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神楽  作者: 黒紫
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第6話

第6話


………赤い車:運転席に神楽、後部座席に姉妹………

妹 「神楽さんの車って、落ち着くというか、『風』が肌に直接伝わってくる感じ・・」

神楽 「この車には様々な『力』が付加されていて、能力者の攻撃を防いだり、」

「搭乗者の補助やアンテナの役割も果たしています」

女の人「以前乗った時は全然気付かなかったけど、」

「私にも ようやく分かるようになりました」

〈神楽が身を乗り出して体を姉妹に向ける〉

神楽 「さて、今から『貸与』の無効化を行いますが、」

「通常の方法では、反動で少し能力が失われてしまうかも知れません」

「そこで、妹さんの協力が必要です」

妹 「あっ、そうか」(妹は少し嬉しそうな顔をする)

「私は別にいいですよ」

神楽 「そうですか。それでは早速・・」


神楽は目を閉じて、人差し指を立てる。

数秒後、神楽の指先から光玉(ビー玉)が現れると、

妹は右手の人差し指を近付けて『力』を受け取った。


神楽 「お互いに両手を繋いでみて下さい」

〈姉妹は互いに体を少し向け、両手を繋いで輪を作る:繋いだ手が僅かに光を放つ〉

「1分程そのままで いて下さいね」

女の人「これって、妹にも『貸与』の力を掛けたんですよね?」

神楽 「はい。お二人の波動が似ているので、力を失う事なく無効化が可能なんです」

「それから、副作用で暫くの間、」

「相手の持っている能力の一部を使えるようになります」


………1分後………

神楽 「はい。もういいですよ」

女の人「あっ、さっきよりもハッキリと『風』が分かります」

妹 「私は、今まで手に入らなかった物が手に入りそうな気がする」

「私、子供の頃からずっと思ってたんだけど、」

「お姉ちゃんって やっぱりズルいよね」

女の人「・・・」

神楽 「次は『神代』についてのお話ですね」(神楽は正面を向いて座り直す)

「まず、お二人にお聞きしますが、」

「今までの人生で、どれ位の数の『選択』をしてきましたか?」

女の人「えーと、沢山ありますね」

妹 「あっ、違う」「数える事なんて出来ないよ」

神楽 「はい。そうですね」

「『選択』とは、『変化を切り取る手段である』と考えるなら、」

「『数える』という概念とは異なるモノである事が分かります」

「人は『選ぶ』時、『ある物』を消費して『行動』と『結果』を結び付けています」

「よく勘違いされますが、選択肢の数は それほど問題ではありません」

「大きな『結果』を望むのなら、当然『ある物』も沢山必要ですし、」

「ほんの些細な選択でも、やはりそれに見合った分が必要となります」

女の人「『ある物』って何ですか?」

神楽 「残念ですが、私からは『数えられるモノではない』、としか お答えできません」

「何故ならそれは、ご自身で見付けるのが一番だと考えるからです」

妹 「えーと、『ある物』が足りない時はどうなるの?」

神楽 「人の場合でしたら、『規則性』が表れます」

「自分では日々、幾つもの『選択』をしていると思っていても、」

「実際には、」

「変化を伴わない『閉じられた規則の集り』に引き込まれてしまう人が大勢います」

「つまり、違う結果を望んで選んでいる筈なのに、そこから抜け出せないのです」

姉妹 「・・・」(姉妹は神楽の話に集中している)

神楽 「もう お分かりだと思いますが、」

「『神代』は人々が陥る規則性をデータとして蓄積し、」

「人間を管理しようとしています」

「例えば、恣意的な『風』を発生させると『ある物』の消費量が増えるので、」

「人は ある規則に従って行動したり、自分の財産を手放すようになります」

「ですから、条件に合うターゲットさえ見付かれば、」

「物の授受や特定の場所と時間に人を送る事も可能なのです」

女の人「でも、その人達は自分で気付いたりはしないんですか?」

神楽 「それは本人次第です。何故なら、気付くのにも『ある物』が必要だからです」

妹 「じゃあ、永久に抜けられなくなっちゃうの?」

神楽 「はい。これが更に悪い風を起こして悪循環となります」

女の人「えっ、ならどうすれば・・」

神楽 「解決方法は2つあります」

「1つは、我々が悪い風を消して、良い風が起こり易くする環境を作る事」

「もう1つは、人々に『ある物』の無駄使いをさせない事です」

「故に我々は、『人と人・人と物・物と物』の関係に関与しているのです」


………コンビニの駐車場………

神楽 「お二人とも、これからも精進して下さいね。期待してますよ」

妹 「あっ、そうだ」

「ふと思ったんだけど、」

「『貸与』の力で能力者を無力化する事なんて本当に出来るのかなぁって・・」

「例えば、アイドルが握手会をするとかだったら分かるけど、途中で気付くよね」

女の人「言われてみれば、そうだよね」

神楽 「それは恐らく、貴女(あなた)に『道』を見る能力が有るのか確かめたかったのでしょう」

女の人「『道』ですか・・」

神楽 「彼等もまた、我々の行動を ある程度把握しています」

「貴女方が我々の施設を訪れ、私が直接貴女に注意を促すと考えれば、」

「状況的に荷物を受け取る段階で回避されると予想するでしょう」

「しかし その場合だと、」

「今日私と会う事もなければ、妹さんの能力を実感する機会もありません」

「現在よりも未来に『()』があるから、今 私と会っている」

「それが、貴女の『道』を見る能力です」


………姉の車:姉妹がシートベルトを締める………

女の人「それじゃあ、美術館に行こうか」

妹 「私、思うんだけど、今は行っても修行にならないかも知れないね」

女の人「うーん。そうかもね」


………とある美術館:館内:静物画の前に立つ姉妹………

女の人「これは『4』ってとこだね」

妹 「この絵は、誰か他の人の所へ行きたがってるね」

姉妹 「・・・」(姉妹は顔を見合わせる)

妹 「お姉ちゃんって、こんな風に世界を見てたんだ」

女の人「きっと、能力者によって見える世界が違うんだろうね」

妹 「私、神楽さんには この世界がどう映ってるのか興味が沸いてきたよ」

女の人「ふふっ、そうだね」


………姉の車(走行中)………

女の人「さてと、今日のお昼は何にする?」

妹 「私は何でもいいよ。折角だから、『風』を読んでみたらどう?」

女の人「そうしよっか」


………10分後………

姉は、あるパン屋の駐車場に車を止める。

(店内に食事をする場所があり、合計で20名程の客が居る)


女の人「どう?」

妹 「今までに感じた事の無い『風』と『気配』がするよ。ホントに入るの?」

女の人「取り敢えず、何か買おっか」


姉妹は店内に入り、入り口付近に置いてあるトレーとトングを持った。

棚には定番の菓子パンや惣菜パンの他に、店独自のパンも並べられており、

姉妹は思い思いのパンを選びながらレジへ。

(姉はパンを3つ、後ろの妹は小さめのパンを4つ、トレーに載せている)

カウンターにはレジが2台有り、丁度手前が空いたので姉から先に清算をして貰う。


姉がふと、左隣のレジに目をやると、

トレーにメロンパン(サンライズ)を1個だけ載せた女性(25歳位)が、

女性店員(24歳位)に何かを頼んでいるようだ。


店員 「お持ち帰りですか?」(22歳位の女性)

〈姉は声を掛けられ、正面を見る〉

女の人「あっ、はい」

〈姉は、店員が袋にパンを詰める様子をじっと見ている〉

店員 「430円です」

〈お金を渡し、お釣りと袋に入ったパンを受け取る〉


隣を見ると、さっきの店員がトレーにメロンパン(左右半分ずつに切られている)と、

手拭を2つ載せて女性に渡している所だった。


「・・・」


姉は すぐに向きを変え、無言で店を出ると、妹が出てくるまで外で待機する。

1分後。妹が そそくさと店から出て来た。


妹 「もしかして あの人、能力者?」

女の人「違うと思う」

「でも何故か、相手の人を確かめるのが怖くなった」

妹 「私も。あの人が行く方向を見る事が出来なかったよ・・」

「という事は、その相手の人が能力者?」

女の人「うーん。やっぱり違うと思う。何故だろうね」

姉妹 「・・・」

女の人「さてと、帰ろっか」

妹 「うん」



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