第43話
第43話
………神楽の本部:夕方:応接室:神楽と姉………
女の人「今、どんな状況ですか?」
神楽 「順調ですよ」
「この分だと土曜日には、貴女方に面接をお願いする事になると思います」
女の人「そうですか。楽しみにしています」
「ところで、昨日から御影さんと朱雪さんの姿が見えませんけど、」
「何か特別な用事でもあるんですか?」
神楽 「霹靂神の新人確保を手伝いに行きました。土曜には戻るそうです」
………土曜日………
朝。洗面所から出る姉と、3メートル離れた所にいるパジャマ姿の妹。
妹 「お姉ちゃん、おはよう」
女の人「おはよう」
姉妹がお互いに向かって歩くと、
姉妹と同じ輪郭をした薄い光が抜け殻のように残り、姉妹はそのまま すれ違う。
そして、互いに相手の分身の前に立ち、
女の人「上出来だね」(細部を見ながら)
妹 「まだまだ お姉ちゃんには敵わないよ」
〈2体の分身が消え、姉妹は廊下の中央へ〉
「『虚栄』と『隠』は相性が悪いのに、お姉ちゃんはどうやって解決してるの?」
女の人「世の中、『便利』なモノなんて無いんだよ。だから解決できるの」
妹 「何それ」
「・・でも、世の中、『便利』なモノで溢れてるじゃない?」
女の人「そうだね」
「例えば、ガラスは割れ易い物だけど、強化ガラスなんて物もあるでしょ」
「あれは表面に『縮む力』、内側に『引っ張る力』が働くようになってて、」
「外からの大きな力を耐える代わりに、」
「内側は少しの力が掛かるだけで粉々になっちゃうの」
「つまり、」
「弱点が『単位未満の感覚』になってると、人は『便利』だって思うようになる」
「逆に言うと、弱点が『単位未満の力』に収まるような物を作れば、」
「便利な世の中になるって訳だね」
妹 「何かそれ、まるで人を騙す文言みたい」
女の人「そう、そういう事」
………昼過ぎ:昼食後、車で移動する姉妹(妹は助手席)………
妹 「面接って、私達が審査するの?」
女の人「慣例的にSクラス以上は審査員の資格があるから、」
「直接会って、神楽に相応しいか決めて欲しいんだって」
妹 「ふーん」
「で、何でお姉ちゃん この方法にしようと思ったの?」
女の人「東京に集まって来る能力者って、既に神代にマークされてるのが大半で、」
「残りは見落とされたか、」
「神代から逃れられる程の実力者が含まれている可能性が高いよね」
「だから、私達の能力をアピールするモノを配置して、」
「居場所を探して貰うのが一番だと思った訳」
妹 「私も、神楽の支部を見付けられた時は、ちょっと嬉しかった・・」
「それで、お姉ちゃんは『隠』で作った絵画を置いて、」
「私は『虚栄』で作った小人を置いた」
女の人「角星さんは、『隠』と『虚栄』で作った架空の鳥を決まったルートで飛ばしてる」
「とか言ってたけど、こういう所に経験の差って出るんだね」
妹 「そうだね」
………午後3時過ぎ………
とあるビルの応接室。
四角いテーブルに神楽・姉・妹・角星・御影・朱雪の6人が座り、
お茶を飲みながら会話をしている。
女の人「意外に早く終わりましたね」
神楽 「持っている能力も重要ですが、まず『風』を見るのが一番の目的でした」
角星 「神代の紫苑が力を失い、我々への妨害活動が減った分、」
「神楽と霹靂神の獲得数が増えたようだ」
朱雪 「皆さん素直な方々で審査員を試そうとする場面がなくてホッとしました」
妹 「審査員を試すって、そんな事もあるの?」
御影 「神代では、審査員と勝負して神代の弟子になった方が居られます」
妹 「・・その鈴音さんは、今日居ないんですか?」
神楽 「明日の決戦後の段取りがあるので、来られないそうです」
<別の時間:ビルの空室:窓辺に鈴音が独り:鈴音は派手な服装>
「ふふふ。これが私の取り分よ」
〈誰かが部屋に入ってくる〉
「いらっしゃい。あなた、お名前は?」
女の子「私、『安茂里』、『三好 安茂里』って言います」
(16歳位で髪は短く、細身で美人)
〈鈴音は安茂里の前まで歩いて行くと〉
鈴音 「私は『立花 鈴音』」
「あなた、私に力を預ける気は、なぁい?」
………午後4時前:ビルの応接室………
妹 「今日気になったんですけど、」
「『神楽の決まり』は何かって質問が多かったですよね」
御影 「霹靂神にも神代にも『決まり』があり、それは其々異なります」
妹 「『ルール』って、人が『幸せ』になる為にあるんじゃないの?」
女の人「『ルール』は『自己矛盾』の1つだから、上手い方法なんてないんだよ」
神楽 「一般的には、『3つの関係』を重視する事だと考えられています」
妹 「うーん」「こういう時って、朱雪さん・・かな?」
朱雪 「えっ私ですか?」
「えーと、」
「こういった問題の場合、『宇宙』にヒントがあると考えたりしませんか?」
「私は、宇宙での『ルール』は『ブラックホール』だと思います」
「『銀河』の中心には巨大なブラックホールがあり、広大な秩序を形成しています」
「しかし、」
「ルールの乱造はブラックホールが周りに沢山出来る事と同じで恐怖に繋がります」
「これが『自己矛盾』だと言われる所以ではないでしょうか」
妹 「そのブラックホールって、中に入ると・・」
神楽 「『外の世界』若しくは『ゼロの世界』に行くと考えられています」
妹 「あっ、この話」
女の人「いいから、いいから」
………次の日(日曜日)………
朝。洗面所から出る姉と、3メートル離れた所にいる普段着の妹。
妹 「おはよう」
女の人「おはよう」「今日はパジャマじゃないんだね」
妹 「だって、今日は絶対に勝たないといけないから」
女の人「そうだね」「朝ご飯にしよっか」
………ダイニングキッチン:何時もの食事風景(小粒のチョコが追加された状態)………
妹 「確認するけど・・」
「・・ってなると思うから、後はお姉ちゃんに任せるよ」
女の人「分かった」
「それで、失敗した時はどうするの?」
妹 「その時は鈴音さんが何とかするって・・」
「でも、どう転んでも最悪の結果にはならないって言ってたよ」
女の人「それは何故?」
妹 「内緒」
女の人「ところで・・」
母親 「はいはい。母さんも結果を見に行きますからね」
………午前10時………
とある神社の境内。(東京)
鈴音・姉・妹の3人が立っていると、女性が独り、ゆっくりと此方へ歩いて来る。
周りを見ると、近くに居た参拝客(少数)と3人との距離がさっきより遠くなった。
鈴音 「神代様の巫女姿以外を拝見するのは久し振りです」
神代 「鈴音、納得のいく説明があるのであろう?」
鈴音 「はい勿論です。神代様」
妹 「初めまして。私と勝負しませんか?」
「あっ、こっちは私のお姉ちゃん。勝負には無関係です」
〈姉は無言で会釈する〉
神代 「鈴音、狙いは何じゃ」
鈴音 「もし、神代様が負けるような事があれば、その座を私に譲って頂きたいのです」
「神代様は何時も私に仰いましたよね」「この世に無償な物など無いのだと」
神代 「・・・」
「良い」
「其方。一体、我と何で勝負する気じゃ」