第5話
第5話
………姉の車(走行中)………
妹 「お姉ちゃん、説明して!」
女の人「多分、『印』の場所へ行く事に意味なんて無いんだと思う」
「例えば、今 通った交差点」
「何故だか、さっきの神社の方向に行きたくなるんだよね」
「きっと他の場所でも同じ力が働いていて、私達を迷わせるんだ」
妹 「でも、それじゃあ何処に行けば良いのか分からないよ」
女の人「そうだよね」
「それで、ふと思ったんだけど、境界はどうなってるのかなぁって・・」
「もし、印を付けた所がヒントだとすると、」
「境である『ボロノイ点』の1つが答えかも知れないって思うんだ」
妹 「ふーん、そのボロ何とかに行けば良いんだね」
「私、何時も思うんだけど、お姉ちゃんって変な事 知ってるよね」
………1時間後………
妹 「あっ、この辺りから神楽さんの気配がする」「多分あそこのビルだよ」
妹が指差す方向に20階建てのビルが建っている。
姉がビルの角を曲がると、すぐに駐車場の入り口が見付かり、車はビルの地下へ。
………駐車場………
女の人「着いたね」
妹 「たね」
〈姉妹が同時にドアを開け、車から降りようとする〉
神楽 「いらっしゃい」「そろそろ おいでになる頃だと思いました」
〈突然 声を掛けられ、姉妹は反射的に顔を向ける〉
女の人「お邪魔します」
妹 「・・お邪魔しまーす」
神楽 「早速ですが、お渡ししたい物があるので、私に付いて来て下さい」
姉妹は神楽の後を付いて歩き、近くのエレベーターに乗る。
………エレベーター内(10階のボタンが点灯)………
女の人「ここは神楽さん達の本拠地なんですか?」
神楽 「いいえ。言わば ここは玄関口です」
「私達の存在に気付いた方々が最初に訪れる場所です」
「一般人や、自分の為にしか能力を使わない人には、」
「簡単に見付けられないようになっています」
10階に着くと、ある部屋へ案内される。部屋の中には沢山の絵画が飾られていて、
正面に、此の間 美術館で見た絵画が掛けられている。(3人が正面の絵画の前へ進む)
女の人「美術館に展示されていた絵ですよね」
神楽 「はい。宜しければ、受け取って頂けませんか?」
女の人「えっ、私ですか?」
妹 「お姉ちゃん、貰っとこうよぉ。これはきっと『運命的な出会い』だよっ」
女の人「でも、能力者に狙われたりしないか心配です。私、此の間の事もあるし・・」
神楽 「そうですねえ。立ち話も何ですから、お茶にしませんか?」
………応接室(同階):壁に静物画:中央に丸いテーブル………
〈3人が席に着くと、すぐに女性(30歳位)が紅茶と茶菓子を運んできた〉
神楽 「それでは、よく聞いて下さいね」
「現在、我々と戦っている勢力が大きく2つあります」
「1つは、時折 大きな風を起こして、」
「人や物の流れを強引に変えようとする『霹靂神』、と呼称される勢力」
「もう1つは、緻密な計算によって、」
「巨大な『流れ』を生み出そうとする『神代』、と呼称される勢力です」
「特に後者は、仲間との連携を重んじ、突発的に行動する事がありません」
女の人「戦いって、具体的にどうなるんですか?」
神楽 「特に決まった形がある訳ではなく、変化に富んでいます」
「ただ、高いクラスの能力者同士が直接戦うと『大きな風』が起こります」
「『霹靂神』にとっては都合が良い場合が多く、戦いを好む傾向にありますが、」
「『神代』にすれば、自分達が組み上げた『流れ』や『基盤』を壊す恐れがあり、」
「なるべく対決を避けようとします」
「我々『神楽』は その中間で、能力者と直接対峙する事もあれば、」
「人や物の『流れ』を利用して、能力者の無力化を優先させる場合もあります」
「勿論、全てに於いて能力者の精神や体力を消費しますので、」
「何時も戦いが起こっている訳ではないのです」
女の人「私、話を聞いていて思ったんですが、もしかして『三竦み』の関係なんですか?」
神楽 「はい。かれこれ、2000年近く続いていると聞いています」
妹 「えっ、まさかとは思うけど、神楽さんって1000年以上 生き・・」
神楽 「生きてません」
「・・・」(姉は妹の頬を指でつついている)
「という訳で、お互いの『力』は大体分かっていますから、」
「何時も周りの変化に気を配っていれば問題ありませんよ」
………駐車場:姉は神楽から、丁寧に梱包された絵画を受け取る………
神楽 「そうそう、言い忘れましたが、」
「人が何かを手に入れようとした時、」
「屡々払うべき代償の調整が最後に行われます」
「偶然を装った必然に、足を掬われぬよう注意して下さいね」
………姉妹の家………
車をガレージに止める。
すると、見計らったように宅配便のトラックが家の前に止まった。
女の人「今日、私に『送料着払い』の荷物が届くからって、」
「一応お母さんには頼んでたんだけどね」
〈トラックから女性ドライバー(25歳位)が降りてくる〉
運転手「送料着払いで、980円です」
〈姉は財布から千円札を出す〉
「ここにサインをお願いします」
〈箱の上の伝票にサインして、お釣りを貰う:運転手と姉の手が一瞬触れる〉
女の人「ご苦労様でした」
妹 「あれっ?お姉ちゃん・・?」
女の人「何?」
妹 「ううん、気のせいみたい」
〈妹は先に玄関の戸を開け、姉の荷物運びを手伝う〉
「お姉ちゃん、今すぐ あの絵の隣に飾ろうよ」
女の人「そうしよっか」
………客間………
貰った絵画を掛け終わり、出来映えを確認する姉妹。
この時、姉妹は絵画から何かを感じ取っていた。
女の人「ねえ。今、この絵から『風』が吹いてる?」
妹 「吹いてるよ。お姉ちゃんにも、やっと分かるようになったの?」
女の人「そうか、神楽さんは この2つの絵を会わせようとしてたんだね」
妹 「ねえ、お姉ちゃん」「物にも『感情』や『気持ち』って有ると思う?」
女の人「うーん、分かんない」
「でも、この2枚の絵を見てると、有るかも知れないって思えるよね」
………次の日(8月17日)玄関を出る姉妹………
妹は朝から落ち着きが無く、そわそわしている。
「さあ、お姉ちゃん。今日も美術館へ修行に行くよぉ」
「今日の私は、もう昨日の私じゃないんだよぉ」
女の人「はいはい。分かったから車に乗って」
………姉の車(走行中)家を出てから10分後………
妹 「お姉ちゃん、ちょっと そこのコンビニに寄ってくれない?」
女の人「どうしたの?」
妹 「いいから。お茶を一本、買ってみて」
………店内………
姉は独りで店に入る。
そして、お茶を一本冷蔵庫から取り出すと すぐにレジへ行き、
財布から100円玉を2枚出して、お釣りを貰う。
(この時、女性店員と姉の手が一瞬触れる)
女の人【・・あれっ、何だろう?・・】
〈店を出て視線を変えると、車の前に神楽と妹が立っていた:隣に赤い車〉
神楽 「また引っ掛かってしまったようですね」
女の人「えっ?」
妹 「昨日、お姉ちゃんが荷物を受け取った時、一瞬だけど風が変わったんだよ?」
「あの時は気のせいだと思ったんだけど、後で気になって神楽さんに相談したの」
神楽 「恐らく、伝票にサイン又は判を押した時に発動する仕組みで、」
「他人に『手』を触れられると、」
「少しずつ『力』を分け与えてしまう『貸与』の力が付加されていたのでしょう」
女の人「じゃあ、出品者か運転手が『神代』の関係者って事ですか?」
神楽 「いいえ」
「『神代』が関係しているのは確かですが、彼等の足跡は単純ではありません」
「詳しくは、私の車の中でお話します」
「『貸与』の力を無効化する必要もありますし」