第44話
第44話
妹 「私と『かくれんぼ』しませんか?」
「私、『虚栄』が得意なんです」
「1分経ったら、私を探して、力を奪えるか試して下さい」
神代 「良かろう」
妹は本殿を反時計回りに歩き始める。
暫くすると、本殿の周囲に光の市松模様が浮かび上がり、(1つ80センチ四方)
やがて地面と上空(高さ2.5メートル)の二面に、妹と神代が挟まれる形となった。
神代 「面白い」
1分後、神代が反時計回りに移動を開始。
フィールド上には妹の分身(固定)が所々に配置されていて、
神代は分身を避けたり、指先から出した光玉で消滅させたりしながら進む。
一方、鈴音と姉が離れた場所から様子を見ていると、
程無く妹が一周して正面に戻ってきた。
女の人「そろそろ決着がつきそうですね」
鈴音 「ええ」
〈妹は正面でじっとしている。そこへ、神代も一周して妹の前へ〉
神代 「もう動けるマス(升目)が無いであろう?」
「『偶奇床』を改良したつもりが、逆に其方を追い詰めた」
「小細工なぞ、我の力を僅かに削る程度でしかないわっ」
妹 「・・・」(妹は神代を見つめる)
〈次の瞬間、妹の胸にソフトボール位の光玉がヒット〉
神代 「これで我の・・」
〈しかし、妹には全く変化が無い〉
妹 「私ね、実は、『無』に耐性があるんです」「それに・・」
〈妹が話終えるのを待たずに、神代を中心とした巨大な風が起きる〉
「お姉ちゃん!」
姉が人差し指を立てると、
神代から生まれた『風』が渦を巻き、神代の頭上で光る球体に吸い込まれていく。
10秒後、頭上の球体は七色に輝く光玉(直径15センチ)となり、
高速で姉の掌へ。(ほぼ瞬間移動)
神代はその場に立ったまま、静かに目を閉じている。
〈鈴音と姉が神代の所へ歩み寄る〉
鈴音 「神代様、まだ続けますか?」
神代 「・・我の負けじゃ」
女の人「これ、お返しします。力がある程度回復してから取り込んで下さい」
〈姉は神代に光玉を渡す〉
神代 「鈴音、後で其方の話、傾聴しても良いぞ」
鈴音 「はい。神代様」
神代は受け取った光玉を右手の掌で消滅させると、
3人に背を向け、ゆっくりと歩き出した。
すると、正面から安茂里が駆け寄り、
「神代様、お迎えに上がりました」
神代 「何者じゃ」
安茂里「申し遅れました。私は鈴音様の弟子で安茂里と申します」
「支部に着くまで、神代様の護衛を仰せ付かりました」
神代 「ほう。これは面白い話が聞けそうじゃ」
安茂里は神代に歩調を合わせ、神社の鳥居を潜る。
この時、神代は ある方向へ目を向けた。
「我を嗤いに来たのか?」
母親 「本当にそう思いますか?」
神代は何も答えず、安茂里は母親に会釈して神社を出る。
目の前の道路には篝のタクシーが止まっており、神代と安茂里が速やかに乗り込んだ。
………赤いスポーツカー(走行中)後部座席に姉妹………
妹 「お母さん、神様にお礼してから帰るって言ってたね」
鈴音 「あら、貴女はそのつもりで神代様を神社に『誘導』したんでしょ?」
女の人「今日は、何か出来過ぎのような気がしてたけど、もしかして・・」
妹 「そう。鈴音さんに勝った時、ここまで計算してたの」
「あの時はまだ、具体的な勝ち方とかは考えてなくて、」
「取り敢えず、鈴音さんとお姉ちゃんに相談すれば何とかなると思ったんだ」
「私の『誘導』も なかなかのもんでしょ?」
女の人「それだと、曜日はどうなんですか?」
鈴音 「神代様個人は験を担ぐのよ。それが日曜日」
女の人「えっ、験担ぎって意味があるんですか?」
「私、そういうのしないんで、何と言ったら良いか・・」
妹 「私は信じてるよ。『流れ』ってあるよね」
鈴音 「自分の外で起こる『流れ』や『サイクル』を縁起だと言う場合もあるけど、」
「自分の中での変化に限って言えば、秩序や強制力という風に考える人も居るわね」
「人の体内や頭の中には複数の異なる『流れ』と『サイクル』があって、」
「作業したり、考えたり、楽しんだりしてる時は、」
「スイッチが切り替わるって表現が多いでしょう?」
「例えば、自分自身に都合が悪い思考がある時、強制的に流れを変えて、」
「一時的に考えないようにするのは、保身や能率を高める手段だとされているわね」
女の人「でも、それって、自分で自分の流れを無理に作り出す事ですよねえ」
鈴音 「ええ、これも『自己矛盾』の1つ」
「場合によっては自己否定にも繋がるから使い方には注意が必要ね」
<別の時間:母親:拝殿で神楽と並んで二礼二拍手一礼>
母親 「これからも、色々起こりそうですね」
神楽 「そうですね」
………赤いスポーツカー(走行中)………
妹 「・・それから、お姉ちゃんが使った技、名前何て言うの?」
女の人「『吸気』って言うんだよ」
鈴音 「神代様は『吸気』が得意なのよ」
「『無』を使って相手の能力を『風』に変えた後、」
「それを『力』に戻して自分に取り込むの」
「流石の神代様も、『無』に耐性は無いから、」
「そっくり返される所までは考えてなかったみたいね」
女の人「あと他に気になったのが、妹が考えた『偶奇床・改』の弱点」
「柄の『明・暗』2つで1セット」
「術者の能力で ある程度バラバラに配置できる代わりに、」
「相手が『対』になってるマスを見付けてしまうと、」
「自分が移動出来るマスが減る」
鈴音 「でもそれが神代様を油断させて、却って良かったわよ」
妹 「それ、褒めてない」
………5分後………
妹 「ねえ、鈴音さん。私に『補数』の話をしてくれた時、」
「確か『三元論』って言いましたよね」
女の人「それ、お母さんのノートにも書いてあったけど、学術上の分類か何かですか?」
鈴音 「この世界は、『3』という概念で表せるって考え方よ」
「この世界の、何処をどんな風に切り取っても『3つの関係』になるって話」
女の人「あっ、『最小単位』は『3』になるって事ですよね」
鈴音 「ええ。『四則演算』や『アルゴリズム』も『1』から『3』の数字で表現可能よ」
妹 【あっ、これ、お姉ちゃんがハマるパターンだ・・】
女の人「それって、『テコの原理』で『支点・力点・作用点』とか、あと・・」
妹 「神楽さんが言ってた、『必然・偶然・流れ』もそうでしょ?」
鈴音 「あら、もう理解したの?」
「ちなみに、」
「数の世界なら『0』は『3』、『∞』は『1』に変換されるのよ」
妹 「じゃあ『2』は『0と∞の間』?」
鈴音 「そう。偉いわね」
「他の例だと、『自己矛盾』も『2』になるわよっ」
「3つでワンセットになってるから、」
「同じ言葉でも『単位』が変われば数字も変わる事に気を付けてね」
女の人「・・・」(姉は沈黙したまま)
妹 【ふふっ、どうやら最小限で食い止められた】
女の人「・・うーん。私って、まだまだですね」
………午後3時過ぎ:神代の支部:応接室:鈴音が扉を開けて中に入る………
「神代様、御加減はどうですか?」
神代 「少し、戻ったところじゃ」
〈鈴音が椅子に座る〉
「鈴音。敗因は何だと思う?」
鈴音 「『三者の関係』を変える力が足りなかったのだと思います」「そして、時間も」
「今回集められたデータを元に、次の世代へ引き継ぐべきでしょう」
神代 「其方、自信はあるか?」
安茂里「分かりません」
「でも、望まれるのなら、望む結果になると存じます」




