第34話
第34話
<3章>
………ビルの空室………
広さ70平米。(7.2×9.6メートル)
ブラインドが全て閉められ、蛍光灯が部屋の奥、半分だけに点いている。
神楽が部屋の奥中央に立ち、正面入り口付近で構える妹を見つめながら、
「合格の条件は、私に一回でも攻撃を当てる事」
「但し、私は此処から一歩も動きませんし、攻撃もしません」
神楽は目を閉じ、人差し指を立てる。
2秒後。神楽の前方2メートルの所に、
人の形をした薄い光(神楽と同じ輪郭)が5体、横一列に現れた。
妹 「神楽さんの分身を倒せばいいんですか?」
神楽 「残念ながらノーヒントです」「Sクラスですからね」
<部屋の隅(妹の左側)姉と鈴音>
女の人「これって・・」
鈴音 「はい。『単位未満の感覚』ですねっ」
「あの子、この試験で『能力』と『才能』が何処から来るのか気付けるかしら」
<部屋の隅(妹の右側)御影と朱雪>
御影 「朱雪も そろそろですね」
朱雪 「はい。参考にしますぅ」
<妹:神楽との距離6.2メートル>
【・・取り敢えず、全部に攻撃してみようかな・・】
妹は人差し指から光玉(ピンポン玉)を5個出現させると、
一度に5体全てに向けて光を放った。(時速15キロ)
すると、両端の分身は光玉を跳ね返して妹に反撃、(時速7.5キロ)
内側の分身2体は光玉が体内を素通りしてブラインドに当たり、
中央の分身(正面)は、体の真ん中に光玉を取り込んだまま、何もしてこなかった。
(反射・素通・取込・素通・反射)
妹は、両端の分身に跳ね返された光玉を目の前(透明な壁)で消滅させ、
ゆっくりと目を閉じる。
5秒後。妹が目を開けるのと同時に、
神楽を中心として半径1メートルの円周上に光玉が10個出現し、
一斉に神楽へ向かう。
しかし、5体の分身が一瞬で神楽の周りに移動して身代わりになると、
再び元の位置に整列し直してしまった。
妹 「何これぇ。全然効果ないじゃん・・」
〈妹は暫く考え込んでいる〉
(一方、神楽は真っ直ぐ妹を見つめながら微動だにしない)
【・・どうしよう・・】
【『パリティ・フィールド』は相手が動かないと使えない技だし、】
【他に私が使える技で何か考えないと・・】
「あれっ?」
【中央の分身、さっきより光玉が少し大きくなってる・・っという事は・・】
妹は中央の分身に向かって連続で光玉(ピンポン玉)を飛ばす。
分身は光玉を全て取り込み、やがて光玉が野球ボール位にまで成長すると、
「えっ!?」
次の瞬間、中央の分身が僅かに光を発し、何故か最初の状態へ逆戻り。
代わりに、
両隣の分身の真ん中に光玉(ピンポン玉)が出現している。(無・有・無・有・無)
「ああ、神楽さんってやっぱり意地悪だよ・・」
【きっと、このまま続けても力を分散させられるだけなんだろうなぁ】
〈妹は再び考え込んでいる〉
【神楽さんの事だから、『答え』はちゃんと用意してると思うんだ】
【だから、『問題と答えの関係』を考えると、】
【答えは私の中にある・・筈?】
〈妹は両手の掌を顔に向けた後、10本の指から大小様々な光玉を分身へ飛ばす〉
鈴音 「ふふふ。第一段階クリアね」
今度は、分身の『反射・素通り・取込』の反応が、
位置と光玉の大きさによって異なり、妹は何かに気付いた。
妹 「あっ、そうか・・」(反射された光玉を透明な壁で消滅させながら)
「神楽さん」
「神楽さんの分身、私の力に合わせて作ってあるんですか?」
神楽 「はい。これを『単位未満の力』又は『単位未満の感覚』と言います」
「貴女が持つ力の感覚と、反応の関係を理解出来ましたか?」
「本来は、」
「特定の技量と その概念に気付いた時点でSクラスに合格となりますので、」
「これで合格でも構いませんよ?」
妹 「いいえ。続けます」
女の人【あっ、そうなんだ。それで私にはSクラスの試験が無いんだ】
妹は大きく息を吐くと、
右手の親指から小指まで『小・大・中・大・小』の光玉を順番に作り、
分身に向けてゆっくりと飛ばした。
数秒後。5体の分身は光玉を全て取り込むと、中心に向かって崩壊を始め、
やがて、幾つもの光玉(野球ボール)となって神楽の胸元に全弾ヒット。
神楽 「はい。Sクラスに合格です」
〈全員が妹の所へ集まって来る:部屋の照明が全て点く〉
女の人「やったね」
御影 「お見事です」
鈴音 「ふふふ。これからが楽しみね」
朱雪 「はうぅ、先を越されましたぁ」
妹 「ねえ神楽さん、あれだけの攻撃を一度に受けても平気なんですか?」
神楽 「はい。大将ですから」
………応接室(5階)………
丸い大きなテーブルを中心に6人が背もたれのある椅子に座る。
程無く全員に飲み物(コーヒー×2・紅茶×3・カフェオレ)と茶菓子が配られ、
神楽が妹に詳しい説明を始めた。
神楽 「貴女は普段、自分の感覚に付いて、どのくらい意識をしていますか?」
妹 「うーん。改めてそう言われると、特に気にした事はないです」
女の人「それは感覚の『最小単位』の事ですよね」
神楽 「はい。我々や動物もそうですが、感覚として認識できる範囲というのがあります」
妹 「それは、体は気付いているのに、意識は気付いてないって事?」
鈴音 「ちょっと話がズレてますけど、簡単に言うなら、」
「私達には、幸せを感じて生きられるように安全装置が付いているんですよっ」
神楽 「その説明の方が早そうですね」
妹 「そうなの?」
鈴音 「例えば、貴女は小説やマンガを読んで、楽しくなったり嬉しくなったりして、」
「『また他のも読みたい』って思うでしょ?」
妹 「うん」
鈴音 「以前私は、『無償』で得られる物は無いって話をしましたよね」
「つまり貴女の中では、」
「読書に支払う対価よりも、得られるモノの方が多い事になってるの」
妹 「えっ?、でも、それは個人差とか・・」
御影 「それは勘違いです。人の多くは実際に払う対価を正確に把握できません」
「自分では『好み』や『向き不向き』だと思っているのかも知れませんが、」
「実際には気付いていないだけで自分自身に負担を掛けているのです」
女の人「もしかして、『依存症』とか言われてるのって・・」
鈴音 「安全装置の故障。又は、それを人が営利目的で悪用したものです」
神楽 「同じ事をすると『飽き』たり、逆に何かと同じだと『安心』したりしますよね」
「これも元は1つに繋がっていて、我々が生きる上での支えになっているのです」
朱雪 「そう言えば、神代は近年、」
「依存症や人が持つ保護機能についても研究を進めているとの噂です」
妹 「ねえ鈴音さん、神代の目的って、一体何ですか?」
「人間を管理しようとしているって本当ですか?」
鈴音 「その質問には答えられません」
「そんな事まで私に聞いているようでは、」
「神代様に勝つなんて、夢また夢だと思いません?」
妹 「・・・」
女の人「『単位未満の力』」「これが関係しているんですよね?」
鈴音 「ええ。これ以上は話せませんけど・・」
「さて、本題に入りましょうか」
「貴女、今日の試験で才能や能力の『素』が何か、」
「ヒントになったんじゃありません?」
妹 「えーと、」
「今までの話を総合すると、普段何気なくしてる行動が無駄遣いになったり、」
「自分ではプラスだと思ってた趣味や嗜好が、」
「実はマイナスだったりするって事ですよね」
「例えば『喜び』や『苦しみ』が同じだけあっても、」
「人によって どちらか一方に偏る」
「じゃあ、そんな人は何もしないのが一番良いの?」
神楽 「それでは、自分自身の『流れ』が無くなってしまいます」
女の人「それって、自然界で、」
「ある特定の物質が長い年月を掛けて集まったりする現象と同じなんですよねえ」
神楽 「はい」
妹 「ああ、お姉ちゃんが何か言うと、また泥沼だよぉ・・」
御影 「ヒントはこれから先も様々な機会や出会いとして現れると思います」
「その都度、私達やお姉さんに聞けば良いのではありませんか?」
神楽 「そうですね。御影さんの言う通りです」
「但し、1つだけ覚えておいて下さい」
「『知識』は『資産』ではありません」
「それは何故我々が『体』を有するのかという答えでもあります」
「それが分かった時、貴女方は大きな力を手に入れられるでしょう」




