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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
2章

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127/689

前掛

休み明け。

おはようございます。と挨拶をして休憩室に入ったリラが慌てて出てきた。


「ユリ様!このエプロン、ユリ様が作ったんですか!?」

「そうよ。ポケットが足りないとかあったら言ってね」

「使って良いんですか?」

「もちろん良いわよ。そのために作ったのよ」

「ありがとうございます!!」


リラはその場で踊り出すんじゃないかというくらい感激していた。

今まではユリが持ち込んだシンプルな既製品のエプロンを全員が使っていたが、リラもユメも可愛いのだから似合うエプロンを作ろうと生地を選んでもらったのだ。


あ、気づくとエプロンを抱き締め、くるくると踊るように回っていた。


しばらくすると、気がすんだのかユリが作っているものに気づき、そばに寄ってきた。


「黒蜜ですか?」

「そうよ。明後日たくさん使う予定だからね」


ユリは、60リットル入る大鍋で20kgの黒糖を使い、大量の黒蜜を作っていた。

大鍋で黒蜜を作っている姿って、なんだか魔法使いのおばあさんみたいだわ。と思いながら大きなヘラでかき混ぜていたが、あながち間違いでもない。年齢はお姉さんだが。

自覚はないが、ユリは立派な魔法使いである。


「そろそろ葉っぱクッキーが焼けるわね」


リラが釜の方を見ると、パウンドケーキと、焼き上がったまま積んである葉っぱクッキーの鉄板が沢山有った。


「ユリ様、パウンドケーキはいつ作っているんですか?」

(げつ)じゃなかった、月曜日(つきのひ)と、水曜日(みずのひ)の朝から作っているわよ」

Wの日(みずのひ)に見に来ても良いですか?」

「構わないけど、朝6:00頃から始めるわよ?」

「ユリ様、朝ご飯はいつ食べているんですか?」

「パウンドケーキを釜に入れてから食べて、食べ終わってからクッキー焼いてるわね」


リラはどうしようと考えていた。

6:00から来たら家で朝ご飯が食べられないし、朝ご飯を食べてからだと間に合わないし・・・。


「リラちゃん、早く来たのは用があるんじゃないの?」

「あ!そうだった!ノート書かなきゃ!」

「ソウがノート持ってきてくれたから使って良いわよ。あと図鑑も休憩室に置いておくから好きに見てね」

「ありがとうございます!!」


リラは急いで休憩室に入っていった。

わー!凄ーい!と、喜ぶ声が聞こえてきた。

植物図鑑を数冊、2階の本棚から持ってきたのだ。


9:30にリラがニコニコとしながらバッククロスエプロンをして戻ってきて、10:00頃、マーレイが仕入れの荷物と150mlの壺型陶器を運んできた。

1318個あるそうだ。

外観検査はしたが、漏れないかまでは確かめていないらしい。

もともと1200個の注文で、納品は不良品を見越して1割り増しで数を揃えるそうで、1320個有ったが、あからさまに欠けているもの2つを弾いて1318個の納品になったらしい。その為、代金は1200個分だったそうだ。既に仕入れ代から支払い済みだとか。


「あと、こちらを渡されました。1500入っているそうです」


なんだろう?と袋を開けてみると、コルク栓だった。


「あ!思い出した!マグナムって、ワインのダブル瓶!そうか、それで1500mlで、一桁間違えられて150mlなのね!」


ユリは思い出してスッキリしたようだが、マーレイとリラは訳がわからず驚いた。

はっと気付いたユリが、あわてて二人に説明したのだった。


「最終的には全部洗うけど、とりあえず200個くらい洗ってもらえる?」

「はい!」

「あ、割れているのを触らないように気を付けて避けておいてね」

「はい!」


「ユリ・ハナノ様、今日は待機なので、呼び出しがあるかもしれませんが、なければ今からお手伝いできます」

「本当!?どうもありがとう!助かるわぁ!」

「何からしますか?」

「あ、じゃあ、リラちゃんには少し危ないと思っていたんだけど、マーレイさんならできそうだから頼もうかしら」

「はい」

「洗った容器をお湯で軽く煮て、長いトングで取り出して伏せて乾かしてほしいの。こうすると中まで確実に乾くのよ」


マーレイはユリの言葉を感心しながら聞いていた。


洗い終わるとリラはクッキー作りに戻り、湯通しが終わったマーレイには、アイスクリームを作ってもらうことにした。


ユリは乾いた容器にロートを使って黒蜜を150mlレードルで1杯ずつ入れていった。

最後に残った分は、いつも店で使っている小型のデキャンタ5つに入れた。


「イチゴ5回、チョコ胡桃5回、ココット20ずつ、中デッシャー150です。イチゴから作ります。中デッシャーは手伝うので呼んでください」

「かしこまりました」


ユリはアイス箱に充填して、ランチの用意に戻った。

今日はイタリアンハンバーグとホワイトカレーだ。

ターメリックの入っていないカレーはまる でシチューのようである。

イタリアンハンバーグは、溶けるチーズとトマトソースがかかる。


ハンバーグは焼くだけにしたし、トマトソースもできているし、溶けるチーズは解凍してあるし、ニンジンのグラッセもできているし、いんげんもゆでてあるし、バターコーンも作ってあるし、ご飯は11:00に炊ける予定だし、よし!完璧!


「ユリ・ハナノ様、中デッシャーお願いします」

「はい、今行きます!」


中デッシャーで、イチゴアイスクリームを皿盛りしているとユメが起きて来た。


「ユリ、外に誰かいるにゃ」

「私が見てきましょうか?」

「お願いします」


マーレイが名乗り出てくれたのでお願いした。

その間にユメに手伝って貰ってアイスクリームを終わらせ片付けた。


外にいた人となにか話して戻ってきたマーレイは、ユリに手紙を持ってきた。

外にいたのはパープル侯爵家の執事で、急用だと言っているらしい。

預かったらしい手紙は、青い封筒に入っていた。


ユリが封筒を開けて中を見ると、ブルー公爵家からの正式な依頼で、ネモフィラクッキーを300個、言い値で買うから作って欲しいというものだった。

納期は、Tの日(じゅもくのひ)と書いてある。


ユリが直接聞きに行くと、表情の固い執事がそこにいた。


「納期というのは、取りに来るのではなく、持って来いということでしょうか?」

「おそらく・・・」

「私、ブルー公爵家がどこに有るかも知らないんですが・・・」

「ホシミ様はご存じかと思われます」

「クッキーを作るのは構いませんが、納品についてはソウが承諾したらという事でよろしいでしょうか?」

「はい、そのようにお伝え致します。では、よろしくお願い致します」


執事は大仕事を終えてホッとしたのか笑顔になって帰っていった。


「リラちゃん、ネモフィラクッキー300個、特別注文が入りました。ランチ終わったら私も手伝うのでよろしくお願いします」

「はい!、ユリ様!青色生地が足りません!」

「あ、そうね、それだけ今作るわ!」

「リラ、手伝うにゃ」

「ユメちゃんありがとう!」


「マーレイさん、リラちゃんの補助お願いします」

「かしこまりました」


青色生地を仕込み終わると、ランチ開始ギリギリだった。


「ユメちゃん、ランチのお手伝いお願いします!」

「わかったにゃ!」


オーダーをとったあとは、ユリは調理に専念し、クッキーの入った釜を見ながら、手の空いたときはクッキーを手伝った。


「ユリ、アイス持って帰りたいって言ってるにゃ」

「ユメちゃんごめん、今日持ち帰り分無いのよ。どうしてもほしかったら作っておくからおやつ時間に来てって言ってくれる?」

「言ってくるにゃ」



「おやつ時間に取りに来るからバラのアイス6個にゃ」

「わかりました。ユメちゃんありがとう」


ユリはランチと釜とクッキーを見ながら、アングレーズソースを作ることになった。


「うわー、皿足りない!」

「洗いましょうか?」

「マーレイさん、すみませんお願いします」


リラが全く動けないので、雑用が片付かないのだ。

いつもならちょっとずつリラが片付けたりユリが片付けたりするのだが、全員が忙しすぎる。

マーレイにとりあえず使う枚数を洗ってもらい、なんとか乗りきった。


ランチ4順目が終わる頃、ソウが帰ってきた。

13:00少し前だ。


「ユリ、大丈夫?忙しいんだって?」


何で知ってるんだろう?


「何から手伝えば良い?」

「追加分のバラアイスクリームお願いします」

「了解、何回作るの?」

「できれば2回、無理なら1回で!」

「材料は、揃ってるな、よし」


ソウが追加分のバラアイスクリームを2回作り、マーレイと二人でココットに詰めてくれた。45個でき、バラジャムのストックがなくなった。


マーレイはたまっている洗い物を片付け、ソウは釜でクッキーを見てくれた。

14:00になり、ランチ営業が終わるとみんなバテた。


「みんなありがとう!イタリアンハンバーグで良いかな?」

「はーい!!」

「ハンバーグ食べるにゃ!」

「ありがとうございます」

「チーズ多めで!」


ユリはハンバーグをさっと調理し、ご飯や添えの野菜はリラが用意してくれた。

ユメは冷茶とカトラリーを用意し、ソウと何か話していた。


「ユリ、何か特注が有ったの?」

「そうなのよ。作るのはなんとかなるけど、納品は無理。場所も知らないしね。で、ソウが持っていってくれるなら受けますと返事したけど、一応今作ってはいるわ」

「どこに納品?」

「ブルー公爵家。言い値で買うって。クッキー代は18万☆請求します。送料はソウが好きなだけ請求してください」

「3倍にゃ。ユリ、凄いのにゃ」

「たぶん、もっと払うって言い出すと思うのよ。金額じゃないのよ。こっちの都合を確認してから注文して欲しいのよ。パープル侯爵家の執事さんが青い顔して手紙持ってきたんだから」


ユリが少し怒ったように説明すると、表情の冷えたソウが低い声で答える。


「わかった。俺が納品行くよ」


「・・・魔王降臨にゃ」


「何か言ったか?」

「何も言ってないにゃー!」


大変だったはずなのに、マーレイとリラは震えるように下を向いて笑っていた。

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