才能
「アイスクリームも堪能したので、クッキー作りますか?」
先ほどアイスクリーム一覧を吊るしていた場所に、カラーチャートとバタフライピーの絵を吊るす。
サリーに釜を低温でお願いし、冬箱からクッキー生地と、鞄からバタフライピーの粉を取り出した。
「お店ではこちらの8色を使用し『リラの華』を作っています」
青い生地にざわつく。
「こちらの青い生地が気になりますね。これは、この花、この絵の青い花を乾燥させた粉末でつくります。名前を、バタフライピーと言います。こちらをお茶として飲む地域があります」
「どちらで手に入りますの?」
「ここのそばの市の花屋さんで売っていましたよ。いまうちのお店でも咲いています」
「そんな花があったなんて」
「こちらのカラーチャートは、赤、青、黄色を軸に、混ぜると何色になるかを分かりやすくした表です。完全な赤い生地がないので、参考程度になりますが、覚えておくと良いと思います」
「ユリ先生、白い生地はどうやって作るのですか?」
「卵を卵白だけで作ります」
「そちらの紫色は何を混ぜるのですか?」
「これは、紫芋という紫色のさつまいもの粉です。この黄色はカボチャです。緑は抹茶です。この桃色は、紫芋にレモン果汁を混ぜたものです」
「レモンで色が変わるのですか!?」
「バタフライピーもレモン果汁を混ぜると桃色になります。ビーツがあると赤が作れるのですが、見かけたことがありません。緑はホウレン草などでも大丈夫です」
「リラちゃん、ユメちゃん、割烹着の名前読める?」
「読めるにゃ!」
「大体読めます」
「名前の通りにクッキー配ってもらえる?」
「はい!」「はいにゃ!」
ローズマリーの前で覗き込むようにユメが名前を読み上げる。
「ろおずまりいにゃ!」
「はい!」
リラが「どうぞ」とクッキーを差し出すと、一度目を見張ってからローズマリーが笑顔になった。
「ありがとうですわ!」
リラは笑顔で頭を下げていた。
「ねも、ふ、い、ら、ネモフィラにゃ!」
「はい!」
ネモフィラが物凄くビックリしていた。
自分の分はないだろうと思っていたらしい。まあ、たまたま偶然有ったのだが。
「ありがとう。リラちゃん」
「ラベンダーにゃ!」
「はい!」
「ありがとうですわ!」
「まるが・・・まーがれっとにゃ!」
「はい!」
「凄いです!ありがとうですわ!」
「さんふらわーにゃ!」
「はい!」
「すばらしいわ!ありがとう」
「ろーずにゃ!」
「はい!」
「素敵!どうもありがとう」
「かめりあにゃ!」
「はい!」
「わぁ!ありがとうございます」
「ぴあにーにゃ!」
「はい!」
「凄いですわ!ありがとうございます」
「かーねー、かーねーしょんにゃ!」
「はい!」
「ありがとう。今日来て良かったわ!」
「いま配ったクッキーこそ、リラちゃんが作ったものです。ちなみに、私も作ってもらいました」
ユリは、百合の花の絵のクッキーをみんなに見せた。
「お店で売っているのはこんな感じです」
ユリは、店売りのクッキーを見せた。
「作り方については、リラちゃんに一任しています。私が間に入りますが、質問などありましたらどうぞ」
「今、どれか作って見せていただくことは可能ですか?」
「リラちゃん、できる?」
「はい!」
リラは厚み定規で生地を伸ばし、色を入れ換える花を作って見せた。
「あんな方法が!」
「私にもできそうですわ!」
ここに無い花も作って見せ、大いに感心された。
「あの、なんて呼んだらよろしいですか?」
「リラって呼んでください!」
「んー、では、教えていただくときはリラ先生で、その他のときはリラちゃんと呼ぶことにしましょう」
リラが大分焦っていた。
「ちなみに、あのカラーチャートと、バタフライピーの絵も描いてもらいました」
「素晴らしいですわね!画家の絵だと思いましたわ!」
「どなたかに習いましたの?」
「ユリ様に、この絵を描いた色のペンを貰ったときが初めてです」
「えーと、一週間、いえ、5日前かしら?」
独学のしかも初心者がこの絵を?
相当驚いたらしく、しばらく静まってしまった。
見本で作ったクッキーを頼んだ通り低温で焼いてくれたので、出来上がったクッキーは皆に見せたあと、サリーに差し上げた。
リラごとランチに誘われたが、本人にどうするか聞くと、お父さんと一緒に食べたいと言うので、サリーに任せた。
あとで聞いたら、使用人が食べる部屋で一緒に食べたらしい。
ユリはユメと一緒にランチに招待された。
今日のランチは、揚げすぎた揚げ物と野菜のスープだった。
ユメが小声で、固すぎるにゃ。と嘆いていた。




