第8話
第8話
姉妹 「神楽さんっ!」
〈神楽は男性の方を向き〉
神楽 「後をお願いします」
〈男性は姉妹に会釈して踵を返す〉
女の人「どうして此処が分かったんですか?」
神楽 「霹靂神のメンバーが動いているとの連絡あり、風と気配を探りました」
「『操作』を得意とする姉妹で、テレパスです」
妹 「神楽さん、これぇ」
〈掌の『潰れた折鶴』を見せる〉
「ここに入れてたんだけどぉ・・」(左腰にある ポーチを指差す)
神楽 「そうですねえ。立ち話も何ですから、お茶にしませんか?」
………喫茶店(店舗内)奥の席:神楽と姉妹が向かい合って座る(妹が通路側)………
神楽 「折鶴を拝見しても宜しいですか?」
妹 「はい」
〈神楽は折鶴を受け取ると、右手の親指と人差し指で挟み、目を閉じた:2秒〉
神楽 「これは『貸与』を基にして、『無』の力に変えた物ですね」
「対象者は、神代のメンバーで4歳の女の子」
「能力を持たない母親に『力』を供給する為、何時も親子で一緒に居ます」
女の人「もしかして・・」(姉は妹を見る)
妹 「コンビニまで追っ掛けて来た能力者だよね」(妹も姉を見る)
女の人「あの時は逃げるのが先でハッキリ見なかったけど、かなり強そうだった」
〈ウェイトレスが氷水を運んで来る〉
神楽 「アイスコーヒーをお願いします」
女の人「私も同じ物を」
妹 「私、パフェ」
〈ウェイトレスが席を離れる〉
女の人「なんでそんな物 注文するの!?」
妹 「だって、話が長くなりそうだから・・」
神楽 「では、今日あった事を詳しく話して頂けませんか?」
………5分後:ウェイトレスがアイスコーヒーとパフェを運んで来る………
神楽 「はい。大体分かりました」
「貴女方が見た人達は皆、操られて その場所に来ています」
「そして、妹さんが心を奪われている間に『操作』の力を掛けられたんですね」
女の人「えーと確か、珍しい車の周りに怪しい人は居なかったから、」
「カモシカさんに見惚れてる時、私達の後ろに居たって事かなぁ?」
「全然気が付かなかったけど・・」
妹 「でも、どうして私なんだろう」
神楽 「それは、能力者を無力化できる『無』の力は、作るのが大変困難だからです」
「特に悪意を持って作った場合は対象者に すぐ見破られてしまいますが、」
「妹さんの作った『貸与』には悪意が無い為、利用しようと考えたのでしょうね」
妹 「ちょっと待って、」
「『貸与』が作れるようになったのは、昨日の今日なんですよぉっ」
神楽 「はい。それが霹靂神の厄介な所です」
「彼等は神代とは違い、」
「その場の情報を集めて一瞬で判断し、行動する事に長けています」
「異なる場所では『点』でしかない情報が、突然『線』で結ばれる」
「優秀なテレパスがいるからこそ可能なのです」
姉妹 「・・・」
妹 「そうだ」「お姉ちゃん、私達もテレパシーで対抗しようよっ」
女の人「えっ、嫌だよ」
「知りたくもない他人の声や感情が入ってくるなんて、私には耐えられない」
妹 「うーん、じゃあ せめて『操作』が使えるように・・」
神楽 「残念ながら、『操作』の力を使うにはテレパシーが必要条件です」
妹 「えーっ」
女の人「それは どうしてですか?」
神楽 「そうですねえ」「まず、『意思』に付いてお話しましょうか」
女の人「是非、お願いします」
神楽 「ご周知の通り、」
「我々人間は他の生き物に比べて大きな『意思』を持つと考えられています」
「個々の『意思』は大きくなる程、」
「お互いに引き合って1つになろうとする力が強く働きますが、」
「1つになってしまうと、『考える事』が出来なくなったり、」
「『個』が失われたりします」
「この為、生物は肉体を進化させ、互いに干渉できないようにしました」
女の人「えっ、逆じゃないんですか?」
神楽 「いいえ。皆さんが逆だと思い込んでいるだけです」
妹 「それなら、『言葉』は何の為にあるの?」
神楽 「『言葉』は、互いの『距離』を調整する為にあると考えられています」
「言葉での『意思疎通』は副作用であって、本来の目的ではありません」
「ですから、テレパシーは互いの『距離』を短くして、」
「『意思』が1つになる危険な行為とされています」
女の人「私達って、この世界について色々と勘違いしてるんですね」
神楽 「はい。『操作』の力は、そのリスクを払って やっと得られる物なのです」
「今までにテレパシーを習得しようとした能力者は大勢いますが、」
「その多くは精神に異常をきたしています」
「興味本位でテレパシーを身に付けようなどとは考えないで下さい」
〈妹はパフェを食べながら〉
妹 「ところでぇ、今まで聞こうと思ってたんだけど、」
「私達の会話って他の人に聞かれても平気なのかなぁって」
神楽 「それは勿論、他の人の注意を引かないように『風』を起こしているからです」
「これは物にも応用でき、例えば この折鶴程の大きさなら まず気付かれません」
女の人「あっ、そうだ」
「巨大な『風』が起こったという事は、」
「その女の子は もう能力者じゃないんですよね」
「テレパスの姉妹は気になるけど、これで悪い風が少しでも減るといいのに」
神楽 「はい。そうだと良いですね」
………喫茶店の外………
神楽 「そうそう。お二人とも、今日は早く帰って休んだほうがいいですよ」
「『風』の発生源に居たのですから、」
「影響を受けて かなりの力を消耗している筈です」
女の人「私達は、風を鎮める お手伝いをしなくてもいいんですか?」
神楽 「ええ」
「貴女方の力で本来起きる風よりも小さくなっていますから、これで十分です」
………姉の車:駐車場………
女の人「帰ろっか」
妹 「うん」
〈スーパーを出て、公道を暫く走る〉
「あっ、思い出した」
「私、エレベーターの中で、二十歳位の女の人と二人っきりになって、」
「そしたら、女の人が神楽さんみたいに指先に力を溜めて、えーと、それから・・」
女の人「顔や服装は覚えてないの?」
妹 「うーん。ぼやぁっとしか・・」
女の人「でも、変だよね。わざわざ姿を見せるなんて」
妹 「・・・」
女の人「あれっ?、寝てるの?」
………40分後:ガレージに車を止める………
妹 「私、寝てたんだ」
女の人「ちゃんとベッドで寝たほうが良いよ」
妹 「うん。そうする」「お姉ちゃんはどうするの?」
女の人「そうだね。ちょっとオークションを覗いてから、ゆっくりしようと思う」
「でもぉ、最近ちっとも落札できないんだぁ・・」
「それで、やっと落札できたと思ったら、此の間のアレだしぃ」
妹 「お姉ちゃんの『道』を見る能力でも難しいの?」
女の人「うーん。オークションって、『ルール』を決めて制限する事だよね」
「世の中、完璧な方法なんて無いとは思うけど、」
「守る人がいる以上、私も守ろうと思うんだぁ」
妹 「ふうん・・」
「あっ、これ。お姉ちゃんにあげるね」
妹はそう言うと、菓子パンの入った袋を姉に渡した。




