承
翌日。
「昨日は悪かったな。ちょっと、この本を読んでみてくれ」
そう言って友人が僕に押し付けたのが、二冊の本。
ミステリ小説好きな彼らしく、両方とも、そのジャンルの文庫本だった。長編ではなく短編集であり、タイトルは『犯行現場へ急げ アメリカ探偵作家クラブ傑作選(4)』と『ミニ・ミステリ100(上)』。
こういう小説には疎い僕でも読みやすいように、短編集を貸してくれたのだろうか。
前者は「アメリカ探偵作家クラブ傑作選」と銘打ってあるくらいだから、レベルの高い作品ばかりなのだろう。後者は有名なSF作家が編集した本であり、一瞬「なぜSF作家がミステリ小説のアンソロジーを?」と思ってしまったが、確かこの作家は、推理作家としても有名――僕でも知っているくらいに有名――だったはず。
「つまり、初心者にオススメのミステリ短編ばかり、ということか?」
だが、それだけではあるまい。
昨日の今日だから、彼が僕の部屋から逃げ出した理由にも、関わりがあるのでないか。謎解き小説が大好きな彼だから、答えを直接告げるのではなく、こうして「自分で謎を解け」と言わんばかりに、ヒントだけ与えてくれたのではないか。
いわば、友人からの挑戦状だ!
部屋に帰った僕は、二冊の本を前にして、座り込んだ。
暗号だとしたら、作品タイトルに何か意味があるのかもしれない。
そんな考えも頭をよぎったが、まずは純粋に短編小説として読んでみよう、と思った。
でも読書慣れしていない僕は、一気に二冊も本を読むのは気が重くて、とりあえず目次を眺める。といっても「作品タイトルに何か意味が」云々で、収録作品名をチェックしたわけではない。ただ単純に、最初は読みやすそうな、ページ数が少なくて面白そうな作品から読んでいこう、と考えたのだ。
すると目についたのが、10ページにも満たない作品。しかも、それは両方の短編集に、共通して含まれている!
「なるほど。二冊を重ね合わせると浮かび上がってくる、この一つの短編。これこそが、彼が僕に読ませたいものであり、昨日の不可解な行動の謎を解く、大事なヒントなわけだな?」
僕はニヤリと笑いながら、その短編を読み始めて……。