第4話
第4話
………4日後(8月11日)午前10時過ぎ:晴天………
〈美術館に入る姉妹(第1話とは別の場所)〉
妹 「さあ、今日も修行だよぉ。お姉ちゃん」
女の人「はいはい。お互い頑張らないとね」
………館内:姉が入館料を払い、姉妹は最初の部屋へ………
妹 「まずは、この絵から」
〈姉妹は静物画の前に立つ〉
「お姉ちゃん、どう?」
女の人「うーん、やっぱり分かんないなぁ・・」「この絵に魂なんて込められてるの?」
妹 「降参?」
「家にある絵を『10』とすると、『2』くらい有るかな」
女の人「ホントに?」
「・・何度見ても全然分かんない」
妹 「ふふっ」
女の人「じゃあ次は私の番だね」
「この絵から『声』は聞こえた?」
妹 「ううん、ぜんぜん・・」
女の人「私にも やっと聞こえるようになったけど、」
「この絵は誰か、他の人の所へ行きたがってるね」
「まるで『物』にも意思があるみたい」
姉妹 「・・・」(姉妹は一瞬 顔を見合わせる)
女の人「さてと、次行こうか」
姉妹はその場から離れると、すぐに別の絵に移動して、このやり取りを繰り返している。
そして、部屋に展示してある全ての絵画を見終わり、次の部屋へ移動。
妹 「あっ、神楽さんだ!」
(神楽は抽象画をじっと見ている)
〈姉妹は真っ直ぐ神楽の所へ〉
姉妹 「こんにちは」
神楽 「はい。こんにちは」
女の人「こんな所で会うなんて偶然・・って、神楽さんに限って偶然は無いですよね」
神楽 「はい。今回も偶然ではありません」
妹 「あっ、この絵にも魂が込められてるよっ。『8』ってとこだね」
神楽 「なかなかの名品でしょ?」
女の人「何と言うか、不思議な感じがする絵ですよね」
神楽 「実はですね、この絵を気に入った方が2名おられます」
女の人「えっ、そんな時はどうするんですか?」
神楽 「聞きたいですか?」(神楽は妹に顔を近付ける)
妹 「私は別に・・」
神楽 「そんな時は まず、私が作品の前に立って『声』を聞きます」
「次に、対象者と直接会って話をします」
「最後に、もう一度作品の前に立ってから、私が判断を下します」
「メンバー同士で取り合いになる事は滅多にありませんが、」
「『取決め』には皆さん納得されていますよ」
女の人「神楽さんは、みんなから信頼されてるんですね」
神楽 「はい」
「ところで、あなたには、この絵の『声』が聞こえますか?」
女の人「私には、『他の人の所には行きたくない』って聞こえますね」
「この場合 大変じゃないんですか?」
神楽 「いいえ、ご心配には及びませんよ」「もう決めてますから」
………美術館の外………
妹 「うーん、私達って、まだ2人で1人だよね」「こんな調子で大丈夫なのかなぁ」
女の人「そんなに急ぐ事ないんじゃない?」
妹 「だって、早く夢を叶えたいもん。そうしないと私の人生設計が狂っちゃうし・・」
女の人「はいはい。取り敢えず家に帰ってお昼にしよっか」
………姉の車(帰り道)美術館を出て10分後………
女の人「あれぇ、何だろう?」「ちょっと、ここのコンビニに寄るね」
〈姉はコンビニの駐車場に入り、入り口付近に車を止める〉
「一緒に来て。お茶しか買わないつもりだけど・・」
妹 「いいけど。お姉ちゃん、急にどうしたの?」
2分後。
姉は お茶を2本買い、清算を済ませて扉から出てくる。(すぐ後ろに妹が居る)
この時、右方向(姉の車から3台分隔てた所)に軽自動車が止められ、
女性(23歳位)と女の子(4歳位)が車から降りてきた。
女性 「いやーん、外れてるー」
「あーあー」(ちょっと楽しそうな感じで)
女の子「あーあー」(母親のトーンを真似て)
女性は愛車の前方・左下に取り付けられているエアロパーツが外れている事に気付き、
手で触って確認をしている。
(軽自動車にはフロントスポイラーとサイドスポイラーが付いている)
しかし姉妹は、女性が居る方向を見ようとはせず、
素早く車に乗って、すぐにシートベルトを締めた。(姉妹は終始無言)
程無く姉が車を発進させ、加速しながら道路へ。
(女性は外れたパーツを元に戻し、娘と共に店内へ入って行く)
妹 「さっきまで気付かなかったけど、あの人から凄く嫌な『風』を感じるよっ」
女の人「能力者と出会ったら、兎に角、『逃げる事』・・だったよね」
………2分後………
妹 「追って来ないね」
女の人「そうだね」
〈姉妹が気を緩めた直後、左前方にある 建物から乗用車が出て、前を走り出した〉
「前の車、遅いなぁ」
〈すぐに前の車との距離が縮まり、姉も速度を落とす:追い越し禁止車線〉
〈30秒後。対向車線をライトを点けた軽自動車が走ってくる:34歳位の男性〉
妹 「これ、何か変じゃない?」
女の人「うん」
「でも、このまま何もしないほうが良いと思う。私の勘だけどね」
2分後。坂道を登る。(前方の車は先程から制限速度よりも遅く走行)
姉がバックミラーを見ると、
ライトを点けた さっきの軽自動車が近付いて来るのが確認できる。
(周りには この3台以外に車の姿は無い)
妹 「お姉ちゃん、大丈夫?」
女の人「多分・・」
やがて軽自動車との距離が10メートルになった時、
突然 軽自動車は指示器も出さずに左折。(脇道へ)
妹 「あれっ、行っちゃったね」
女の人「そうだね」
〈前方に見える信号が黄色に変わる〉
〈前の車は止まり、右折の指示器を出した〉
「もう大丈夫みたいだね」
妹 「お姉ちゃん、何かしたの?」
女の人「ううん、私は何もしてない・・」
妹 「あれっ、前の人、一体どうしたんだろう?」
(ガラス越し、運転手は左手を顔の横で上下に素早く動かしている)
女の人「ヒゲを剃ってるんじゃない?」
妹 「すると、これから誰かと会うのかな?っていうか、私達弄ばれてない?」
女の人「きっと、私達を試してたんだね」
「とてもじゃないけど、今の私達の力じゃ到底戦えそうにないし」
信号が青に変わり、姉は直進。そして、姉妹は無事帰宅を果たした。
<別の時間:コンビニの前:さっきの女性と男性が2人(もう一人は30歳位)>
女性 「噂では あの姉妹、神楽が一目置いてるらしいけど、どう思う?」
「こっちが わざわざ気配を出さないと気付きもしないのに」
男性A「何時も通り、『マニュアルのB』で処分してはどうかな?」
男性B「いや、姉の方は『道』が見えるようだから、全て回避されてしまうだろう」
「上の指示を仰ぐべきだ」
女性 「面倒臭いねえ。私はアイツに会うのが一番嫌なんだよ」
………午後:玄関から出る姉妹………
妹 「次の修行はドライブだね」
女の人「神楽さんには、」
「『風』が分かるようになるまで毎日続けなさいって言われたけど、」
「他にも何か大事な事を言いたいみたいだった」
妹 「考えるより まず行動だよ、お姉ちゃん」「私ドライブ好きだし、早く行こ」
こうして姉妹は、午前は美術館に行き、午後は都内をドライブする事になった。
………5日後の朝(8月16日)………
妹 「お姉ちゃん、ちょっとこれ見て!」
〈妹は、印が12ヶ所付けられた地図を見せる〉
「今までに何度も通った所に印を付けたんだよ」
「駅・病院・スーパー・美術館・公園・神社、何故だか何処も気になるよね」
「これ全部、意識して行ったの?」
女の人「ううん」
「自分でも不思議だけど、何となく行きたい方向に曲がったら、そうなったんだよ」
「神楽さんが言いたかった事って、これと何か関係があるのかなぁ・・」
妹 「行けば分かるって」
「絶対、何かヒントがある筈だよっ」
朝食後、姉妹は車に乗り、印の場所へ向かう。
<駅>
妹 「ここでは、特に何も感じないね。『風』も吹いてないし」
女の人「私も、ぜんぜん・・」
<病院、そして美術館へ>
妹 「おっかしいなあ、意地悪しないで早く出て来て欲しいよね」
<スーパー、公園>
女の人「ここも特に変わった所は無いみたいだね」
<神社:午後3時>
妹 「ここの神社で最後だね」「どう?お姉ちゃん何か見付かった?」
女の人「やっぱりダメ・・」「どうして何も無いんだろう・・」
「ねえ、もう一度 地図を見せて?」
〈地図を受け取る〉
「うーん。場所はみんなバラバラで規則性は無いみたいだし、」
「そこに何かが有る訳でもない」
「・・・」
「もしかして、勘違いをしてる?」
「・・・」
「あっ、多分そう」「きっとそうだよ」
妹 「分かったの?」
女の人「うん、車に乗って。神楽さんが待ってる」




