酢豚
「さあ、一旦片付けて、お昼ご飯を食べましょう!」
「はーい!」
「今日は何にゃ?」
「酢豚かサグパニールよ」
「サグパニャーにゃ?」
「サグパニールは、青菜とチーズという意味の名前で、今日は ほうれん草とカッテージチーズが入っているカレーよ」
どちらもよくわからなかったらしい。
少し考えたユメが、ソウが以前言ったことを思い出したようで、聞き方を変えてきた。
「先に食べた方が良いのはどっちにゃ?」
「そうねぇ、酢豚かしら?」
「じゃあ、酢豚にするにゃ!リラはどうするにゃ?」
「ユメちゃんと同じにします!」
とりあえず3人前作れば良いかしら?とユリが考えていると、ソウとマーレイが来た。
「遅くなったー、あれ?まだ食べてないの?」
「今片付けが終わったのよ」
「午前中大変だった?」
「ユメちゃんが、ラムレーズン45個作ってくれたのよ!」
「ユメ、あれ回せるのか!?」
「小さいの6回作ったにゃ。リラも頑張ったにゃ。ご飯は酢豚にゃ!」
「酢豚!良いねぇ!」
ソウが同意したので、マーレイを見ると同意が返ってきた。
「はい、同じものでお願いします」
選択肢を与えることなく全員酢豚を食べることになった。
酢豚は6人前残っていたが、ユリは全部使った。
皿に盛り付けたあと、一皿だけピーマンを抜き、ご飯をよそってくれたユメに「ユメちゃんの分よ」と言って渡した。
抜いたピーマンは残りの4皿に振り分けた。
お茶とサラダを用意したリラと2皿ずつ持っていった。
「酸っぱいタレとお肉がすごく美味しい!」
うんうんとマーレイも頷いている。
「ユリ様、このタレは難しいですか?」
「ここで作るなら簡単だけど、外で作るには難しいかもしれないわ」
「あの、赤いソースですか?」
「そう。あれはケチャップといって、たっぷりのトマトと玉ねぎと香辛料を煮詰めたものなのよ。今度作るわ」
「え!ユリ、ケチャップって作れるの!?」
「作れるわよ。ソースもマヨネーズも作れるわよ。むしろ醤油とか味醂が手に入ってほっとしているわ。麹は扱ったことないから」
ソウは、ソースやケチャップは買ってくるもので、作るという発想自体がなかった。
まあ、普通はそうだろう。
ユリは何でもやってみたくて、自分が使わない辛味調味料まで作ったことがあったのだが、それは恐らく一般的ではない。
「作れないものってないの?」
「代用品でもよければ、あまりないわね」
「じゃあ、ポン酢は?」
「鰹節や昆布を漬け込んだ醤油と柑橘果汁(もしくは酢)ね3:2くらい」
「柚子胡椒」
「青柚子と青唐辛子と塩ね。今度作るわ」
「タルタルソース」
「マヨネーズと茹で玉子とピクルスと玉ねぎとパセリと香辛料ね」
「マヨネーズは?」
「卵黄とお酢と油と塩と香辛料ね」
「ピクルスはどうするの?」
「今作ってるわよ」
ええーと言う顔をしてソウは驚いている。
リラとマーレイは作っているのを知っていたので少し笑っていた。
「サルサソース」
「トマト、玉ねぎ、セロリ、ピーマン、黒胡椒、レモン果汁、辛味調味料」
「じゃあ、オーロラソース」
「マヨネーズとケチャップね。これは代用品だけどね」
ソース系の調味料が思い付かなくなったらしくソウは質問してこなくなった。
「コーラだって、ジンジャエールだって、作ろうと思えば作れるのよ」
「そうなの?」
「コーラは作る気がないけど、ジンジャエールだったら作っても良いわよ?」
「何が必要?」
「砂糖、生姜、黒胡椒、クローブ、シナモンスティック、唐辛子、ローリエかな。あと、炭酸はクエン酸と重曹でも作れるけど、買ってきた方が美味しいわ」
「黒胡椒、クローブ、シナモンスティックだね。今度持ってくるよ。あ、炭酸水も」
「マーレイさん、生姜お願いします」
「かしこまりました」
「どんなお料理ですか?」
「飲み物よ」
リラは聞いて驚いたようだ。
「ユリ様が言った材料で、ローリエはなんですか?」
「外にレモンの木があるのはわかる?」
「はい」
「その隣の木の葉よ」
「月桂樹の葉っぱがローリエなんですね」
「月桂樹、ローリエ、ローレル、ベイリーフ、ベイリーブス、色々呼び方があるわ」
リラは感心して大きく頷いていた。
「リラちゃん3:15頃まで休んできてね」
「はい。ありがとうございます」
リラが休憩にいくと、ユメがそばに来て、「ピーマン抜きありがとにゃ」と言って2階に上がっていった。
「今日は何作るの?」
「オレンジシャーベット1回、梅酒シャーベット6回と3回よ」
「6回と3回?」
「ランチ用が、アルコール抜きで6回、おやつ用にアルコール入りで3回の予定です」
「へぇ、アルコール入りとアルコール抜きを作るのかぁ。味比べしよう!」
「よろしくお願いします」
「マーレイは少し休んでからで良いからな」
「ありがとうございます」
「ソウも今日は大変だったの?」
「あー、待ち合わせた相手が来なくて、まあ、どうにかした」
これは聞いちゃいけないやつだ。
大方、突ったのだろう。
(突撃したという意味)
「いつ始める、いつでも良いよ」
「あ、じゃあ、・・・器洗わなきゃいけないんだけど、一度洗っては有るから水で流すだけなんだけど・・・」
「OK、どれ洗うの?」
「どれ作りたい?」
「アルコール入り」
「それなら、金色のラインがあるココットを65個です」
ユリは梅酒を1200ml避けて残り全部を加熱した。
ゼリー用も加熱する予定なので、問題ない。
刻んだ梅の実は9つに分けて椀に入れた。
梅酒を400mlずつに分け、800mlの薄いシロップをそれぞれに足した。
シロップは10リットル作って冷やしてある。
ソウに合わせてイタリアンメレンゲを仕込む。
一番最後に、刻んだ梅の実を加えてできあがり。
出来上がった梅酒シャーベットは二人で詰めた。
ちょっと時間がなかったので、大デッシャーでポンポンと置いてバット の上でこぼれないように詰めた。
冷凍庫にしまい丁度15:00だ。
ユリは失念していた。
外に並んでいる客を。
「外、並んでるにゃ」
「ユメちゃん!休憩は良いの?」
「朝、黒糖パウンドケーキ貰ったにゃ」
「ありがとう!リラちゃんが戻ったら少し休んでね」
「わかったにゃ」
ユメが、外のお土産のみの客をさばいてくれた。
ユリは店内の注文をさばきながらイタリアンメレンゲを作っていた。
2回目のアルコール入り梅酒シャーベットが出来上がる前にリラとマーレイが戻ってきた。
「持ち帰りラムレーズンアイス、44個売れたにゃ。残り11個にゃ」
「ありがとう!ユメちゃん休憩してね」
追加分が丸々売れた感じだ。
アイスはソウとマーレイさんに任せましょ。
リラは、クッキーを作りながらシャーベットの詰め込みを手伝ったり、店を片付けたりしていた。
ユリは、クッキーを焼きながらイタリアンメレンゲを仕込み、店の様子を見ていた。
マーレイは、クッキーを手伝ったり、シャーベットを詰め込んだり、洗い物をしたりしていた。
ソウは、シャーベットにかかりきりである。
「リラちゃん、器が少し足りないの50くらい洗って冷やせる?」
「はい。洗います!」
今日はクッキーより、アイスクリームパニックの方が酷いようで、いつもよりはクッキーが売れていない。
コレで少しは落ち着くのか、今日だけなのか、明日の様子を見ないとなんとも言えないのである。
3回目のアルコール入り梅酒シャーベットが出来上がり、全部で67個分で来たらしく、器が足りなかった2つ分は普通のココットに入れ、早々にソウとマーレイで食べたらしい。
「旨いな、これ!」
「はい。とても美味しいです!」
まあ、ココットが混ざらないのならむしろ良かった。
リラは、一口もらって断ったそうだ。
続いてアルコールを飛ばした梅酒シャーベットを作って貰った。
飛ばしてはいるが、梅の実を混ぜているので、ラムレーズンアイスクリーム程度のアルコールは入っている。
ユメが戻ってきて手伝いに加わった。
6回目が終了して135個できたらしい。
・・・あれ?1回分要らなかったのでは?
最後にオレンジシャーベットを1回作って作業が終了した。
ちょうど閉店時間だった。
ラムレーズンとりんごの店売りも、ラムレーズンの持ち帰りも、残らず売れた。
加熱した残りの梅酒は、製品にして売るほどはなかったので、家内用でゼリーにした。シロップ煮の梅の実を一つ入れてガラスの容器で作った。それでも25個くらいはできたので、前回のお礼にローズマリーに少し持っていくことにした。
「アルコール抜きの方が、少し甘く感じるな」
「はい。比べなければこちらも美味しいです」
「こっちの方が美味しいです!さっき少し貰った方は、ちょっと苦い感じでした」
「コリコリして美味しいにゃ」
「皆さんありがとう!ゼリーも固まったら一人3個食べてくださいね」
「次はサグパニャーにゃ!」
「はい、持ってきますね」
さぐぱにゃ?ってなんだ?とソウはぶつぶつ言っていたが、リラが「青菜とカッテージチーズのカレーです」と説明したら、「あー、サグ パニールか」と理解したらしい。
「抹茶クッキーみたいな色にゃ」
「主に、ほうれん草の色よ」
「美味しいにゃ!」
「美味しー!白いのがチーズなんですか?」
「牛乳に、お酢とかレモン汁を入れるとできるチーズよ」
「え、チーズも作ったのか!?」
「だって、カッテージチーズ、売ってないでしょ?」
ソウは、ユリが優秀すぎて驚いただけである。




