第47話
第47話
鈴音 「あら、話が早いわね」
女の人「安茂里さんは、美術館には よく行くんですか?」
安茂里「私、どちらかと言うと、博物館のほうが好きです」
〈鈴音は車を発進させる〉
妹 「ねえ鈴音さん。油留木さん大丈夫?」
「昨日、電話で朱雪さんを紹介して欲しいって頼まれたんだけど」
鈴音 「油留木なら、自分で何とかするわよ。その件も含めてね」
妹 「ですよね。私達、何のかんの言いながら乗り切ってるもんね」
女の人「そうだね。今思うと、あの時も、あの時も、みーんな鈴音さんだったんだよね」
鈴音 「そうね。色々とごめんなさいね」
女の人「いえ、もう済んだ事だし、私にも妹にも凄く有益でした」
安茂里「私、もっともっと勉強して、油留木様や盃様と肩を並べるようになりたいです」
「そして姉様や鈴音様とも」
鈴音 「ふふふ。期待してるわよ」
………午前10時過ぎ:とある美術館………
〈鈴音が4人分の入館料を払い、全員にチケットを渡す〉
鈴音 「ここからは二手に別れて行動しましょうか」
女の人「そうですね。じゃあ、私は鈴音さんと」
妹 「なら、私は安茂里さんと」
安茂里「はい。姉様」
鈴音と姉は先に最初の部屋へ向かう。
続いて、妹も歩き出そうとすると、安茂里が妹の左腕を掴んだ。
安茂里「姉様、私と手合わせをして頂けませんか?」
妹 「えっ、ここでするの?」
安茂里「はい。他の方々に迷惑は掛けませんから」
妹 「・・いいけど」
<鈴音と姉>
鈴音 「付き合わせちゃったわね」
女の人「いいえ、それは妹も同じですから」
「それで、どんなフォローをしたら良いんですか?」
鈴音 「基本は戦いで起きた『風』の無効化と、危険行為の停止ね」
「最悪、二人が大技を使いそうになったら、」
「『誘導』で周りの客を退避させる必要があるわよ」
女の人「分かりました」
【・・Bクラスの試験の時も、】
【御影さんと角星さんがフォローしてくれてたんだね・・】
<安茂里と妹:最初の部屋>
安茂里が妹と少し距離を取ると、
妹の周囲に光玉が20個発生し、安茂里の先制攻撃。
直ぐ様、妹の右手首がリング状に輝き、
妹へ向かって来た光玉は一つひとつ減速しながら消滅。
(この時、安茂里は足早に隣の部屋へ移動)
妹 「それなら・・」
………隣の部屋の入り口付近………
安茂里が立っている床が市松模様に光り出す。
安茂里はその様子を確認すると、すぐに歩みを止め、素早く左手の人差し指を立てた。
今度は、妹の周囲に光玉(野球ボール)が30個発生する。
再び妹の右手首が輝いて光玉を減速させるが、先程よりも早い時間で全てを消滅させた。
安茂里【・・姉様、『変更』をお使いになるのですね・・】
〈次の瞬間、安茂里の周囲に妹の分身が3体出現する〉
「これは!?」
安茂里がその内の1体に左手で触れると、
その分身は3個の光玉(野球ボール)に分裂し、安茂里の胸にヒット。
そして、残りの2体の分身が一回り小さくなって、新たに分身1体を作り出す。
「早く何とかしないと・・」
〈安茂里は向きを変えながら、分身の破壊を繰り返す〉
〈やがて〉
妹 「安・茂・里・さん?」
〈安茂里は後ろから妹に左手を掴まれる〉
安茂里「姉様っ」(安茂里はハッとして)
「・・私の負けです」
<鈴音と姉:二人並んで絵画を鑑賞中>
女の人「決着がつきましたね」
鈴音 「ええ」
<安茂里と妹>
妹 「安茂里さん、私と一緒に絵を鑑賞しませんか?」
安茂里「・・はい。姉様」
………40分後:自動販売機(紙コップ式)の前に立つ4人………
妹 「私、今日はココアで」
〈妹はお金を入れ、『バナナココア』のボタンを押す〉
「あれっ、何で!?」
安茂里「姉様、それは私のです」
妹 「えっ、どういう事?」
妹がバナナココアの入ったカップを取り出すと、
すぐに安茂里がお金を入れて、『ココア』のボタンを押した。
鈴音 「『誘導』の派生で『錯交』って言うの」「とっても珍しい能力なのよっ」
女の人「妹と安茂里さんの行動を交換したんですよね」
安茂里「姉様、どうぞ」
〈安茂里と妹は互いの飲み物を交換する〉
妹 「ねえ、鈴音さん」「私、鈴音さんの弟子でも構わない?」
鈴音 「あら、私は最初からそのつもりだったわよ?」
〈妹と安茂里は向き合い〉
妹 「安茂里さん。これからも宜しくね」
安茂里「はい姉様。それと、私は安茂里で結構です」
………赤いスポーツカー(走行中)………
女の人「『錯交』って能力、コンピューター言語にある、『継承』と考え方が似てますね」
鈴音 「そうね。貴女は こんな風に考えた事ない?」
「保健所で犬や猫を引き取った後、やがて寿命を迎え、また保健所に帰る時、」
「飼い主がした事は、結局、『始まりと終わり』を切り取った事に過ぎないって」
女の人「はい。この世界の何処かと何処かを切り取って、それを交換したんですよね」
鈴音 「ええ。それは、我々がこの世界に来た方法と全く同じじゃないかしら」
妹 「えっ、そうなんですか?」
安茂里「私、鈴音様の仰る通りだと思います」
「我々は外の世界から この世界へやって来た」
女の人「この世界に意味が有るかどうかは別にして、」
「私達は何かを払ってこの世界に来ているんじゃないでしょうか」
「だから、多くの人は『必然』と『偶然』の区別がつかなくて、」
「宇宙を見ながら色んな想いを馳せる」
鈴音 「貴女は、この宇宙が何故こんなに広いのか考えた事ある?」
女の人「・・私は、人が幸せを感じて生きられるようになる為には、」
「この大きさが必要だったんだと思います」
鈴音 「ふふふ。そうとも言えるわね」
「宇宙は、人が安心を得る為に必要な大きさなのよ」
「自分の周りの世界を見て、次の瞬間も自分が存在できると思える事」
「つまり、宇宙の大きさは『恐怖』の大きさ」
「神様だって、次の瞬間の事は分からないのよっ」
女の人「私、鈴音さんの考えは正しいと思います」
「でも、こんな考え方だって出来るんじゃありませんか?」
「きっと、神様達が住む世界にも美術館や博物館があって、」
「そこには沢山の『世界』が展示されていると思うんです」
「そして、『世界』を保存するには、その世界と同じ大きさが要る」
「外の世界の『一単位』、それが宇宙の大きさ」
「つまり我々の世界は、鑑賞者が居る時だけ『時間』を与えられ、」
「その僅かな時間を『幸せ』に変えている」
「だから、なるべく多くの人が楽しめる世界を築けたら、」
「もっともっと世界が続くんだろうなぁって・・」
鈴音 「そう」「面白いわね」
<3章完>