第41話
第41話
妹 「お母さん、聞いて聞いて。私、分かるようになったの」
「『能力』って、何もしないと勝手に減っちゃうんでしょ?」
「だから、みーんな『体』を持ってて、身近な所に『物』を置いて、」
「『人』と触れ合う事で減らないように工夫してるんだよね」
母親 「そうよ。『単位未満の感覚』は人が少しでも『幸せ』を感じて生きられるよう、」
「神様が考えた機能なの」
女の人「季節によって服を変える必要があるのと同じで、」
「『人と物』との関係も少しずつ変化するんだよ」
「自分の中の『サイクル』が分かれば、」
「自分の外のサイクルも分かるようになるからね」
母親 「『答え』は切り取った『世界』の大きさによって変わるのよ」
「今は『答え』だと思っていても、自分の成長と共に『答え』も変わるから、」
「その都度『答え』を探しなさい」
妹 「それって、『最小単位』と関係あるの?」
母親 「これはヒントね」
「『最小単位』は小さい物ほど大きく、大きい物ほど小さくなるの」
「例えば、『宇宙』の最小単位は物凄く小さいわね」
妹 「なら、『最小単位』に最小単位があったりする?」
母親 「普通は無いけど、有る場合は『ゼロの世界』に行く時よ」
妹 「うー」
女の人「いいから、いいから。まだまだ若いんだし」
………ダイニングキッチン………
何時もと少し違う食事風景。
妹の前には、コーヒー・トースト2枚・イチゴジャムの瓶。
そして、小粒のチョコレートが2個。
女の人「何時もと違うね」
妹 「ちょっと変えてみようかと思って」
女の人「知ってる?」「好物って、その人にとっては毒だったりする場合が多いらしいよ」
妹 「何それ」
………午前8時:ガレージから姉妹の乗った車が出る(妹は助手席)………
妹 「お姉ちゃんと一緒に『風』を読むのは久し振りだね」
女の人「そうだね。今日は何かが起こりそうな予感がするから、気を抜いちゃダメだよ」
………1時間半後:田園風景の中を車が走る………
妹 「ねえ、ちょっと遠くに来過ぎてない?」
女の人「かも知んない・・」
妹 「もぉお姉・・あっ、あそこ」
「鳥が同じ所をグルグル回ってるみたいだけど、何してるの?」
女の人「トビ(鳶)だね。あれは、上昇気流を利用して高い所まで上がってるんだよ」
「上昇気流は特定の場所にしか発生しないから、」
「トビはその場所を探して翼を広げるの」
「その生き物しか持ってない感覚ってあるから、」
「これは能力者と一般人との違いと同じだね」
妹 「ふーん。じゃあ、他の生き物も人間とは違う感覚を持ってる訳?」
女の人「テレビや理科の授業なんかで聞いた事があるとは思うけど、」
「例えば鳥は磁場が分かったり、蝶に紫外線が見えたり、蛇が赤外線を感じたり、」
「ペットの犬や猫と音域が違ったり」
「あと、動物との味覚の違いで、」
「人間だと苦くて食べられない物でも平気だったりするよね」
妹 「もしかして、神楽さんや鈴音さんが私達に能力者の話をしたがらないのって・・」
女の人「固定観念に縛られないようにする為でしょ」
「どんな能力者と出会っても対処できるように」
「お母さんのノートは役に立つけど、やっぱり頼ってばかりじゃいけないよね」
妹 「だよねぇ・・って、そろそろ戻らない?」
女の人「そうだね」
………午前11時:見慣れた都会の風景………
妹 「何て言うか、もう『風』が元に戻ってる感じじゃない?」
女の人「表面的には、戻ってる感じかな」
「・・さてと、何か買い物して帰ろっか」
妹 「うん」
10分後。
4車線の道路(片側2車線)の右側を制限速度で走る。(右遠方には大型スーパー)
程無く、左からトラック(中型貨物自動車、荷台に工事関係の資材を載せている)
が追い抜いて、姉妹の前に出て来た。
直後の交差点。トラックはそのまま右折レーンに入り、姉妹も後に続く。
交差点の信号は丁度黄色に変わったところで、すぐに『右矢印』が出たが、
何故かトラックは停止してしまう。
女の人「えっ?」
〈妹の携帯電話が鳴る〉
妹 「あれ、この番号誰だろう・・」
女の人「出たほうが良いんじゃない?」
妹 「うん、分かった」
「もう、世話が焼けるわねっ!しっかりしなさいよ!」(すぐに通話が切れる)
妹 「油留・・」
女の人「・・木さんだったね」
妹 「という事は、」
女の人「神代の幹部が近くに居るっ」
………姉:目を閉じて集中:1秒………
「ちょっと、力を貸して。大技を使うから確実に決めたいのっ」
「これには高いレベルの『虚栄』が必要だから、力の配分に注意して」
信号が変わり、対向車の合間を抜けて右折。
そして、200メートル程進んで今度は左折。
妹 「じゃあ、始めるね」
姉妹の車が通った後、車道と歩道の境に光玉(ピンポン玉)が浮遊し始めた。
光玉は10メートル置きに出現し、
やがて400メートル四方の『囲い』が出来上がる。(最初の右折地点が中心)
妹 「これで一周だね」
〈姉は信号で停止すると、人差し指を立て〉
女の人「・・見付けた!」
全ての光玉が人や建物を通り抜けながら ある一点に向かって高速に移動を開始する。
10秒後。
コンビニの駐車場で、車内(黒い車)に居る 盃に全弾ヒット。(約150発)
盃は突然壁を抜けて現れた光玉に反応が追い付かず、そのまま声も出せずに硬直。
<姉妹>
妹 「どう?」
女の人「多分、成功だね」
<盃>
それから20秒後。
盃がやっと動けるようになると、運転席の窓を誰かにノックされている事に気付いた。
鈴音 「はい、ゲームオーバー」
盃 「・・・」(盃は目の色を変える)
鈴音 「ふふふ。まだ交渉の余地はありますよっ。お邪魔しても宜しいかしら?」
〈鈴音が助手席に座る〉
盃 「私の能力を教えたのか?」
鈴音 「あら、私が敵に話すとでも?」「敵の力量を測るのは、代表の務めでしょう?」
「彼女は僅かな情報と僅かな時間で、貴方を攻略したのよ」
盃 「・・・」
………大型スーパーの飲食コーナー:4人掛けの四角いテーブルの上に飲み物が2つ………
妹 「お姉ちゃん、そろそろ話してくれない?」
女の人「いいよ。今頃、鈴音さんが『落とし所』を探ってる筈だから」
〈姉妹が『前のめり』になる〉
「実は私達、敵の術中に嵌ってたんだよっ」
妹 「えっ、じゃあ、油留木さんが助けてくれたの?」
女の人「そう。それで全て分かったんだ」「敵の能力は間違いなく、『同調』だね」
妹 「『同調』って?」
女の人「『シンクロニティ』って現象、聞いた事ある?」
妹 「『偶然の一致』でしょ?小説とかでよくあるもん」
女の人「それで、こんな風に考えた事ない?」
「私達って、普段は特定のタイミングでしか行動できないんじゃないかって」
妹 「・・・」(妹は姉の話に集中している)
女の人「例えば、『パリティ・フィールド』上で、」
「二人の人間が離れた場所の『同じ柄』から出発する時、」
「お互いに一秒で一歩ずつ、縦と横にしか移動できないとしたら、」
「どの時間でも必ず同じ柄に居る筈だよね」
「同じように考えて、人間の持つタイミングを自在に操れる能力があるとしたら、」
「建物や地形を使った誘導との組み合わせで、」
「特定の場所と時間に人を出会わせる事も出来るし、」
「他の能力者がテリトリーに入って来ても、」
「タイミングの違いで即座に見破れるでしょ?」
妹 「すると、油留木さんからの電話で、私達はそのタイミングから逃れられた!?」
女の人「そう」
「感謝しなさいよねっ」
〈姉妹が声のする方を見ると、油留木が飲み物を1つ持って現れる〉
女の人「さっきは助かりました」
妹 「油留木さん、ありがとう」
油留木「これも鈴音様との契約なんだから、ホント、特別よ」