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プロローグ

春の暖かい日、高そうな服を着たその人はカウンターに有ったお菓子を見て目を見張り、一瞬固まった後にこう言った。


「君は菓子が作れるのか!?」


まあ、作れるからそこにある訳で。

洋菓子屋で売っている物に比べたら、いまいちぱっとしない素人の作ったものの自覚があるので少し謙遜した。


「えぇ、たしなみ程度ですが」


少し被せぎみにその人は言う。


「ぜひ君には菓子を売る店をやってほしい。いくらでも協力はする!」


いくらでも協力するって、何を協力してくれる気なのでしょう?

作れはするけど私はお菓子が専門じゃないのにどうしてそうなった。

そもそもこの人は誰だろう?

確かに以前 領主御一行で一緒に来ていたけど、自己紹介もないし、どんな人かもわからないし、そしてなぜ私に?

疑問はつきないけど、どうしようかしら。


「・・・はあ。プロのようにはできませんよ?」


「今そこに有る菓子で十分だ」


まあ、これ以上を求められても困るけど、そもそもそんなに色々は作れないし、これで良いって、それなら何とかなるかな?


「そうですか。それでしたら」


このあと、「私は領主補佐をしている。怪しいものではない」的な自己紹介があったけど、頭いっぱいで良く覚えていない。


なぜか私はこの領地の偉い人からお菓子を作るように頼まれた。


私の名前はユリ・ハナノ。

職業は料理人。

ここは私の新しいお店。


四人がけの大きなテーブル2つと二人がけの小さなテーブル2つとカウンターが3席あって、全部で15席。


天然の木材そのままの木を使った趣のあるテーブルと椅子。

一枚板のカウンターは、端にレジと籠に入ったお菓子が並んでいる。

カウンターの後ろには飾ってあるだけのお酒がオブジェとしておいてある。


店から厨房は覗けない仕組みらしく、内緒の器材は客から見えないらしい。


私はこの国に来たばかりで、いや、この世界に来たのすら最近なのだ。


今そこにあったお菓子は、ごく普通のクッキーや、パウンドケーキで、珍しいものではない。


洋菓子屋ならどこにでも売っていそうな品だ。


この国、いやこの世界は、私が元居た所よりも文明が遅れている。


この世界の人たちがカルチャーショックを受けないようにと、あまり派手なものは作っていない。


そもそも私は料理人ではあるが、菓子職人(パティシエール)ではない。

菓子作りの腕前はその辺の女子と何ら変わらない。


まあ、好きで作っているので、作れる方ではあると思うけど。


なのになぜこうなったかと言えば、私以外に女子の料理人が居ないからなのだろう。


他の皆さんは、○○料理の専門家らしいけど、この国にはお菓子屋さんすらいなかったようだ。


私は庶民向けの定食屋の片隅に、趣味で作ったお菓子を置いていた。ただそれだけなのだ


事前の説明になかったけれど、この国では花の名前を持つ女の子は魔力があるらしい。


当然私にはない。はずだったのに、どうやら私にも魔力があり、その魔力が作るものに影響しているみたいなのだ。


もとの世界では魔力はなかったと思うのでビックリしている。


ようは、魔力持ちが作った菓子は特別な効果があるということらしい。


でもこの条件なら他にもお菓子を作る花の名前の女の子がいそうなものだけど、女性の料理人が居ないため、見ず知らずの他人のために作ってくれる女の人は皆無なのだとか。




私は菓子をメインに作る事に少しだけ戸惑っていた。


一緒に住んでいる友人に相談せずに話を進めてしまったからだ。


「ユリどうしたの?」


声をかけたのはソウ。一緒に住んでいる。

といっても夫婦や恋人同士ではない。

黒髪で背の高い整った容姿の頼りになる幼馴染み。


「ソウ!帰ってきたのね。おかえりなさい」

「ただいま。なにかあった?」

「今ね、ここの偉い人?が見えて、私にお菓子を作って欲しいって」


自身の言葉に首をかしげながらソウに言った。

頼まれた以上作ることは決定事項でも何だか納得ができないでいるのだ。

ソウに肯定して欲しかったのだと思う。


「ユリのお菓子美味しいから自信持ちなよ」


欲しい言葉を言ってくれたソウに表情を緩め安堵する。


「ありがとう」


少し落ち着いたら、ソウが大事そうに抱えている艶のある黒い固まりに気がついた。


「ソウ、それはなあに?」


塊だと思ったそれはピクリと動き、何かの動物に思えた。


「こいつ、馬車に轢かれたみたいで怪我しててさ、手当てしたら懐いたんで連れてきたんだけど、ここで飼っても良い?」


そばに寄ると、首をもたげてこちらを見たそれは黒猫のようだ。きれいな青い瞳が美しい。


「かわいいー!」

「黒猫っぽいけど、どうもただの猫ではないみたいで凄く頭が良いんだよ」


好奇心いっぱいでユリはニコニコ近寄った。


「へぇ、名前は何て言うの?」

「な、名前な、にゃんことか呼んでたけど、ちゃんとつけた方が良いよな、なんか有る?」

「私がつけて良いの?なら、夢、ユメちゃんが良いな」

「ナーゴ!」

「お!気に入ったのか?」


すると黒猫のユメはソウの腕から飛び降り、淡く光だした。


二人は何事かと唖然として見ているとユメは黒髪に青い瞳の小さな猫耳女の子の姿になった。


「名前をありがとにゃ。これからよろしくにゃ!」


可愛らしい高い声でそれだけ言うとまた淡く発光し、元の黒猫の姿に戻った。


「なんだったんだ・・・」

「今のユメちゃんだよね?どっちも可愛いー!」


呆然とするソウを尻目にユリは大喜びだ。


「俺と居た時は、こんなことなかったのに・・・」


ソウは、旅の途中で色々話しかけたのを、今さらながら頭が痛いと思っていたのである。


「俺、ユリのこと色々・・・」

「なあに?私がどうしたの?」

「イヤなんでもない」

「ナーゴ!」


なにも言わないよとでも鳴いたのだろうか、ユメは一鳴きすると丸まって又眠り込んだ。


◇◇◇◇◇


俺の名前はソウ・ホシミ

少し特殊な配達人をしている。


俺には魔力のようなものがあり、空間転移ができる。


先祖は『星読み』とか『月読み(つくよみ)』とか呼ばれていた一族らしい。

数代に一度くらい女子に予知能力者が生まれる家系なんだとか。

なので男子には継承権がないらしく、生まれてすぐに養子に出された。


普通は、男子には力が発現しないとかで今まで本家から ないがしろにされていたのに、力があるとわかったら一族総出で取り込みに来た。

激しくウザかったので、逃げたというわけだ。


だが、ユリには詳しいことを話していない

転移能力があることだけ言ってある。

パティシエ=男性の菓子職人

パティシエール=女性の菓子職人

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― 新着の感想 ―
[気になる点] いや、女性が作ると料理やお菓子に特別な効果が付くなら、むしろ料理人や菓子職人は女だらけじゃないとおかしいでしょ。男じゃあ逆立ちしても出来ないような利益を出せるんだから。男だらけになって…
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