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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
2章

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青色

「おはようにゃ!」

「おはようユメちゃん」

「ユメちゃんおはようございます!」

「すぐお昼ご飯だから一緒で良い?」

「一緒で良いにゃ。何作ってるにゃ?」

「夏野菜カレーと、青椒肉絲(チンジャオロースー)と、クッキーね」

「クッキーにゃ?」


「はい。これ、ユメちゃんの分です!」


リラがユメに「リラの華」を渡した。


「クッキーにゃ? 凄いにゃ! ブローチみたいにゃ!」

「リラちゃんが作ったのよ」

「リラ凄いにゃ! ユリみたいにゃ!」

「えへへ」


ユメの言う「ユリみたい」は、食品の賛辞としてはユメの中の最高峰の言葉である。


14:00に帰る客と入れ替わるようにソウとマーレイが来た。


「リラちゃん、マーレイさんが先で良いわよ」

「ありがとうございます」


「お父さん! これ、私が作ったの! ユリ様に誉められたんだよ!」

「これはお菓子か? リラ凄いな!」

「うふふ」


リラはソウにクッキーを渡しながら解説する。


「ホシミ様、ユリ様が作ったクッキーの生地を使って私が作りました。ユリ様がこれは売れると言うので20個作りました」

「リラ、センス良いな。さすが芸術系・・・」



「皆さんランチは何食べますか?」

「俺、青椒肉絲(チンジャオロースー)!」

「か、カレー、夏野菜カレーにします」

「あ、ぴーま、カレーにするにゃ!」


ユメはリラの様子と漂うピーマン臭から悟ったらしい。その様子を見たソウから聞かれる。


「なんだ、ユメ、リラ、ピーマン苦手なのか?」


ユメもリラも目線をそらし明確には答えなかった。


「あら、そうなの? でもごめんなさい。両方ピーマン入ってるわ。マーレイさんはどうします?」

「ホシミ様と同じものをお願いします」


「じゃあ、青椒肉絲(チンジャオロースー)2つ、夏野菜カレー2つね。私は半端に残ってるから、青椒肉絲(チンジャオロースー)にしようかしら」



ユメもリラも戦々恐々としていた。

どっちにもピーマンが入っているなんて!

といった感じである。


しかし、ユリの作った夏野菜カレーのピーマンは苦くなかった。

リラは、一口食べて「あれ?」と思い、二口食べて「気のせいじゃない!」と思い、気がつけば食べ終わっていた。


「ユリ様、どうしてこのピーマンは苦くないんですか?」

「油で揚げてから混ぜてあるからね。だから色がきれいだけど、しっかり加熱はされているのよ。それと、カレーは味が濃いからね」


まともなピーマンの料理を食べたことがなかったリラの食わず嫌いだったようだが、ユメは本当に苦手だったのである。

それでもユリとしては、少し避けて少なめによそったのだ。


「アイス食べるにゃー!」

「どうぞー。抹茶と紫芋よ」


ユメは全員分のアイスクリームを厨房の冷凍庫から取ってきた。


「リラのクッキー食べるにゃ!」


「あ! そうだ、リラちゃん、お昼休みが終わったら、このクッキーのプライスカードを絵付きで書いてくれる? この紙に、上に絵を描いて、下に『リラの華』って名前と、その下に値段ね。1枚200☆って」

「はい!!」

「お昼休みが終わってからよ?」

「はーい!」


返事をして休憩室にいってしまった。

ノートを書くならしょうがないけど、少し遅く呼べば良いかしら?とユリは少しだけ諦めた。


「ごちそうさまー」

「ごちそうさまでした」

「あ、ソウ、アイスクリームはチョコと杏を作る予定よ」

「了解!」


ソウとマーレイは仕事に戻るようで、あまり食休みせずに店を出ていった。


「手伝うにゃ?」

「ユメちゃんありがとう。ユメちゃんのお手伝いには何を払えば良いかしら?」

「黒糖パウンドケーキ作ってにゃ」

「わかったわ!また6カットで良い?」

「いいにゃ」


ユリはすぐに作り始めた。

ユメは隣で見ながらユリに質問をしていた。


「どうして白いお砂糖と茶色いお砂糖があるにゃ?」

「お砂糖やお塩の本来の色は透明なのよ。でも粒が小さいから全体的には白く見えるのよ。茶色いお砂糖は、お砂糖以外の成分が残っていたり加えられたりしているのよ」

「お砂糖以外の成分にゃ?」

「黒糖は、サトウキビという植物を絞って煮詰めたものなんだけど、その植物の成分ね。他に、テンサイという大根のような植物からもお砂糖は作られているわ」

「色々有るにゃ?」

「メープルシロップは、サトウカエデの樹液を煮詰めたものだし、蜂蜜は蜂が集めた花の蜜ね。穀物から作る水飴もあるわ」

「ユリが使ってる薄い茶色いお砂糖はなんにゃ?」

「んー、三温糖?」

「それにゃ!」

「三温糖は、昔はグラニュー糖や上白糖を作るときに煮詰める過程で煮詰まったり焦げた部分だったらしいけど、今の技術では焦げたりしないから、できた白い砂糖にカラメルを加えて色をつけているのよ。カラメルは砂糖を焦がした物ね。三温糖はこくを出す料理に使ったりするのよ」

「焦がして入れるなんて へんなのにゃ」

「そうね、何にでも三温糖を使う人は、三温糖が何か知らないのでしょうね」


「グラニュー糖と上白糖の違いはなんにゃ?」

「グラニュー糖は純粋な砂糖で、上白糖は転化糖というものを加えてしっとりさせているのよ。私が居た国では砂糖といったら上白糖だったけど、世界的にはメジャーな砂糖ではないわね。世界的には砂糖といったらグラニュー糖ね」


「白くない塩はなんにゃ?」

「うちに有るのだと、ピンクね。あれは鉄分が含まれているらしいわ」

「さらさらとしっとりはなんにゃ?」

「サラサラが本来の塩よ。しっとりは精製度が低い塩で、あら塩って呼ぶわね。海水の成分が多く残っている塩ね」

「ユリは何でも知ってるのにゃ」

「何でもは知らないわ、知っていることだけ。ふふふ」


「さあ、これを焼けば黒糖パウンドケーキができるわよ」


焼いている途中で15:00になり、リラが一旦戻って来たが、即休憩室に戻り、5分後、「書きましたー!」と言って、とても5分では描けない凝ったプライスカードを持ってきた。


「リラちゃん、ちゃんと休んだ?」

「はい!」

「この絵はいつ描いたの?」

「お休み時間中に描きました」


どうやら、絵を描くのを仕事と認識していないようで、名前とプライスを15:00以降に書けば良いと思ったらしい。

とんちか!と突っ込みたくなるような出来事だった。

ユリは、仕事として頼んだものは、仕事の時間内にするべきものだと説明し、リラがよくてもけじめはつけなければいけないと話した。


抹茶アイスクリームの日は客の出足が遅いようで、一気に満席にはならなかった。


「割りと暇ねぇ。そうだ、リラちゃん、クッキーの続き作ったら良いわよ」

「良いんですか!」

「手伝うにゃー!」


「この、普通の生地と、チョコの生地も使って良いわよ、胡麻と芥子の実も使えるかしらね、あと欲しい色有る?」

「少し薄い緑色と、青い色があると良いなと思います」

「薄い緑は簡単だけど、青ねぇ。ためしにやってみましょうか」


「普通のクッキーは全卵で作るけど、黄色味(きいろみ)がでないように卵白だけで作ります」


ユリはささっと白いクッキー生地を作った。


「今と同じ方法で、青い粉をいれます」

「何の粉ですか?」

「この外、畑に青い花が咲いているでしょう? 蝶豆(バタフライピー)と言って、青い色素がとれるお花なのよ。それの粉ね」

「食べられるお花なんですか?」

「食べて美味しいかはわからないけど、乾燥させてお茶にするのよ。青いお茶ができるわ」


ユリは時計を見て、あ!と気づく。


「あ、ちょっとパウンドケーキ出してくるわ」


ユリは、焼き上がったパウンドケーキを取り出しに行った。

ユメがいたずら心でバタフライピーの粉末をなめてみる。

リラが声をあげそうになって、自分で口を塞いでいた。


「美味しくないにゃ」

「ユメちゃん、大体のお茶はそのままなめても美味しくないわよ?」


後ろからユリに見つかりユメは慌てて謝っていた。


「作っては見たけど、青い色の食べ物ってほとんど無いから美味しそうには見えないらしいわよ。だから使うのは少しにしてね」

「はい!」


リラとユメは楽しそうにクッキーを作り始めた。


おやつタイムの最初の客が帰る頃、それは起こった。


「これは、食べられるのですか?」

「クッキーですよ。素敵ですよね。リラちゃんが作りました」

「一ついただいていこう」

「はい、ありがとうございます」


そして全員が買って帰った。


「リラちゃん、大変!クッキー全部売れちゃった!!」

「全部ですか!?」

「それも、全部違う人が買っていったのよ」

「リラ、凄いにゃ!」

「さっき焼けたの、もうお店に出せるわね。どんどん作ってね」

「はい!」

「いつもと反対にゃ」


ユリがお店で、リラが厨房にいる。

確かにいつもと反対である。


「ユリ様、クッキーの生地無くなりました!」

「え、どれが?」

「青以外全部です」

「しばらくお店見ててね」

「はい」


ユリは、まず出来上がっているものを焼き、ユメに手伝ってもらいながら青以外の6種類の生地を仕込んだ。


色焼けしないように低温でゆっくり焼くので、すぐには焼き上がらない。店に追加で出した20個と、今鉄板に乗っている20個だけだ。


「お店見てくるにゃ!」

「ユメちゃんありがとう!」


アイスクリームと冷茶ならユメでも出せる、ユメはリラと交代し店を見てくれるようだ。


「ユリ様、ユメちゃんが交代って」

「生地できたわ。お願いできる?」

「はい!!」


ソウとマーレイが、倉庫側のドアから帰ってきたようだ。


「ただいまー、忙しいの?」

「リラちゃんのクッキーが売れて追加してるのよ!評判良いのよ!」

「何手伝えば良い?」

「んー、クッキーとお店どっちが良い?」

「アイスクリーム?」

「了解。マーレイさん、リラちゃんの補助お願いします」

「かしこまりました」


「ソウ、アングレーズソースまだだから、杏から作ってもらえる?」

「了解。この紙の通り量れば良いね?」

「はい。お願いします」


焼けたクッキーを取りだし、次の鉄板を釜にいれた。

焼けたクッキーを鉄板から出して冷ましているとユメが来た。


「ユリー、クッキー全部売れたにゃ」

「20個?」

「そうにゃ。今、待ってる人がいるにゃ」

「5分待ってもらって」

「わかったにゃ」


とりあえず何個要るか聞きそびれたわ。と、ユリはユメに聞きに行く。


「ユメちゃん、とりあえず何個あれば良いの?」

「20個にゃ」


ユリはバタバタと慌てて厨房に戻った。

崩れない程度に冷めたので、紙で包んだ。


「お待たせしました。リラの華です」


店から厨房に戻り、リラに報告する。


「今あった分全部売り切れました。今焼いている分しかありません。あと2回分作ってください」

「ええ!」


もう良いだろうとアイスクリームを手伝う気でいたリラとマーレイは驚いた。


「ユリ、杏できたからマーレイ返して」

「あ、はい、マーレイさん中デッシャー150お願いします」

「かしこまりました!」

「ユリ、杏4回、チョコ6回だよね?」

「はい。チョコ中デッシャー150、ココット詰め40です」


ユリはアングレーズソースを作りながらクッキーを見て考えた。

これきっとアルストロメリア会で依頼されるやつだわ。と。


結局クッキーは後から焼いた60個も完売して、ユリは明日用にともう一度生地を仕込み、リラはさらに80個作ったのだった。

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