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アルストロメリアのお菓子屋さん  ~ お菓子を作って、お菓子作りを教えて、楽しい異世界生活 ~  作者: 葉山麻代
2章

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宣言

「ラベンダーさん、サリーさんと二人で、卵を15個分割って卵黄と卵白に分けて、卵黄50g、卵白60gを6つ分、量ってもらえますか?卵白は余ります。卵黄が足りなかったらもう1つ割ってください」

「はい」

「かしこまりました」


「裏ごし網を用意してカボチャを裏ごします熱いうちの方が簡単に裏ごせますので、冷めないうちに頑張ってください」


ユリが手早く裏ごし、初参加のメンバーを見てみると、明らかにやる気がなさそうに見える人がいて驚いた。

いままでの人は皆、参加できて嬉しいという印象だったからだ。


「裏ごしが終わったら器を一人4つ確保して軽く洗ってください」


二人で組みたいと主張した新人姉妹は「わたくしが器を洗うんですの!?」と声に出して驚いていた。

王族の皆さんにもやらせているので、反論されても今さら(ひる)みはしないが、少し面倒だなとユリは思っていた。

伯爵の娘だったか、世間的には身分が高いのかもしれないが、今は一律ユリの生徒だ。


ユリの分は、サリーが先に洗っておいてくれていた。さすがだ。


「配られた卵は、卵黄2.5個、卵白1.5個分です。卵黄と卵白を混ぜてから砂糖を加えてください」


説明を聞いていないのか新人姉妹は卵を混ぜる前に砂糖を加えていた。今日は液卵状態なので支障がないが、卵黄の薄い幕に砂糖がつくとダマになりやすい。


「牛乳を鍋に入れ、火にかけて温めてください。誰か見ていないと吹き零れますよ」


わざわざ注意したのに吹きこぼしていた。

やはりあの二人組だ。

メイドが新しい牛乳に変えて火加減も見ていた。


「卵に裏ごしたカボチャを加え、しっかり混ったら温めた牛乳と生クリームとバニラエッセンスを加えて混ぜてください」


注意してみていると、ろくにカボチャを混ぜないまま牛乳や生クリームを加えていた。あれではこの後が大変だろう。


「裏ごしてから表面のあくを取り除き型に流し入れます」


予想通り、皆特に引っ掛からず網を抜けるのに、あの二人組はもう一度裏ごすような状況だった。

説明を聞かない人や、やる気のない人を指導するのは嫌だなぁ。

ユリはうんざりしていた。


「蒸し器か、170℃の釜で35分間蒸し焼きします。蒸し焼きとは、天板にお湯を入れてその中に型を入れて焼くことです。今日は、蒸し器で加熱します」


蒸し器に全員のパンプキンプリンを並べた。


「この間に片付けをします。固いのが好みなら少し置いてから取り出すと良いです。私は柔らかい方が美味しいと思います!」


やる気のない二人があまりに不思議で、ラベンダーにこっそり聞いてみた。すると、メローイエローと言う家名はいままで聞いたことがないと言う。

偽貴族なの?でもローズマリーさんが紹介するんだからそんなわけないわよね?

なんなんだろう?


すると、珍しくメイドか走ってこちらへやって来た。

サリーに何か言うと、サリーがローズマリーに告げていた。

サリーがユリにも告げる。


「ユリ様、御者の娘が到着したそうなのですが、様子がおかしいらしいです」

「え!リラちゃんが?」


「サリー、ユリ様をご案内なさい」

「かしこまりました」


サリーはユリを、リラのいるところへ案内した。

途中、お知らせに来たメイドから直接様子を教えてもらった。

怯えているのではなく、困惑していてユリに知らせて欲しいと頼まれたそうだ。


「あ!ユリ様!」

「リラちゃん、大丈夫だった?」

「大丈夫にゃ?」


一緒に来たユメも心配して訪ねていた。


「大丈夫です。でも、手紙をもらいました。読んだけどよくわかりませんでした」

「私が見ても良いの?」

「お願いします」


それは、ライラックからの手紙だった。

きちんとした身なりの男性が持ってきたらしい。

その手紙は、貴族言葉で難しい言い回しで書いてあり、ユリでも読むのに苦労した。

そして、内容はあまり理解できない。


「この手紙は預かって良いかしら?」

「はい。読んでもわかりませんし、お願いします」


リラのことは、お知らせに来たメイドが厨房を案内してくれるらしい。ユリの弟子なら歓迎されるはずなのだとか。

リラも乗り気だったので、よろしくお願いしてアルストロメリア会に戻った。


「ユリ先生、大丈夫でしたの?」

「はい。ありがとうございます。読めない手紙をもらって困っていたようです」


ユリは手紙の黄色い封筒を見せた。


「読めない手紙?ですの?」

「預かりましたが、私でも難しすぎてよくわかりません」

「もしかして、貴族的な言い回しですの?」

「おそらくそれだと思います」


少し考えたらしいローズマリーが小声で訪ねる。


「拝見させていただいても?」

「私が読む限り、大丈夫だと思います」


ユリは手紙をローズマリーに渡した。

少し眉をしかめながら読んでいたローズマリーが、やっと読み終わったのか、ため息混じりに言う。


「はぁ、これは、私の世代でも難読ですわね」

「えぇー、貴族特有とかじゃないんですか?」

「相手の方はおいくつですの?」

「13歳です」

「平民の13歳相手にこれは・・・」


少し考えたのか、ユリやリラに分かりやすく翻訳してくれるようだ。


「平民の13歳にわかるように言うなら、『あなたが許してくれないと私の謹慎が解けない』と言う感じの事がとても難しい言い回しで書いてあるようですわ」


内容は、結局自分の都合だったらしい。


「その手紙に、謝罪している箇所はありますか?」

「ございませんわね」

「ご免なさいを言わない相手をきっかけもなくどうやって許せば良いのでしょうか?」


ユリは自分の事なら流せるが、立場の弱い相手を追い込むようなやり方は捨て置けない。


「ユリ先生は相手が謝ったら許すのですか?」

「程度によります」


ローズマリーは、ライラックが苦手だが、ユリともめて欲しいわけではない。

よくも悪くも拒絶しなければ長引くと悟った。


「手紙でお返事をかかれた方がよろしいですわよ?」

「二度と関わってこなければ不問といたします。とか書けば良いですか?」


天涯孤独で生きてきたのだ。ユリは弱いわけではない。そして、下町発想なので言葉がハッキリとしていて意外ときつい。

そのため、普段は丁寧に話すように心がけている。


「では、その内容で貴族言葉に直した文書を作りましょう」


無駄にもめないように言葉を直そうと、ローズマリーが文を作ることになった。


リラがまだ13歳であること、リラには二度と関わらないこと、ユリに面倒をかけないこと、ユリもリラも貴族言葉は理解できないことを盛り込んでもらい、上記を守れるなら今までの事は一切不問にすると、正式な文書を作ってもらった。

最後に、通称ではない正式な名前を書いて署名とし、家紋の(いん)の代わりに六芒星を描くように言われた。

ユリは知らないが、ソウを表す紋だ。


侯爵の執務室に案内され、正式文書として魔力通信の手紙転移装置で送信した。現物が手元に残り、Faxみたいだった。


アルストロメリア会に戻ると、ちょうどパンプキンプリンが出来ていた。

これから あら熱を取って冷やしてもらう。


冷やす間に昼食をとることになった。


相変わらずメニューが、グラタンである。

でも参加者には好評のようだ。

ユリは伝え忘れたことを、退席を詫びてから話した。


「カボチャは安い美味しい時期に大量に蒸してうらごしておくとべんりです。裏ごしたカボチャの重量の1割に当たる量の砂糖を加えてからよく混ぜて450gずつに取り分けて冷凍しておけばいつでも美味しいカボチャプリンが作れます。この場合、砂糖は140gで作ります。今日の倍の配合です」


ここの人にしてみれば、カボチャの冷凍のために魔力を使うのは、ためらうかもしれないとは、ユリには思い付かない。


冷えたパンプキンプリンが持ち込まれ、ユリはユメに与え、残りはラベンダーに4つ、サリーに3つ渡した。するとラベンダーが1つ取り、3つをサリーに渡した。

合計6つ渡されたサリーは少し困惑したようでおろおろしていたが、「みんなで食べるならそれでも足りないでしょ?」とラベンダーに言われ、感激して泣きそうになっていた。


次回はアイス箱によるアイスクリームの実習が希望らしい。


アルストロメリア会の解散後、ラベンダー、ローズ、ピアニー、カーネーションに残ってもらった。

料理人への荷物ではあるが、高価なため一声かけた方が良いだろうと思ったと理由を告げた。

それぞれ、お付きの者を呼んでもらい、3家にはアレンジレシピを添え、そのまま渡した。


パープル侯爵家の分は、ユリが持っていく。運ぶのはメイドであるが。


屋敷の厨房では、リラが大歓迎されていた。

アイスクリームを沢山作った話や、ユリに教えてもらった料理を父親に作ったら泣くほど喜ばれた話や、お店にも出していないアイスクリームを食べた話をしたらしい。


「リラちゃん、覚えたものならレシピも教えて構わないわよ」

「え!そうなのですか!?皆さんが、ユリ様にちゃんと許可取ってからにした方が良いって・・・」


ここの人たちは、とてもまともな人たちなんだなとユリは思った。


「お店に出していないものはね。出しているものは、ここに有る器具で作れるならかまわないわ」

「!!!」


「料理長さん、ミートミンサーとレシピ、持ってきました」


ユリが料理長に声をかけると、料理長以下全員が懇願してくる。


「ユリ・ハナノ様!親子丼とカツ丼とロールチキン、是非教えてください!!!!!」


「私がタレだけ配合書けば、リラちゃん作れるでしょ?」

「はい」

「おおー!!!」

「次回来たときにでも ふふふ」


帰り、リラはユメに手を握られ、ユリたちと一緒に馬車の客車に乗って帰った。

「まるでお部屋にいるみたいに揺れなかった!」と、リラは驚いていた。



家に帰って、リラがもらった手紙を見せると怪訝な顔をしたソウだが、送った手紙を見せると、とても上機嫌になった。


正式な文書で、ソウの庇護下を明言したようなものなのだから、上機嫌にもなるわけである。

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