第42話
第42話
〈油留木が妹の左隣に座る〉
油留木「ところで、さっきの技、大したものだったわ」
女の人「妹に『虚栄』の核を作って貰って、私の『停止』と『隠』で仕上げました」
「これにはセンサーの役割もあるので、」
「敵が私達の居場所を探ろうとすると、位置が特定できる仕組みです」
油留木「それって、データの『エラー検出』と同じ原理を使ったんでしょ?」
女の人「・・この方法は有名なんですか?」
油留木「これ程の広範囲で使える能力者は そう居ないわ」
「それに貴女、『隠』が得意なのに『お喋り』だと笑えないわよっ」
………午後3時過ぎ………
リビングでお茶を飲む姉妹。(テーブルの上には、コーヒー・紅茶と茶菓子)
〈妹の携帯電話が鳴る〉
妹 「鈴音さんからだ」
「・・・はい。待ってます」
女の人「もう一人の幹部と戦う準備が出来たの?」
妹 「そう」
「でも、私達が戦うんじゃなくて、結果を見に行くだけだって言われたよ」
<別の時間(少し前):とあるビル:部屋の扉を紫苑(独り)が開け、中に入る>
御影 「お待ちしておりました」
中央に立つ御影がそう言い終わると、
部屋全体(広さ50平米)と廊下に大小様々な光玉が浮遊し始める。
紫苑 「盃、鈴音に懐柔されたのか・・」(既に300個超の光玉が部屋中を漂っている)
御影 「言い残す事はありますか?」
紫苑 「・・無い」
ビルの外を見ると、乗用車に男性(22歳位)が一人と、車の外に朱雪。
近くのコンビニで、乗用車に男性(25歳位)が一人と、車の外に風雅。
男性は両者、車内で硬直している。
………5分後………
ビルの外で御影・朱雪・風雅の3人が立っていると、
赤いスポーツカーが目の前で止まった。
鈴音 「あら、待たせたかしら?」
御影 「今、終わったところです」
鈴音 「そう、私は一仕事あるから」
〈鈴音は車を降りてビルの入り口へ、続いて姉妹も後を付いて歩こうとすると〉
御影 「私の車で本部に戻りませんか?」
妹 「えっ、でも・・」
女の人「はい。そうします」
鈴音 「私は構わないわよっ」
「神代には神代のやり方があるの。見せられなくて残念だけど」
………黒い車(走行中)御影が運転し、助手席に風雅、後部座席に姉妹と朱雪………
女の人「・・その紫苑って人、どんな能力を使うんですか?」
御影 「『不興』と呼ばれる力で、殆どの技が使用不能になります」
女の人「そんな能力があるんですか?」
御影 「貴女は、この世界の理について、どのような考えをお持ちですか?」
「具体的には、我々がこの世界に留まっていられる理由です」
女の人「以前にも話しましたけど、あの時とは違う言い方をするなら、」
「『0』と『∞』を足して2で割った世界だと思います」
「つまり、『0』でも『∞』でもない、『0と∞の間』です」
朱雪 「流石ですね」
御影 「我々は日々、」
「『ある物』を消費して『0と∞の間』になるよう調節して暮らしています」
「この世界では、」
「『ある物』が尽きる時、生ける者は『死』を迎えるとされています」
妹 「何もしなくても、『ある物』は消費され続けるんですよねえ?」
御影 「はい」
「『不興』は強制的に『間』を取れなくする能力です」
「系統上は『蹉跌』の派生となっていますが、無力化の『無』に次ぐ力です」
「ちなみに、『ある物』は『変化の力』とも呼ばれ、」
「『魂』の『繋ぐ力』とは明確に区別されています」
妹 「じゃあ、御影さんはどうやって勝ったんですか?」
女の人「ほら、御影さんのハンカチ」
妹 「あっ」
御影 「今回の戦いで、貯えの殆どを使ってしまいました」
「次の戦いに備えて補充する必要があります」
女の人「それで本部に戻るんですね」
御影 「はい」「神楽に移籍する際、消費した分を用立てて頂ける約束をしました」
<鈴音:ビルの一室>
うずくまって気絶している紫苑の体から、七色に輝く光玉が出てくる。
鈴音 「ふふふ。貴方には過ぎた力だったようね」
「心配しなくても、この力は私が有効に利用させて頂きますわよ」
「そう、私の後継者に相応しい子に」
〈鈴音は光玉を胸に取り込んで〉
「・・神代様との決戦まであと7日。あの子、間に合うかしら・・」
………黒い車(走行中)………
妹 「あのう、また1つ疑問があるんですけど、聞いてもいいですか?」
御影 「何ですか?」
妹 「『自然淘汰』や『自然選択説』ってありますよね」
「例えば、男の人が美人としか結婚しなかったり、」
「能力者同士でしか結婚しないとしたら、」
「世界は美人と能力者で溢れたりしないのかなぁって」
「でも実際は美人ばかりにならないし、美人が全く居なくなる訳でもないでしょ?」
御影 「それは『三竦み』の関係を考慮しないからです」
「男性にも女性にも其々違った特性があり、」
「『美人』しか生まれないという考えは『自己矛盾』となります」
妹 「お姉ちゃん、出番」
女の人「『美人』が存在する為には、『0と∞』が必要なんですよね?」
「だから、この世界が存続する限り、一定数の『美人』が生まれてくる」
御影 「はい」「その通りです。しかし、何事にも例外が存在するのも、また事実です」
妹 「うーん」「それなら、みんなの特性って何ですか?」
朱雪 「私は『力』ですぅ」
風雅 「私は『知恵』だな」
御影 「私は『流れ』です」
妹 「お姉ちゃんは?」
女の人「・・何だろうね。考えた事無かった」
「でも、3人の特性は合ってる気がするよっ」
「・・・」
「あっ、そう言えば、何故今日は3人なんですか?」
風雅 「『不興』が使える能力者にも弱点がある」
「この弱点を補う為、属性が異なる2人の部下を連れていた」
朱雪 「それに、鈴音様が盃に働き掛けて、紫苑の部下に『同調』を掛けた様です」
御影 「神代の『守り』を破るのは容易ではありません」
「このような機会でもない限り、幹部を倒せる事など まず無いでしょう」
<3日後(水曜日)神代の御前>
男A 「盃から予定通りとの報告が入っております」
「紫苑からは まだ報告がありません」
榊 「神楽と霹靂神が能力者の獲得に動き出しました」
「このままですと、計画に誤差が生じます」
男B 「東京の支部で鈴音の姿が確認されました」
「被害報告などは特に入っておりません」
神代 「・・・」
「全て鈴音の仕業か」「我を試しておるようじゃ。近く、決着をつけねばなるまい」
男女 「・・・」(男女3人は頭を下げ退出)
………次の日(木曜日)………
朝。洗面所から出る姉と、3メートル離れた所にいる制服姿の妹。
妹 「お姉ちゃん、おはよう」
女の人「おはよう」
姉妹がお互いに向かって歩く。(この時、廊下・壁・天井が光を帯びる)
すぐに姉妹はすれ違い、互いの位置関係が入れ替わる。
女の人「大丈夫だね」
妹 「やった!」
〈姉妹が廊下の中央へ〉
女の人「これって、鈴音さんからのアドバイス?」
妹 「そう。最低限、耐性の訓練はしないと対決できないって言われたの」
「それで、お姉ちゃんの方は?」
女の人「一応、大丈夫だと思う」「でも、対決が日曜日なのって、急展開過ぎるよね」