第45話
第45話
扉がノックされ、女性(28歳位)がお茶と茶菓子を持って入ってくる。
鈴音にはカフェオレ、神代と安茂里は日本茶と紅茶が新しく取り替えられた。
安茂里「鈴音様、あの子は、私の兄弟子ではないのですか?」
鈴音 「さあ、どうかしら。少なくとも、あの子はそう思っていないみたいだけど」
「それに、私と出会っていなかったら、母親と姉が教えたでしょうね」
「私はただ、その『流れ』を少し貰っただけよっ」
〈数分後〉
「そろそろ本題に入りましょうか」
神代 「そうじゃのう」
鈴音 「単刀直入に申します」
「神代では、代表が在任中の特権で得た資産は全て取り上げとなる習わしです」
「しかし、私用として認められた範囲は遡及しないとあります」
神代 「何が望みじゃ」
鈴音 「神代様には、財界・政財界の関係者に口利きをお願いしたいのです」
「その代わり、」
「私の在任中は神代様に名目上の『捨扶持』をご用意致します」
「今回の騒動で、神代は『量』から『質』への転換を謳い、」
「新たな『三者の関係』を築くでしょう」
「勿論、神楽と霹靂神とは既に不可侵の協定を締結しました」
「当分、神代様に不自由はさせませんわ」
神代 「・・良い」「我は長く居座り過ぎたようじゃな・・」
<別の時間:油留木:タクシーで移動中>
油留木「紫苑様が居なくなったのはいいけど、ちょっとシワ寄せがヒドくない?」
篝 「鈴音様は油留木様を信用しておられるのです」
「側近は なるべく身内で固めたいと考えるのが定石ではないでしょうか」
油留木「それは・・そうなんだけどぉ」
〈油留木の携帯電話が鳴る〉
「・・・はい。ありがとうございます」
〈油留木は電話を切ると、暫く目を閉じ〉
「わぁぁっ、大出世っ!」
「これで私も、神代の幹部だわっ」
篝 「おめでとうございます」
油留木「うふふ・・」「篝、今日の仕事が終わったら買い物に行くわよっ」
篝 「はい」
………神楽の本部:夕方:応接室:神楽と鈴音………
鈴音 「短い間でしたが、お世話になりました」
神楽 「はい。此方こそ」
鈴音 「神楽様は、あの子に本当の事を話さない おつもりですか?」
神楽 「鈴音さんはどうなんですか?」
鈴音 「・・・」
「ふふふ。だって、私の後継者になるかも知れないでしょう?」
「選ぶのは、あの子達だから」
………6日後(土曜日)………
午前9時。姉妹の家の前から赤いスポーツカーが出る。
(鈴音が運転し、後部座席右から姉・妹・安茂里の順に座っている)
妹 「・・鈴音さん。神代になったんでしょ?」
「今、一番忙しい時じゃないんですか?」
鈴音 「あら、これも私の仕事よ」
「それに、大事な所は油留木に任せているから大丈夫」
安茂里「神楽様と姉様も お忙しいのではありませんか?」
姉妹 「えっ?」
鈴音 「この子の中での呼び方だから、気にしないでね」
女の人「私、まだ神楽じゃないんだけどね」
妹 「私、鈴音さんは、私の先生だと思ってるよ」
安茂里「姉様。近く、私と手合わせをして頂けませんか?」
妹 「えっ、急に・・」
鈴音 「安茂里、自惚れやさんね」「私には、あなたが負ける姿しか浮かばないわよ?」
安茂里「・・申し訳ありません」
女の人「ところで、安茂里さんの事、良かったら詳しく話して貰えませんか?」
安茂里「・・はい」
<別の時間:神代の支部:盃と榊:大きな机と、大きな窓がある部屋>
盃 「結局、私と紫苑の取り分は神楽と霹靂神に分配される形となった」
「多くの部隊は解散、再編成。鈴音様の要求はどれも頭が痛い」
榊 「しかし、盃様の幹部の地位と資産は安堵すると仰いました」
「私は油留木様から お声が掛かりましたが、盃様にお仕えする所存です」
盃 「そうか・・」
<別の時間:油留木:タクシーで移動中>
油留木「・・何この忙しさ。鈴音様、容赦なさ過ぎっ」
篝 「油留木様は まだお若いですから・・」
「それと、先ほど確認しましたところ、」
「紫苑様は長年集めた資料を密かに持ち出したようです」
油留木「多分、何処かに売り込む気ね」
「多少の漏洩は仕方ないにしても、一応編成を急がせたほうが良いわ」
「・・って、私と篝だけじゃ絶対無理っ。やっぱり、もう一人部下が必要よねっ」
………赤いスポーツカー(走行中)………
安茂里「・・他にもあります。あれは、私がバスに乗っていた時です」
「乗客は7人程でしたが、」
「先頭の座席に座っている若い女性がボタンを押して、料金箱の前に立ちました」
「しかし、次のバス停では停まらず、」
「女性は少し慌てた様子を見せただけで、そのまま立ち続けていました」
「そして、更にバス停を通り過ぎ、女性は運転手に声を掛けます」
「運転手は一言謝った後、規則で次のバス停まで降ろせないと言い、」
「女性は携帯電話で仕事先に遅れると連絡をしていました」
「私、何か悩み事や心配事があったりすると、よくそういった事が起きるんです」
女の人「安茂里さんって、私と同じで無意識に『風』を起こしてしまうんですね」
鈴音 「そうよ。それで今日は、貴女方の意見を聞こうと思ったの」
安茂里「私、郊外に住んでいるせいか、東京の風には馴染めないんです」
女の人「それで、郊外に向かってるんですね」
鈴音 「ええ」
安茂里「・・・」(安茂里が少し元気が無くなった感じになる)
〈暫くして〉
妹 「ねえ、お姉ちゃん。ちょっと・・」
〈妹が姉に耳打ちする〉
女の人「うん、分かった」
鈴音 「あら、また始めるの?」
安茂里「お二方で何かされるのですか?」
〈姉妹の雰囲気が少し変わる〉
妹 「ねえねえ、お姉ちゃん」
女の人「なあに?」
妹 「どうして、海と空は青いの?」
女の人「それは、人間には同じ青に見えるだけで、本当はどっちも青くないんだよ?」
妹 「えっ、そうなの?」
女の人「元々は どっちも同じ青色だったんだけど、」
「鳥や魚が海と空の境界を屡々間違えるから神様が少し色を変えたんだって」
妹 「へえ、そうだったんだぁ」
〈安茂里は二人の顔を見ながら沈黙している。2秒後〉
「ねえねえ、お姉ちゃん」
女の人「なあに?」
妹 「どうして、男と女は同じ数だけ居るの?」
女の人「実わぁ、この世界の殆どは『女』なんだよぉ」
妹 「えっ、そうなの?」
女の人「でも、『男』にだけ『時間』を作り出す能力があって、」
「それで男も女も同じ時間軸で生きるようになったんだって」
妹 「へえ、そうだったんだぁ」
安茂里「それ、面白いんですか?」
鈴音 「私は結構好きよ」
女の人「『嘘トリビア』って言うんですけど、外しちゃったかな?」
安茂里「・・すみません」
「私、違う話のほうが良いです」




