第9話
第9話
次の日の朝。(8月21日)
洗面所から出る姉と、起きてきたばかりでパジャマ姿の妹。
妹 「お姉ちゃん、おはよう」
女の人「おはよう。あれっ、今日は何時もと『風』(妹の)が違うね」
妹 「うーん」「そうかも知んない」
………ダイニングキッチン………
テーブルに向かい合って座る姉妹。キッチンには母親が立ち、洗い物をしている。
妹の前には、コーヒー・トースト2枚・イチゴジャムの瓶。
姉の前には、ご飯・味噌汁・厚焼き玉子2切・海苔2枚・焼き鯵の切身2切・お浸し。
姉妹 「頂きます」
妹 「お姉ちゃん、今日は私の修行に付き合って」
女の人「いいよ。何をするつもりなの?」
妹 「使ってみたい『力』があるんだぁ」
「昨日『操作』されてる時に、私の力を探られたんだと思う」
「だから・・」
女の人「ちょっと!、お母さんに聞かれるじゃない!」
妹 「大丈夫だよっ」
〈姉妹が母親の方を見る〉
「ちゃんと『風』を起こしてるからね」
………午前9時:姉の車:とある交差点:赤信号で停車中………
妹 「ここはどう?」
女の人「神社の方向だね」
妹 「これって『誘導』だよね。条件付きで特定の人に影響を与えてる」
女の人「でも、全部 人が作り出してる訳でもなさそうだよ」
「山や川といった地形が作る『風』もあるみたいだね」
妹 「うん。そうみたいだね・・」
「ふふっ」「この場所に働いてる『力』は大体分かったよぉ」
「さあ、他の場所にも行こうよ」
………1時間後………
妹 「さてと。もうこれ位でいいかな・・」
「お姉ちゃん次は、此の間 風を鎮めに行ったスーパーに寄って」(第3話の場所)
女の人「分かった」
妹 「あのスーパーって、3階と屋上が駐車場なんだけど、」
「店に入るエレベーターとエスカレーターが全部で5ヶ所も有るの」
女の人「それって、よくある事じゃないの?」
妹 「うーん、そうなんだけどぉ」「まあ、行けば分かるって」
………大型スーパー………
屋上の真ん中辺りに車を止める。
姉妹は車から降りて、中央のエレベーターがある所へ真っ直ぐに向かう。
………エレベーター前………
姉妹がガラス扉を開けて建物の中に入ると、エレベーターの前に神楽が独り立っていた。
姉妹 「神楽さんっ!」
女の人「こんにちは」
妹 「・・こんにちは」
神楽 「はい。こんにちは」「早かったですね」
「現在、神代のメンバーが1人欠けたので、」
「彼らの行動に変化がないか調査しているところです」
妹 「ああやっぱり、ここには何かあるんだよっ」
「って、この展開は お茶ぁ?」
神楽 「そうですね。お茶にしましょうか」
………喫茶店(店舗内)中央の席:3人ともアイスコーヒーを頼む………
女の人「えっ?」
「私が屋上の あの場所に車を止めて、」
「エレベーターに向かったのは偶然じゃないんですか?」
神楽 「はい。神代が仕掛けた『誘導』の力によるものです」
「先日、『選択』についての お話をしましたよね?」
「彼等の狙いは、一般人に『ある物』の無駄遣いをさせる事」
「『誘導』を使えば、」
「一般人を迷わせたり、能力者だけを特定の場所に導く事も可能です」
〈ウェイトレスがアイスコーヒーを運んで来る〉
妹 「そう、それ」
「『操作』に対抗するには『誘導』しかないよね?神楽さん」
神楽 「その質問には お答えできませんが、」
「『誘導』を使うには、効果の範囲と効力を掛け合わせた分の力が必要です」
「それに、『操作』が使える能力者と対峙できるのはAクラス以上」
「策も無しに近付くのは大変危険です」
女の人「ちょっと話を戻しますけど、」
「迷うくらいで『ある物』を無駄遣いさせられるんですか?」
神楽 「貴女方は普段、『選べるモノ』をどのくらい目にしていますか?」
「店に並ぶ商品、自動販売機、目的地までの道のり、駐車場」
「同じ物、同じに見えて違う物、全く違う物」
「全てに於いて『ある物』を消費します」
「彼等は町の至る所に『誘導』を仕掛け、」
「我々が無効化しても数日で同じ状態にしてしまいます」
妹 「『誘導』って、そんなに簡単に使えちゃうの?」
神楽 「効果の対象が一般人ならCクラスで十分です」
「但し、能力者のレベルが違えば、効力も継続時間も変わります」
妹 「・・・」
神楽 「心配しなくても、貴女方なら努力次第でSクラスまで行けますよっ」
女の人「えーと、それなら、神代のメンバーは どうやって回避してるんですか?」
「私、よく引っ掛かるみたいだし・・」
神楽 「彼等は普段『規則性』を用います」
「『条件』と『行動』を対応させる、所謂『アルゴリズム』を持っています」
「勿論、敵に推察されると脆いですが、」
「偶然が重なる事でもない限り倒すのは難しいでしょうね」
姉妹 「・・・」
神楽 「そうですねえ。ではヒントを1つ」
「我々は なるべく、」
「山や川といった自然の地形から生まれる『風』に合わせて、」
「建物が建てられるように働きかけています」
「例えば昔からある神社等は、風を調べて建てられたものが殆どです」
「という訳で、」
「困った時は、自然に吹く風の方向に行くと良い事があるかも知れませんよ?」
………姉の車:駐車場………
妹 「お姉ちゃん、家に帰ろ」
女の人「・・うん」
妹 「神楽さんの話、ちょっとショックだったね」
………昼食後:玄関で靴を履く妹………
女の人「独りで出掛けるの?」
妹 「うん。確かめたい事があるんだぁ」
女の人「・・そう、気を付けてね」「いってらっしゃい」
妹は近くのバス停からバスに乗り、駅へ。
………駅構内:券売機の近くに女性が独り(20歳位で髪が短く容姿端麗)………
〈妹は女性の前まで歩いて行く〉
女性 「初めまして。私は、『御影』と申します」
「私と一緒に来て頂けませんか?」
妹 「はい」
二人が駅前の道路に出ると、黒い車が止まる。
直ぐ様 運転席から女性が降りてきて、(20歳位、細身で胸が大きい)
御影に軽く頭を下げた後、駅の中へ消えて行った。
御影 「どうぞ、乗って下さい」
〈御影は運転席、妹は助手席に座る〉
「これから、霹靂神の支部に向かいます」(御影は車を出す)
「・・・」
〈無言の状態が暫く続く〉
妹 「私、後で記憶を消されたりするんですか?」
御影 「いいえ」「記憶を消す事は可能ですが、貴女には使いません」
妹 「私を霹靂神に誘ってるんですよね?」
御影 「はい」「でも、それは貴女が決める事です」
「貴女が叶えたい『夢』は何ですか?」
「神楽か霹靂神か、夢が叶う可能性がある方を選んで下さい」
………10分後:12階建ての真新しいビルの地下に車を止める………
御影 「こちらです」
妹は御影の後を付いて歩き、近くのエレベーターに乗る。
………エレベーター内(最上階のボタンが点灯)………
御影 「まず、私の姉に会って下さい」
妹 「はい」
………最上階:部屋の扉の前:御影が扉をノックする………
女性 「どうぞ」
御影と妹が中に入ると、そこは大きな窓がある部屋で、
大きな机に女性が独り座っていた。(25歳位、髪が長く、御影とは似ていないが美人)
女性 「私の名は『閃緑』」「この支部を任されている」
妹 「私、まだ・・」
閃緑 「いいよ。少し時間あるから」
妹 「・・・」
閃緑 「ねえ、何か『気配』を感じないかい?」
「霹靂神様がいらっしゃったら、もう帰れなくなるよ?」
妹 「あのう、1つ聞いてもいいですか?」
閃緑 「何だい?」
妹 「何故、あの女の子を無力化させたんですか?」
閃緑 「別に計画してた訳じゃない。その場の判断でそうなった」「気まぐれだよ」
妹 「あっ、それから もう1つ」
「神楽さんの事」「どう思います?」
閃緑 「好きでも嫌いでもないよ」「敵だけどね」
〈全員無言のまま1分が経過する〉
妹 「私、今日は帰ります」
閃緑 「そう」「それなら、御影に家まで送らせよう」
妹 「それは助かります」
妹は閃緑に会釈して、御影と共に部屋を出る。
………黒い車………
御影 「それでは、貴女の家までお送りします」
二人が駐車場を出ると、
入れ違いに青い車(乗用車より一回り大きい)がビルに入って行った。
御影 「霹靂神様がいらっしゃいました」
「私は、お目通りできなくて残念です・・」