりました」
ラベンダーとサリーと、いつの間にかユメが手伝ってアイスクリームを作ってくれていた。
とりあえずできたフルーツを使って、パフェグラスに、バタフライピーシロップを器の底にいれ、アイスクリーム2種類とコーンフレークをいれ、生クリームを絞り、プリンを乗せ、更に生クリームとフルーツを飾り、パフェができあがった。
ユリはサンデーカップにチョコプリンを乗せ、アイスクリーム2種類とフルーツをかざり、生クリームをしぼってラインに沿うようにイチゴソースをかけた。
双方乗っているものはほぼ一緒である。
「これが、パフェとサンデーです。お好きな方を作ってください。アイスクリームやフルーツソースも好みな物を使ってください」
できあがったパフェとサンデーはリラとユメに食べてもらい、ラベンダーには自分の分を作るように言って、更にもうひとつ作り、サリーに渡した。
二人の料理人には自分で作るように言うと、サンデーカップで、さすがといった感じのできだった。
みんな楽しそうに、少し盛りすぎのパフェやサンデーを作っていたが、料理人の作ったものを見て、盛りすぎより美味しそうに見える加減を理解したらしい。
ユリが料理人にお礼を言うと、とても有意義だった早速取り入れて作りたい。と言って喜んでいた。
「ユリ様、できました!」
リラがみんなのパフェとサンデーを絵に描いてくれた。
それを見たローズマリーが、必ず返すから少し貸して欲しいと頼むので、リラに断って今日の絵を渡した。
あのFAXのような装置で送るのだろう。
来週と再来週はお休みで、次回は3週間後になる。
いつもの8万☆を受け取り希望を聞いたところ、ミルフィーユが気になって仕方ないらしいので、少しは涼しくなることを期待して、ミルフィーユを作ることに決まった。
副料理長と厨房に行き、豚カツを作り、最初から最後までカツ丼を教えた。
カツの揚げ時間で目を剥かれ、どうせこの後煮るので、たとえ半生でも大丈夫です。と説得し、揚げすぎカツより美味しい豚カツを教えた。
一応持ってきたが、親子丼鍋が既に用意してあったのには感心した。
ちなみに、今日のアルストロメリア会のランチは親子丼だったらしい。
ユリは3人前作り、リラとユメにも食べさせた。
ちなみに、ユリが作ったものは料理長が食べ、ユリは料理長が作ったものを食べた。
料理長は、副料理長とサリーの分も作った。
ランチも済んで、パフェグラスとサンデーカップと空のプリンカップも返却されたので帰ろうと思ったら、執事に呼び止められた。
「ユリ・ハナノ様、食器を扱う商人をつれて参りました」
え!朝というか、4時間くらい前に相談したのがもう訪問対応?凄いわぁ・・・。
執事がつれてきたのは、如何にも商人といった感じの腰が低そうな穏和な笑みを浮かべる男性だった。年の頃は30代くらいだろうか。
「はじめまして。食器などの販売と製造をして居ります、ボーンリーフ商会でございます」
「あ、はじめまして、ランチとお菓子の店アルストロメリアのユリ・ハナノです」
「ユリ・ハナノ様!!」
「はい・・・?」
相手はユリの名前を知っているようだった。
ユリに自覚はないが、ユリはかなりの有名人である。
「当店の食器をお使いくださるのですか?」
「とりあえず、お話を伺いたいのですが・・・」
男性は少し落ち込んだように見えた。
「どのような物がご入り用でしょうか?」
「揃った大きさの食器を大量に必要としています。具体的にはココットか、それに近いものが望ましいです」
「大量にというのは、具体的にはおいくつくらいでしょうか?」
「1度の使用が約300で、9割り近く回収していますが、計算上1割りずつは減っていきます。なので、週に、100~150個ほど消費します。毎月500~600、もしくは、2ヶ月で1000くらいの納品が最大値です」
「毎月500~600!!」
「商売に使うので、高いと使用できないので今までは中古を使っていました」
「あ、それで・・・」
ボーンリーフ商会にしてみれば、なぜ直接買わずに中古を使っているのか疑問だったのだ。
「ココット型、もしくは近い器、おいくらで作れますか?」
「色や模様は必要ですか?」
「色も模様も要りません。むしろ真っ白が良いです」
「納品価格にご納得されれば定期的に500~600のご注文がいただけるということでよろしいでしょうか?」
「はい。そうですね」
「今確実に提示できる価格が85☆です。もう少し勉強できると思いますが、持ち帰り検討させていただいてもよろしいでしょうか?」
「新品ココット85☆!? もしかしたら更に安くなるかもしれないのですか?」
「はい。最高値で85☆です」
200☆以上を覚悟していたユリは驚いた。
元いた国でココットを問屋に頼んだら80円で、最低100個からだった。でもそれは一つ一つ人の手で作っているのではなく型で大量生産だ。
「では、とりあえず1200個の注文をします」
「え、ご注文でよろしいのですか?」
「どのくらいかかりますか?」
「ココット型で、お店でお使いのサイズでしたら1200個、明日にでも納品いたします」
「お店のサイズご存じなのですか?」
「現在お使いのココットも、元はといえば当店の食器だと思われます」
「そうなんですか!?」
よくよく話を聞いてみると、あの黒蜜に使っている150mlミニワインボトルも作ったらしい。
ただ、あのボトルを再度作るなら350~400☆くらいにはなると言われた。
そもそもこの辺(どの辺?)一帯の食器は、ボーンリーフ商会が一手に引き受けているというのだ。
一般人は大量の食器を買うことなど無いし、顧客は貴族か商売の相手なのだ。ボーンリーフ商会は製造もしているが、たくさんの小さな工房の取りまとめが主な仕事である。
ココットの納品を明後日に決め、150mlミニワインボトルの取っ手を付けなければいくらで作れるか調べて欲しいと頼んだ。
有意義な商談を終え帰路に就いた。
馬車の中でユメから、パフェやサンデーをお店で出さないのか聞かれた。
ユリとしては、成人男性しか来ない店でパフェやサンデーを出すという発想がなかったが、アイスクリームを7回も食べる人がいるのだから出したら食べる人がいるのかもしれないと考えを改めた。




