花型
早朝の厨房。
ユリは今日使う葉っぱクッキーを作っていた。
アイスクリームが抹茶と紫芋なので、クッキーはほんのり黄色くなるように、カボチャを混ぜてみた。
普通の葉っぱ型で作ってみたところ カボチャが結構良い色で、イチョウの葉にするべきかしらと考えたが、軸の部分が折れるわね。と諦めた。
「おはようございます!」
リラが出勤してきた。
先週は、週末も連れ歩いてしまったので、疲れていないか心配だったが、いつもの時間に元気よく出勤してきた。ユリはひと安心した。
「おはよう。リラちゃん疲れていない?大丈夫?」
「はい!元気いっぱいです!」
そう言いながら視線がクッキーを見ている。
「カボチャ入りよ。食べてみる?」
「はい!」
ユリは取りそびれて割れたものや、焼き色を見るために割ったものを入れている皿をリラに渡した。
「カボチャの味がします!」
リラは視線でクッキーを数えたようで、質問してきた。
「ユリ様、アイスクリームにつける分だけですか?」
「そうよ?どうして?」
「アイスクリームを買っていく人が、同じクッキーは売っていないのかって聞いていました」
「そうなの?」
「3人です」
ユリは少し考え、今日の予定を思い起こし決断した。
「なら、作りましょう。葉っぱクッキーを3種類」
「3種類?」
「抹茶入りの葉っぱ、カボチャ入りのイチョウ、紫芋粉入りのモミジよ」
イチョウもモミジも軸の部分を極力短くした
取り合えず、3種類入りを6袋、葉っぱのみを5袋作ってみた。
3種類入り150☆、葉っぱ4枚入り150☆
仕込んだクッキー生地はまだあるが、店の仕込みを開始しないと間に合わなくなるからだ
マーレイが仕入れの品物を持ってきた。
大量の野菜と肉だ。
茄子、ピーマン、ズッキーニ、玉ねぎ、ニンジンだ。八百屋が開けそうである。
今日のランチは夏野菜カレーと、青椒肉絲。
ひたすらピーマンの細切りだ。
頭を薄く落として、おしりも少し落として、開いて種を抜いて、平らになったピーマンをひたすら細切りにしていく。
約80個のピーマンの細切りは結構大変だった。
20個ほどは赤いピーマンだ。
本当は竹の子の細切りがほしいところだけど、手に入らないので諦めた。玉ねぎでも代わりに入れよう。
「手からピーマンの臭いがしますー」
切るのを手伝ったリラが残念そうに訴えている。どうやらピーマンが苦手らしい。
そういえば、チンジャオロースーとは、緑色の甘唐辛子と豚肉の細切り炒めの事で、赤ピーマンが入ると彩椒肉絲で、牛肉で作ると青椒牛肉絲らしいので、店で出すのは彩椒牛肉絲と言うべきかもしれない。
半解凍した牛もも肉を薄切りにして細切りにする。
2kgも有るので、結構大変だった。
切った牛肉は、20個の山にして2枚の金属トレーに乗せて、1枚は冷蔵庫に入れておいた。
ピーマンと玉ねぎもお椀20個に分けていれた。これで2人前ずつなので、忙しくても量らずに作れる。
夏野菜カレーは、ほぼ全ての野菜を油で揚げ、豚肉と玉ねぎだけで作ったルーに混ぜて作る。
茄子、ピーマン、ズッキーニ、ニンジン、を油で揚げる。
元のお店の時は、豚肉ではなくウインナーで作っていたが、ユリはこの国へ来てウインナーを見かけたことがない。
仮にあったとしても、侯爵邸の料理人が挽き肉をひく器械を知らなかったと言うことは、ソーセージ類は高価であると予想できる。
ベーコンでも良かったのだが、ベーコンもみかけない。
先日作ったカルボナーラは、ソウが持ち込んだベーコンだ。
「さて、用意が終わったけど時間余ったわね。リラちゃん、30分休憩するのと、クッキーを作ってみるのどっちが良い?」
「クッキー作りたいです!!」
「なら、練習に好きな形で良いわよ。鉄板1枚分作って良いわよ」
「はい!!」
リラは、朝ユリが残しておいた生地を冷蔵庫に取りに行った。
ユリは、クッキーの抜き型と厚み定規と麺棒を渡し、リラに簡単な説明をした。
厚さがまちまちだと生焼けか、焦げること、あまりギッチリだとくっついてしまうこと、ランチ3分前には終わらせること。
リラは紫芋の生地とカボチャの生地を花型で抜き、中心を小さい丸形で抜いて色を取り替えていた。横に抹茶生地で作った葉を2枚つけ、まるでブローチのようなクッキーを作っていた。
「素敵ねぇ!リラちゃんセンスが良いわぁ。それ、売ってみる?」
「私が作ったのが売れるんですか?」
「それ1つ100~200☆で売れると思うわよ」
「ええー!」
「自分の試食分とマーレイさんにあげる分以外、売ってみたら良いわよ」
「もう少し作ります」
「はい。あ、名前考えてね。名前がないととても面倒なことになるわよ、ふふふ」
名前がないと「何やら話題になったという菓子は無いのかね?」と、いったい何を聞きたいのか いまいちわからない質問がくるのだ。忙しいときの連想ゲームは勘弁してもらいたい。
リラはブローチのようなクッキーを20個ほど作り、15個を売って欲しいと言った。
結局名前はユリにつけて欲しいと言い、ユリは、リラが作った花だからと「リラの華」と名付けた。1個200☆。
ユリの予想通り、後に大ブームになるのである。
ランチが始まり、青椒肉絲の注文が多かったが、提供された料理を見てギョッとする人がかなりいた。
ピーマンが苦手なのかもしれない。
それでも食べだすと美味しかったらしく、凄い勢いで残さず食べていく人ばかりだった。
夏野菜カレーの方も、具材が変わると印象も味も変わるのですね。等と感想を言う人も多く、好評だった。
アイスクリームは、最初は質問がなかったが、食べる前に紫色のアイスクリームについて聞く人がいて説明したら、聞いた本人だけでなく、店の中にいた人全員が驚いていた。
「芋がアイスクリームになるんですか!?」
メニューには、アイスクリーム2色盛りとしか書いていないので、聞かなかった人は「なんだろう?」と思いながら食べたのかもしれない。
ランチが終わる頃、ユメが起きてきた。




