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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
2章

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霍乱

午後も大変だからと皆には昼休みはしっかり休んでもらった。

ユリは昼休みに休まず作ろうと考えていたバラのアイスクリームをソウが作ってくれたので、午前中に焼ききれなかったクッキーを焼いていた。

ユリは釜の前に居るためか、顔が真っ赤だった。

リラは見学だといってユリと一緒に釜を見ている。


「ユリ様、300個のクッキーは何に入れて運ぶんですか?」

「そうね、重ねると割れちゃうし、どうしようかしら」

「立てて間に布を挟んで、アイスクリームをしまっている蓋の有る箱はだめですか?」

番重(ばんじゅう)?予備有ったかしら?」

「内倉庫に1つ、外倉庫に2つ見ましたけど、中身入っているんですか?」

「えーと、たぶん空ね」

「なら、あとで洗っておきます」

「ありがとう!」


要らないタオルでも挟もうかしら?

リラは気がすんだのか休憩室に行くようだった。


ユリが釜の鉄板を入れ換えているとソウに話しかけられた。


「ユリ、休まないの?」

「ソウが来てくれて本当に助かったわ!昼休みにバラのアイスクリームを作らなきゃいけないかと思っていたのよ」

「ユメが、お店忙しすぎるにゃー!って以心伝心を送ってきた時は何事かと思ったよ」

「あ、又、ユメちゃんに助けてもらったのね。あとでお礼しなきゃ。って、ユメちゃん大丈夫なのかしら?」

「大きくなったから魔力も増えて大丈夫だそうだぞ」

「そうなのね。良かった」


ユリはホッとした。以前見た事がある 動けないユメの姿は、なかなかに衝撃的だった。しかも今回は回復の手伝いをしていないのだ。


「ネモフィラさんは、こんな無理言わない人だと思ったんだけどなぁ」

「どういうこと?」

「リラちゃんの事 誉めていたし、気に入っていたように見えたのよね」

「その辺も確認してくるよ」

「ありがとう」


最後のクッキーが焼き終わり、やっと午前中の仕事が片付いた。


「クッキー終わったから、少しだけのびてくるわね」

「うん。しっかり休んで来て」

「ソウ、いつもありがとう」


ユリは自分の部屋に横になりに行った。

すでに8時間以上働いているのでお疲れである。

ユリは、人が喜ぶ方向に驚いたり、美味しいと言ってもらえるのが好きなだけで、ワーカーホリックな訳ではない。

安くて美味しいものを提供したいという両親が店をやっていた頃からのポリシーを守り続けているのだ。


ソウが釜の前で鉄板をきれいにしていると、リラとマーレイが戻ってきた。


「ホシミ様!代わります!」「私が!」

「いや、いい」


マーレイとリラが名乗り出たが、ソウは断った。


「ユリに、休み時間は守るように言われているだろ?」

「え?」「え?」


ソウは自分は仕事をしながら言っていた。


「今はユリ居ないから俺は良いの」

「戻ったにゃ。何面白いこと言ってるにゃ」


マーレイとリラには突っ込めないので、ユメが突っ込んだらしい。


まだ15:00にはならないが、みんな揃っても珍しくユリが戻ってこない。


「ユリ、居ないのにゃ?」

「15:00過ぎても来なかったら、ユメ、様子を見てきてくれ」

「わかったにゃ。ソウは行かないのにゃ?」

「着替えてたら困るだろ!」


あー。と、全員が納得した。


しかしそのまま ユリは戻ってこなかった。

店の注文を全員分出してからユメは様子を見に行った。

リラが心配そうにユメの方を見ていた。


ドタドタと、普段足音をあまりたてないユメが慌てたように降りてきた。


「ソウ、大変にゃ!ユリ、熱があるにゃ!」

「ユメ、店頼む!」


ソウはあわてて階段をかけ上がっていった。


「ユリ、入るぞ!」


声をかけたが、返事はなかった。

ドアを開けると、布団の上にのびたままのユリが、赤い顔をして呼吸が苦しそうに眠っているようだった。


眠っているのを起こすのはかわいそうだが、熱があるままでは辛いだろうと声をかけた。


「ユリ、熱があるようだから、ちょっと目を覚まして」

「う・・・ん」

「俺の手を握って、平熱になるように、自分の体調がよくなるように考えて」

「う・ん・・・」


ソウは軽く魔力を流し、ユリに自己治癒をさせるように試みた。


スッと熱が引き、顔色が元に戻り、呼吸が落ち着いた。

ソウはタオルケットをかけ、ユリの髪を直して部屋を出た。


階段を降りるとユメとリラが心配そうに見つめていた。


「ユリ大丈夫なのにゃ?」

「もう大丈夫だ。ただ、疲れているようだからこのまま寝かせておこうと思う」

「お店どうするにゃ?」

「俺たちだけでどうにかしよう」

「はい!」「かしこまりました」

「協力するにゃ!!」


「それで、作るアイスクリームわかる?」

「明日分は、イチゴとチョコ胡桃と伺っています。イチゴは既に2回作りました」

「イチゴはともかく、チョコはソースが作れないな」

「はい!習いました!作ってみます!」


リラがアングレーズソースを作るらしい。

クッキーを中断して鉄板ごと冷蔵し、アイスクリームを作ることにした。

ソウはイチゴアイスクリームをつくり、店はユメが対応し、準備と洗い物と片付けをマーレイがしていた。


午前中に予約したバラアイスクリームを取りに来た人が、ユリに話があるというのでユメがソウを呼びにきた。


「今、ユリ、対応できないんですが、どのようなご用件でしょうか?」

「ご店主は忙しいのですか? お礼をしたかっただけなのですが、お伝えいただければ幸いです」

「伝えておきます」


その後も何度かソウが呼ばれ客対応したが、ユリと話したいだけという客は多かった。確かにユメの手には負えない客である。


すると、しつこくユリを呼んで欲しいと言う客にソウがキレたらしい。


「ユリは過労で倒れて今寝てるんだ!」


店中の客が振り返った。

ザワザワっとした店が静まった時、まだ少し顔色の悪いユリがたっていた。


「お騒がせして申し訳ありません」


ユリが頭を下げると、方々から声が上がった。


「ご店主、無理はいかん!」

「少し休んだ方が良い!」

「しっかり休んでくれ」「そうだそうだ」

「休んだ方が良い」「無理するでない!」


「ありがとうございます。皆さんに感謝致します」


ユリはそう言ってさがった。

ソウと揉めていた相手も謝って帰っていった。



厨房に来たユリは、勢いよく頭を下げる。


「みんなごめんなさい!」

「ユリ、無理はダメにゃ!」

「ユリ様、無理しないでください」

「とりあえず、お掛けください」


マーレイが椅子を持ってきてくれた。


「ユリ、もう少し休んできて!」

「でもお店が・・・」

「なら、わからないことは聞きに行くから、指示だけだして」

「わかったわ。みんなありがとう」


ユリは休憩室で休むことになった。

自己治癒で回復するのは怪我や病であって、落ちた体力は休養するしかない。


どういう情報網なのかは知らないが、それ以降、ユリと話したいと言い出す客はいなかった。


17:00すぎ、ユリが仕事に復帰した。

ちらっと店に顔を出すと、客が驚いていた。


「ユリ、リラが心配してたからチョコアイスクリームの味だけ確認して」

「はい。あ、ユメちゃんありがとう」


ユメがチョコ胡桃アイスクリームを持ってきた。

滑らかにできていて問題ないように思える。胡桃の糖化は飴を少し焦がしたのか、かえって香ばしい感じで美味しかった。


「良くできています。とても美味しいです。100点満点で、120点です」


良かったー!とリラが喜んでいた。


「ユリ、申し訳ないんだけどクッキーは作っていない。釜に自信無かったので焼かなかった」

「ありがとう充分です。アイスクリームを優先してくれて本当に助かりました。クッキーの納品は、木曜日(じゅもくのひ)なので、明日作れば充分まにあいます」


「ユリ様、ネモフィラクッキーは午前中に150以上作っているので、予備を考えても150作ればまにあいます」

「青い生地はまだある?」

「少し足りなそうです。あと、白い生地と、普通の生地が足りません」

「わかったわ。リラちゃん仕込み見る?」

「はい!」


白い生地、普通の生地、青い生地の順で作った。

ココアや紫芋や抹茶は普通生地に混ぜて作るのだと説明した。


「ユリ様、白い生地だけにいれていた粉は何ですか?」

「脱脂粉乳よ。油分を抜いた牛乳を粉にしたものね」

「青い生地に入れていたのは何ですか?」

「バタフライピーの粉とブルーキュラソーというオレンジの皮を使ったお酒ね」

「この二つだけ他とは違うのはどうしてですか?」

「卵の黄身が入らない分、味が薄いのよ。それを補うためね」

「そうなのですね」


「そういえは、黒い生地作れるけど使い道有る?」

「真っ黒で少量ならあります」

「今度作っておくわ」

「はい!」


「フリーズドライイチゴかビーツが欲しいわね」


「買ってこようか?」

「あちらだとこの先聞かれたときに、説明できないのよね」

「成る程」


「ユリ・ハナノ様、ビーツとはどのようなものですか?」


珍しくマーレイが訪ねてきた。


「見た目は蕪で、真っ赤な色の煮汁がとれる野菜です。ボルシチという料理に使います」

「見たことがあるかもしれません」

「え!本当!?」

「もし違っていたら申し訳ございませんが、仲間に聞いてみます」

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