第3話
第3話
………3日後(8月7日)午前10時20分:大型スーパーの立体駐車場………
〈ガラス扉が開き、妹が店内側から勢い良く出てくる〉
「お姉ちゃん、早く早くぅ」
女の人「えぇー、ホントに分かるようになったの?」「私は何にも感じないんだけど」
妹 「だって努力したもん。今の私には、ハッキリと『風』が分かるんだから」
妹が先頭を足早に歩き、近くに止めてある姉の車に乗り込む。
(妹は先にシートベルトを締め、姉も急いでシートベルトを締める)
すると、まるで見計らったように『空き』を探している車が右側に止まった。
女の人「今日は こんなのばっかりだね」
〈程無く別の車がやって来て、右側の車の後ろに停まり、軽くクラクション〉
妹 「早く出たほうがいいよ」
〈姉はエンジンを掛け、ギアを『ドライブ』に入れる〉
(右側の車は ほんの少し動いて、また止まる)
女の人「大丈夫だよね・・」
〈アクセルを踏んで、ゆっくりと左へ〉
妹 「これで5ヶ所目・・っと」(妹は楽しそうに、持っている地図に印を付ける)
「不思議だよね。お姉ちゃんが風の中心に入るだけで風が止むんだよ?」
女の人「・・・」
妹 「人と物。場所と時間」
「これを管理できる人が居れば、きっとみんな『幸せ』になれると思う」
「神楽さん達のやってる事って、凄い事なんだよっ」
「ねえ。お姉ちゃんも そう思うでしょ?」
女の人「確かに凄いとは思うけど・・」「うーん、何だろう・・」
〈車はスーパーを出て、公道を走る〉
妹 「お姉ちゃん、次の交差点を左ね」「今度は ちょっと遠いよ」
………5分後:2車線の道路を走行中………
〈突然、対向車がライトを一瞬だけ点けた:32歳位の女性が運転している〉
女の人「えっ、何?」
妹 「何かの合図かなぁ。今日、神楽さんからは『風を鎮める』としか聞いてないし」
〈2分後。また別の対向車がライトを一瞬だけ点けた:28歳位の男性〉
女の人「別の場所に行こう。嫌な予感がする」
妹 「・・じゃあ、ここを右に曲がって」「そこは後回しだね」
〈10分後。コンビニに停車〉
「お姉ちゃん、ここで何か買って。私は車で待ってるから」
女の人「うん、分かった」
………店内………
姉は『おにぎり』を3個カゴに入れ、レジへ。(客は自分一人)
レジには女性店員(22歳位)が立っており、すぐに清算が終わる。
店員 「340円です」
〈財布から100円玉を4枚出す〉
「レシートと60円のお返しです」
〈お釣りは何故か10円玉と100円玉〉
女の人「これ、百円です」
店員 「すいません。失礼しました」
店員は100円玉を受け取ると、レジから50円玉を取り出し、改めて姉に渡す。
そして、姉は そ知らぬ顔で店を出ると、素早く車に乗り込んだ。
女の人「慣れって言うか、だんだん冷静になれるよね」
妹 「そうだね」
「私は、神楽さんに会ってから、世界が変わったよ?」
「私は今まで、『目隠し』して生きてたんだって」
「これから先、どんな事が起きるのかと思うとワクワクする」
「それにね。私、叶えたい願いがあるんだぁ」
女の人「願いって?」
妹 「お姉ちゃんには教えないよぉ」
「だって、神楽さんが『叶うかも知れない』って言うから・・」
女の人「ふーん」
妹 「さぁて、次だね」「お姉ちゃん、行こ」
〈車はそのまま郊外へ出て、暫く道形に走る〉
「ここ左ね。道が狭くなってるから気を付けて」
………脇道:乗用車がすれ違うにはギリギリの幅:両脇に家の塀が迫る………
女の人【・・ここを通るの?・・】
姉が速度を落として注意しながら200メートル程進むと、
前方に軽自動車が一台止まっていた。(道路左側、此方に後部を向けている)
女の人「ちょっと遅かった?」
妹 「違うよ、これが最善なんだって」
姉は ゆっくりと軽自動車の右側を抜ける。
軽自動車は左前輪を溝にハメて立往生。(溝の始点になっている)
同乗していた女性(21歳位)はタイヤを見つめ、運転手の男性(21歳位)は、
バツが悪そうに車の前方に歩きながら、携帯電話で到着が遅れるとの連絡をしていた。
女の人「こんな時は、関わっちゃいけないんだったよね」
妹 「そうそう」
「お姉ちゃんには『風』を変える力があるからダメだって、」
「神楽さんが言ってたじゃない」
「まだ自覚がないんだから仕様が無いよ」
〈そこから更に300メートル程進むと、道幅が少し広くなる:前方に十字路〉
女の人「えーと、次は・・」
(右側の道路から赤い車が左折して来るのが見える)
妹 「神楽さんだ」
〈2台の車は近付き、互いに運転席のウィンドを開け:助手席に男性(25歳位)〉
神楽 「今日はこれで お仕舞いです。お二人とも、お疲れ様でした」
妹 「えっ、まだ治まってない風があるみたいだけど」
神楽 「そちらの車にお邪魔しても宜しいですか?」「詳しくお話します」
女の人「はい。私も聞きたい事があるし」
〈神楽は車を少し前に出し、2台の車は すれ違う〉
「後をお願いします」
神楽は男性に一言声を掛けると、車を降りて、姉の後ろの席に座る。
代わって運転席には男性が座り、すぐにその場から走り去った。
神楽 「此の間、食事をご馳走する約束をしましたね」
「今から向かえば お昼頃に着くと思います」
妹 「わあ、楽しみぃ。お姉ちゃん、早く行こ」
女の人「では、お言葉に甘えまして・・」(姉は妹の頬を指でつついている)
〈姉は車を発進させて〉
「ところで、車のライトって何の合図なんですか?」
神楽 「いいえ、特に何かを決めている訳ではありません」
「私達は、グループが異なるメンバー同士での やり取りは殆ど行いませんし、」
「なるべく私が直接会って話すようにしています」
「ですから、その場で情報となる物を活用して、自ら行動するようにして下さい」
「これは お互いの身を守る為にも必要な事です」
「それに、私達は全員、『風』を纏っていますから、」
「近くに来れば すぐに分かります」
………15分後………
妹 「あっ、風が治まったよ」
神楽 「上手く行きましたね」「お二人のお蔭で早く終わりました」
「『風』は自然に起こる時もありますが、今回は人為的で悪意の有るものです」
女の人「どうして、そんな事をするんでしょうか?」
神楽 「風が吹けば人が動き、物が動く」
「自らが欲するモノの為に風を起こそうとする者は大勢います」
「勿論、本人が気付かないうちに力を使っている場合もありますけど・・」
「あなたの場合はどうでしたか?」
「今までに欲しいと思った物は、何でも手に入りましたか?」
女の人「えっ?、私?」
「・・・」
「そうだったんだ・・」「私、自分では運が良いんだとばかり思ってた・・」
神楽 「あなたの力の多くは まだ眠ったままですが、」
「磨けば かなり大きな風を起こせるようになるでしょう」
「どうです?私達と行動を共にしませんか?」
「私達は、あなたが望むモノを提供したり、お手伝いする事もできますよ」
女の人「・・今日は妹が心配だから参加しただけなのに」
「妹の真似じゃないけど、これは運命なのかも知れませんね」
………都内にあるホテル………
3人はエレベーターで最上階に昇り、レストランに入る。
(各テーブルは波形の衝立で仕切られていて、他の客を見る事は出来ない)
ウェイトレスに外の景色が見えるテーブルへ案内され、姉妹は景色を望む席に座る。
女の人「感じの良いレストランですね」
神楽 「はい」
3人が御絞りで手を拭き終えた頃、漆器に盛られた料理が運ばれて来た。
(器には、一口サイズの料理が8個載っている:和風料理)
神楽 「それでは・・」
〈神楽が手を合わせる。姉妹もそれを見て手を合わせる〉
3人 「頂きます」
〈姉は試しに左端にある料理を1つ食べてみた:今までに食べた事の無い味がする〉
妹 「何だろう。おいしいよ、コレ」(妹のテンションが上がる)
神楽 「気に入って貰えて嬉しいです」
女の人「これも神楽さん達の力なんですか?」
神楽 「はい」「でも、秘密です」
妹 「こんなのが食べられるんだったら、みんな仲間に入りたいって思うんじゃない?」
神楽 「そう簡単だといいんですけどね」
女の人「神楽さんは、どうやって仲間を集めてるんですか?」
妹 「私も聞きたぁい」
神楽 「そうですねえ」
「一例を挙げると、『相手が私達の存在に気付く』という事でしょうか」
「私達は、要人や特別な才能・能力の持ち主を ある程度把握しています」
「その人達が社会に貢献している、又はこれからすると判断した場合、」
「悪い風から守ったり、その人が望む物を遠回しに提供したりします」
「勿論、此方から見返りは求めませんし、相手が全く気付かなくても構いません」
「私達の行いは、そういった事の積み重ねなのです」
〈3人が最初の料理を食べ終わると、次は碗に入った料理が運ばれて来る〉
女の人「1つ聞いてもいいですか?」
神楽 「はい」
女の人「妹の願いって、きっと無茶な願いだと思うんですけど、」
「本当に叶うんでしょうか?」
神楽 「ええ、宝くじを当てるほうが遥かに簡単なくらい無茶ですよ」
「ただ私の勘では、『可能性がある』とだけ言っておきます」
その後も少しずつ料理が運ばれ、
3人は会話を楽しみながら、やがて食事会は お開きとなった。
………ホテルの駐車場………
姉妹 「神楽さん、さようなら」
神楽 「さようなら」
神楽は姉妹の車を見送ると、
近くに停めてある赤い車に乗り込み、(助手席に先程の男性)
神楽 「本部に戻りましょう」
男性 「了解しました」
………姉の車(帰り道)………
妹 「ねえ、お姉ちゃん。私達これからどうなると思う?」
女の人「うーん、どうなるんだろうね」