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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
2章

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黒猫

どうしよう。ブラックココアの在庫がもうない。


追加で作った黒猫クッキーもほとんど売れて、最後に15枚くらい残ったものは黒糖クッキーと一緒にユメに渡した。

リラの華がやっと落ち着いてきたと思ったら今度は黒猫クッキーだ。

今週は、クッキーばかり作っている気がする。


黒蜜もあまり残っていないし、作るものが多すぎる。



「ソウ、ブラックココアとバタフライピーの粉が足りないんだけど、どうしよう。あ、紫芋粉もないし、抹茶も残り少ない。手にはいるかもしれないけど、普通のココアとポピーシードももうないの」

「俺が買ってくるよ?それではダメなの?」

「ブラックココアは、この先この国で作れるのかわからないの。追加で持ち込んでも良いのかな・・・」

「大丈夫。俺が責任持つから安心して」

「ソウ・・・」

「ブラックココア、バタフライピーの粉、紫芋粉、抹茶、ポピーシード、普通のココア、他には足りないもの何かある?」

「・・・みかんの缶詰とカレールー」

「全部任せなさい!大丈夫、安心して」


ユリが寝る前に話があるというのでなんだろうと思ったら、仕入れの心配だった。

でも、普段のユリなら自分で打開策を見つけてしまう。

少し追い詰められているのだろうか?

先日も熱を出して寝込んだし、ユリは少し疲れているのかもしれない。

ソウは医者を呼ぶべきか迷っていた。


確かにユリは過労ぎみで、あまり体調がよくない。

この夏は忙しすぎた。

あと1週間で月が変わる。月が変わればアイスクリーム月間が終わり少しは余裕が持てるだろう。

遅い夏休みをとれば良い。

ユリが良ければ、ソウがあちら(元の国)に連れていって気分転換をしても良い。

ユリの好きな製菓材料店やワンコインショップを見て回れば気分も変わるかもしれない。



翌日、ソウはバタフライピーの粉以外を揃えてきた。バタフライピーだけは、取り寄せなんだとか。


ソウはそのままブルーベリーのアイスクリームを作り、色々手伝ってくれていた。


ユメはリラと同じ時間から来ている。


ランチが終わる頃、パープル侯爵とローズマリーとラベンダーが店に来た。

営業中に女性貴族が来るのは他の貴族からみても珍しいらしく、ざわざわとした。


仕事的にはもうほとんど無いのでユメとリラに店を任せソウに言われて外に出た。

ソウとパープル侯爵が見守る。


「どうされました?お店に来るなんて珍しいですね」


ローズマリーが心配そうにユリをみながら声をかける。


「ユリ様、お加減はいかがですの?体調を崩されたと伺って居ります・・・」

「もう大丈夫です。少し熱を出したみたいで、みんなに迷惑かけてしまいました」


「ネモフィラ様のクッキーの件で、ご心労のことと」

「大丈夫です。大丈夫です。ちゃんと作りましたよ。ソウが、以後無茶ぶりしないように言ってくれたそうです」


ユリは、最後まで言わせまいと慌てて主張した。

パープル侯爵夫妻はどうやら謝りに来たようであるが、ユリにしてみれば、パープル侯爵夫妻は被害者側である。


「ユリー、お客さん帰ったにゃ。お店で座ると良いにゃ」


ユメが呼びに来てくれた。


「中に入りましょう」


パープル侯爵はソウと二人で話をするらしく、二人がけの奥の席に座った。

内緒話の雰囲気だったので、斜め向かいに有る4人がけに案内した。


皆が座るとリラが冷茶を、ユメが黒猫クッキーを持ってきた。


「ユメ様のクッキー・・・ご利益がありそうですわね」

「ご利益ですか?」

「この国には碧眼の黒猫を敬う信仰心がございますからね」

「そうなんですか!?」

「ご存じなかったですの!?」

「はい。まったく」

「この国を建国された初代様がいつも碧眼の黒猫をお連れになっていらして、有名なお言葉に『(われ)が甦るとき、黒猫になってこの地へ降り立つだろう』と言うものがあって、黒猫を見かけると皆大事にするのですわ」

「そうなのですね!だから最初から『ユメ様』だったんですね」


って、もしかしてユメちゃんって、この国の創始者なの?


「もしかして、その初代様は魔導師だったりします?」

「はい、平和の女王と呼ばれた優れた魔法使いだったそうですわ」


たった今、ユメの正体が確定した。

生憎、ユメは片付けをしていて今の話は聞いていない。


「ユリー、ご飯どうするにゃ?」

「あ、ユメちゃんごめんね。お腹すいたわね。ローズマリーさん、折角来たのだし、ランチいかがですか?」


ローズマリーがパープル侯爵の方をみて呟いた。


「侯爵さま・・・?」

「ん?あ、折角 ハナノ様がおっしゃっているのだからいただいていこう」


リラが来て、冷茶のおかわりを注ぎながら ユリに訪ねる。


「ユリ様、全員カレーで良いですか?」

「そうね、セットでお願い」

「はーい!」


リラは元気に返事をして厨房へ戻っていった。

今日はバターチキンカレー(リターン)なので、リラは2度目だ。慣れているのである。

サラダには自家製ドレッシングをかけて、野菜もたっぷりだ。


「ユリ先生、リラちゃんはお一人でお食事の準備ができますの?」


ラベンダーに質問された。


「種類によりますが、できるものもあります」


親子丼なら全工程1人でできる。



リラはトレーに乗せたセットを持ってきて、誰に一番に出せば良いのかわからないらしく、立っていた。


「侯爵、次に夫人に」


ユリが小声で指示するとパッと笑顔になり配膳しだした。


「パープル侯爵様、お待たせいたしました。バターチキンカレーのセットです」


ゆっくり運んできたユメから受け取り、夫人に出す。


「ローズマリー様、お待たせいたしました。バターチキンカレーのセットです」


名前を呼ばれたことに少し驚いたらしいローズマリーが微笑んで言った。


「リラちゃん、ありがとう」


リラは笑顔で頭を下げていった。

再び厨房から一人前を運んできてラベンダーに提供すると、同じように名前を呼んだ。


「ラベンダー様、お待たせいたしました。バターチキンカレーのセットです」

「リラちゃんありがとう」


この後、一人前を持ってきたユメが、ユリの前に置いていったのを、ユリとソウが、仕方ないなぁと言う顔で見守り、リラが急いでソウに持ってきて、あとは自分達の分を持ってきてどこに座るべきか悩んでいた。


「ここに座るにゃ!」


ユメが宣言したので、一番奥の4人がけに落ち着いた。

ちょうど戻って来たマーレイが店内をみてぎょっとしていたが、リラが一人前用意してリラとユメの一緒のテーブルに座っていた。


和やかに食事が始まり、少し辛味のある料理が暑い時期には食べやすいと喜んでいた。


あれ?と一瞬思ったユリが、疑問を聞いてみる。


「どうやってここまでいらしたんですか?」

「あー、ハナノ様が気にされると言われて私が馬車を操縦してきたよ。執事には止められたがね。ははははは」


パープル侯爵は愉快そうに笑っていた。


「皆さん馬車の操縦ができるのですか?」

「(操縦)できない者もいるが、(貴族は)しない者の方が多いな」

「私のために色々気を使ってくださり、ありがとうございます」


外おやつの件は、ここに来る全ての貴族が把握していて、確かに暑い中 待たせるのは誰であろうと辛いものだと言う認識になったらしい。ラムレーズンアイスクリームや梅酒シャーベットで外に並んだ貴族は、身を持って体験して実感したそうだ。



ローズマリーとラベンダーは、サラダとバナナアイスクリームも美味しいと喜んでいた。

いずれ料理長にドレッシングを教えておきますと言っておいた。



ローズマリーによくお礼を言って挨拶したあと、馬車のそばからラベンダーがこちらに戻って来た。


「ユリ先生にとって、リラちゃんはどのような存在ですか?」

「対外的には弟子ですが、私としては妹みたいな存在だと思っています」

「では、私は・・・」

「ラベンダーさんは、助手をしてくれる、違っていたらごめんなさい、お友だちだと思っています」

「お友だち、そうです!お友だちですわ!次回のアルストロメリア会でも助手致します!」

「お願いします」


前回、リラが助手をしていたので、もう必要ないのかと落ち込んでいたらしい。

まあ、前回は仕方ない。


パープル侯爵たちは帰っていった。


このあとソウに、パープル侯爵の話はなんだったの?と聞いても言葉を濁してユリには教えてくれなかった。


パープル侯爵の話は端的に言うと、王宮や、パープル侯爵を通してユリに縁談が多数来るので、早く結婚してくれと言う内容だった。プロポーズすらしていないのにどうしろと言うんだ。と、ソウは困り果てていた。

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