鳥巻
16:30頃、ソウとマーレイが戻ってきた。
お店も割りと暇だし、作り始めてしまいましよう。
すでにアングレーズソースは作ってあるので、今日は楽なはずだ。
「先にバニラ6回、黒蜜きな粉4回、ココット40、中デッシャー140です」
皆慣れたものでどんどん作っていってくれるのがありがたい。
中デッシャーは2つ出して作業も早い。
ユリは、持ち帰りアイスクリームに、黒蜜をつけて売ることを考えていた。
しかし、持ち帰る手段が思い付かない。
そこで皆に聞いてみることにした。
「ちょっと相談なんだけど、液体を持ち帰るにはどうしたら良いのかしら?」
「具体的に何を持ち帰るの?」
ソウに聞かれユリは答える。
「黒蜜」
「マーレイ、酒って何に入ってるんだ?」
「陶器の入れ物で、木のようなもので栓をして使います。もしくは植物の入れ物でございます」
植物と聞いてユリが真っ先に思い描いたのが雪だるまのようなあの形だ。
「植物? 瓢箪とか?・・・あ!竹筒かしら?」
植物容器は黒蜜には向かないとソウが否定する。
「瓢箪も、竹も、わずかずつ漏れるんじゃないか? 漏れるからこそ気化熱で冷たいんだったと思うよ」
「そうなの!? うーん。陶器の入れ物は高いのかしら?」
ユリは入れ物のいっぱいまで入れるつもりなので思い付かないが、ミルクピッチャーなどに半量以下で入れて冷凍で売れば、凍らないまでも移動中さほど困らないのである。
「何か良いのが思い付いたら教えてね」
「わかった」
「かしこまりました」
ユメとリラが黄粉について語っている。
「黄粉は煎り大豆の粉にゃ」
「お豆なんですか!? 黄粉って不思議な粉ですね。お豆なのにお菓子になって美味しくて、アイスクリームにもなって凄いですね!」
順調に進み無事閉店し、早くから始めたため、19:30前には作業が終わった。
家内分は、バニラ10個、黒蜜黄粉は11個できたらしい。
ユリが黒蜜黄粉を1つ、マーレイが1つずつ、3人が3つずつ貰った。
「夕飯のリクエストありますか?」
「ランチは残ってないんだったな」
「甘いのが良いにゃ!」
「甘いお料理食べてみたいです!」
マーレイは一人顔が青かった。
「鶏肉の照り焼きはいかがでしょう?」
「確かに甘いな」
「それにするにゃ!」
「食べてみたいです!」
「同じものを・・・お願いします・・・」
「リラちゃん、見るならいらっしゃい」
「はい!」
「一緒に見るにゃ!」
ユリたちは夕飯を作りに行った。
マーレイは顔色が優れない。
要らないなら断れば良いのに、遠慮して嫌だと言わないでいる。ソウはマーレイの不安に思っていることを安心させようとした。
「マーレイ、ユリの作る照り焼きは大丈夫だぞ。ジャムのスープみたいなのは出てこないから」
「は、はい。すみません。ユリ・ハナノ様のお料理は全て美味しいですね。あれとは違いますね」
マーレイがトラウマ級に嫌いな、甘い野菜のスープは、ジャムレベルの甘さだったらしい。
その頃厨房では。
「これをね、色づくまで焼いたら、お酒と味醂と砂糖と醤油で味つけるのよ」
「わー!良い匂ーい!」
「おいしそうにゃ!」
「煮詰まってくると艶が出てくるから更に美味しそうになるわよ」
「お皿要るにゃ?」
「お茶とお箸とフォーク出します」
「お願いしまーす」
ユメは皿をとってきてくれ、リラはお茶とカトラリーを出してくれた。
「これを、くるくるーとほどいて、包丁で食べやすい厚さに切ります」
「やってみるにゃ!」
「私もやってみます!」
「熱いから気を付けてね」
「はい!」
「切るのは今日は私がするわ」
二人は、紐をほどくのだけチャレンジしてみた。
「サラダ用意してきます!」
「ごはん乗せるにゃ!」
「お願いしまーす」
リラがサラダを用意し、ユメはご飯をよそってくれた。
ユリがトレーに3皿、ユメとリラは自分の分を持ってきた。
「お!ロールチキン!」
「お手伝いしてくれる人が居ると作るのが早いわねー」
リラとユメが手伝ったことを主張する。
「お父さん、鶏肉に紐を巻いて焼いたんだよ!」
「一緒に巻いたにゃ!」
「さあ、どうぞ」
「いただきます!」
「いただきますにゃ」
「いただきまーす」
「い、いただきます」
「はい、いただきます」
皆、挨拶はしたものの、食べずにマーレイを見ていた。
気づかずマーレイが一口食べる。
「こ、これは! 甘くてうまい!!、あ、いえ、とても美味しいです!」
皆ひと安心してから食べ出した。
「おいしぃー!」
「おいしいにゃ!」
「柔らかくてうまいな」
「良かった。手間が多くてお店では ちょっと出せないからね」
ユリは自分が食べたかったので作る予定でいて、そのためにランチ予定の肉が届く前から大きめな鶏もも肉が5枚あったのだ。
親子丼なら15人前できる。
「照り焼きより柔らかくて旨味たっぷりで良いな」
ソウも気に入ったようだ。
時間があれば、茹でた細切り野菜を中心に巻いて作るのだが、お手伝いの二人には少しハードルが高いので、今日は鶏肉だけである。
食べ終わったユリは冷蔵庫からゼリーを持ってきた。
「デザートに、ゼリーはいかが?」
もちろん全員が食べると言った。
仕事が早く終わったので、少し時間がかかる夕食を自分達のために作って、ユリはとても満足した。
このところ忙しすぎて、夕飯はランチの残りばかりで、皆にも気を使わせていた自覚があるからだ。
「明日は定番がイチゴですが、ほかは何が良いですか?」
「食べたことの無いのが良いにゃ!」
「ユリ様、お芋のアイスクリームは作らないのですか?」
「忘れてたわ! あ、でもピンクと紫ね・・・紫芋は抹茶の時に作ろうと思います。何か、黄色か緑のものを考えておきます」
「楽しみです!」
「はい、では解散です。今日もありがとうございました。また明日お願いします」




