乾燥
18:00すぎ、とりあえず仕事は切り上げてみんなでご飯を食べることにした。
ランチの残りのホワイトカレーである。
カレーなので、焦がさず温めるだけだから大丈夫と言いソウが用意したが、ご飯を炊いていなかった。
昼の残りは冷えているし、どうしようと思ったらソウが2階に行って温めてきた。
電子レンジはなかったはずだけどどうやったんだろう?
全員が色々な意味で疑問に思ったが、誰も聞かなかった。
ついでにタバスコも持ってきたらしい。
一見シチューに見えるが、食べるとカレーである。
「昔、これに色つけたら面白いかと思って、紫芋粉のカレーとか作ったことがあったんだけど、グレーぽい薄紫で、なんか食欲の沸かない見た目になって以来、虹色カレー計画は頓挫したわ」
「ユリ様、バタフライピーは試さなかったのですか?」
「その当時は手に入らなかったのよねー」
手に入っていたら試したのか。
全員が思ったが誰も口にしなかった。
「今日はみなさん、本当にありがとうございました。いつも助けていただいていますが、今日こそは、皆さんがいなかったらどうにもならなかったです。本当に本当に感謝しています。ありがとうございます」
「ユリ、元気になったら黒糖フルーツパウンドケーキ作ってにゃ」
「はい。かならず」
「俺も!」
「はい。ソウの分も作ります」
「ユリ様、元気になったら、今度は無理しないでくださいね」
「ありがとう。リラちゃん」
「ユリ・ハナノ様、ビーツ探して参ります」
「ありがとう。マーレイさん」
「今日のお店のアイスは全部売り切れたにゃ」
「追加分のバラもか!?」
「バラだけ食べたい人に出したにゃ」
「持ち帰らなくても売れるのか・・・」
「リラの華は残ってるにゃ、でも明日の分は足りないにゃ」
「いくつくらい残ってるの?」
「200こくらいにゃ」
「では、明日、普通のリラの華を100個先に作ってからネモフィラクッキーを150個作りましょう」
「片付けだけして今日は解散しよう」
「みなさん、お疲れさまでした」
ユリは、早く寝ることにした。
起きてはみたが、やはりまだ少しだるかったのだ。
ソウはユリの責任感の強さが心配だった。
気を付けてみていないと、明日また早起きして仕事していそうだ。
火曜日、いや 明日の Fの日は基本的には休日である。
植物に恩恵の有るこの国は、恩恵から一番遠そうな Fの日はお休みする人が多いのだ。
ユリの店はなぜEの日と、Sの日が休みなのか この国の人は不思議に思っている。
翌朝、ユリが7:00に起きてリビングにいくと、既にソウが朝食の用意をしていた。
買ってきたパンと、ベーコンエッグと温野菜サラダだった。
「ユリおはよう。調子はどう?」
「ソウおはよう。もう大丈夫だと思うわ。ありがとう」
「おはようにゃ」
「お、ユメ、おはよう。朝食食べるか?」
「要らないにゃ・・・ユリ大丈夫にゃ?」
「ユメちゃんおはよう。もう大丈夫よ。ありがとう」
「朝から手伝うにゃ!」
「俺も朝から手伝うぞ!10:00頃からだけど」
「え、二人とも大丈夫なの?用事はないの?」
「大丈夫にゃ!」
「俺はもともと休み」
「どうもありがとう。頼りにしているわ」
ソウもユメもニコニコとしていた。
8:00前には厨房に行き、抹茶クッキーの仕込みと、黒糖フルーツパウンドケーキと、葉っぱクッキーを作った。
パウンドケーキの仕込みを初めて通しでしっかり見たユメは、自分では作れないと嘆いていた。
ユリが、1つなのでと全て手作業で作ったからだ。むしろ業務用ミキサーでならユメでも作ることができるだろう。
その後、ユメは葉っぱクッキーを手伝った。
黒糖フルーツパウンドケーキを焼きながら抹茶クッキーを作っている時にリラが来て、やはりユリを心配していた。
葉っぱクッキーが焼き終わる頃、リラが番重を持って来た。
「ユリ様、何か入ってました」
軽いので空だと思い込んでいたユリだか、中には、緩衝材(通称プチプチ)が入っていた。
「わ!プチプチ!」
「プチプチ?」
「これを敷いて、切ったものを間に挟めばクッキーの保護になるわ!」
番重3枚のうち、2枚にエア緩衝材が詰まっていた。もう1枚は、紙を細く切ったタイプの紙パッキンと呼ばれる緩衝材だった。
「リラちゃんのお陰で問題が片付いたわね!」
「良かったです。できているクッキーをしまうために先に洗って良いですか?」
「お願いします。プチプチ切っておくわ」
ユメが面白がっていたので緩衝材はユメにカットしてもらった。洗い終わったリラも一緒に切っていた。
ユリはランチを仕込み、緩衝材を切り終わったユメとリラは、普通のリラの華を作り始めた。
10:00少し前、マーレイが来て、仕入れの荷物の他、何か袋を持っていた。
「ユリ様、昨日探されていた赤い野菜ですが、先月までは有ったらしいのですが、次は秋にならないと入らないと言われました。今は乾燥したものしか手に入りませんでした。大変申し訳ございません」
「え、ちょっと見せてもらえる?」
マーレイから袋を受け取って中を見ると、柔らかい切り干し大根のような状態の白っぽく乾いた水紋のように赤い模様のものと、赤黒い薄く固いものの2種類が入っていた。
赤黒い方は粉にできそうである。
「これ!これは手に入るの?」
「これでしたらたくさん有るそうです」
「マーレイさんありがとう!むしろ生より使いやすいわ!」
ユリは、ウキウキとしながら擂り鉢とすりこぎを持ってきて、少量の赤黒い乾燥ビーツを粉にしてみた。
「これならすぐ使えるわ!」
「全部加工しますか?」
「その予定です」
「では、お手伝い致します」
「ありがとう!お願いします!」
擦るのを代わりながらマーレイが話を続ける。
「あ、それと、こちらは茹でて乾燥させたもので、もう1つは生のまま乾燥させたものだそうです。この野菜の名前ですが、スヴョークラと言うそうです」
「すぽーくら、すびょーくら?」
ユリは発音が聞き取れず頭の中で反芻してみた。
「これを持ち込んだ者が、そう言っていたそうです」
「覚えられなそうな名前だわ・・・私はビーツと呼んでも良いかしら?」
「かしこまりました」
「ロシア語か?スヴョークラ」
「ソウはわかるの?、あ、おかえりなさい」
「ただいま。ビーツ手に入ったんだ」
「マーレイさんが探してくれたのよ」
「マーレイ、ありがとうな」
「あ、いえ、使えるもので良かったです」
マーレイは、ほっとした表情を浮かべていた。
「アイスは何作るの?」
「抹茶と、黒蜜胡桃バニラよ」
「どっちもすぐ作れないタイプか」
「黒糖胡桃作る?」
「作り方って、昨日と一緒?」
「砂糖が黒糖に変わるだけよ」
「なら作れそうだからやってみるよ」
「お願いします。アングレーズソース作っておきます」
「ユリ様、普通のリラの華終わりました!ネモフィラクッキー作ります!」
「はい、お願いします」
ユリはクッキーを焼きながらアングレーズソースとランチを仕込んでいたが、今日は人手があるので作業の進みがとても早い。
「アングレーズソースできたわ!」
「よし、抹茶とバニラのアイスクリームの計量終わったから作るぞ!」
「お願いします」
マーレイがソウを手伝って、アイスクリームの皿やデッシャーを用意していた。
「ユリ、胡麻どこに有るにゃ?」
「内倉庫の棚に有ります」
「取ってくるにゃ」
「お願いします」
ユリはアングレーズソースを3回仕込んで時計を確認した。
「そろそろランチね。ユメちゃんお願いしても良い?」
「わかったにゃ」
「ユリ様、アングレーズソース作っても良いですか?」
「助かるわ。お願いします」
ユリが、釜を見る事ができなくなるので、リラはクッキーを休みアングレーズソースを手伝うようだ。
ランチのデザート、アイスクリームのチョコ胡桃は大変好評で、単品希望が多かったらしく、予備分の20個はあっという間に売り切れた。
「ソウ、チョコ胡桃、追加作れる?」
「アングレーズソース使って良いなら作るぞ!」
「それは構わないけど、糖化胡桃も要るわよ?」
「糖化胡桃、作りまーす!」
リラが作ってくれるらしい。
「リラ、よろしくな!」
「はい!」
「バニラ5回終わったら作るよ。2回くらい?」
「そうね。45もあれば苦情も来ないでしょう」
13:00になる前にチョコ胡桃も作り終わり、ランチが終わる前に抹茶も3回終わるのだった。




