第23話
第23話
女の人「そう・・。なら良いけどね」
「さてと、折角だから何か買い物して帰ろっか」
妹 「そうだね」
姉妹は食料品売り場へ行く。
妹がカゴを持ち、パンコーナーを見て回っていると、
隣のアイスコーナーでカートを押す夫婦が目に留まった。
(お互い27歳位。妻がカートを押し、上下のカゴの8分目まで食品が詰まっている)
程無く、夫が目の前のアイスクリームを指差して、
妻の顔を見ながら何かを言い始めた。(プレートには『特価』の文字)
すると、妻が一言喋り、夫が『あっ、そうかっ』と納得して そのまま通り過ぎてしまう。
妹 「お姉ちゃん。今の夫婦が気になるの?」
女の人「ちょっとね」
「朱雪さんと角星さんが結婚したら、きっとあんな感じになるんだろうなぁって」
妹 「ええっ、朱雪さん そんなんじゃないよぉ」
女の人「そう?」
「朱雪さんって、一見ズレてるように見えるけど、本質を捉えてると思うんだ」
「朱雪さん、間が飛んでるだけなんだよ」
妹 「そうかなぁ」
………姉の車(帰り道)………
妹 「ねえ、お姉ちゃん。一つ聞いていい?」
女の人「何?」
妹 「『最小単位』って、どういう意味?」「何となくは分かるんだけど・・」
女の人「最小単位はどんな『物』にも必ず有る物で、」
「それ以上分ける事が出来ないモノだよ」
「『概念』や『考え方』にだって、最小単位は有るからね」
「例えば、大きな岩があって、人の力では動かせないとするでしょ?」
「でも、岩の下が砂地で、その砂が動かせるなら、その砂一粒が最小単位だよ」
「物事をどんな風に切り取って見ているか、って事が特に重要だからね」
妹 「・・・」
「私、何時も思うんだけど、」
「お姉ちゃんに分からない事聞くと、余計に分からなくなるよね」
………玄関:姉が先に入り、スーパーの袋を持った妹が後から入る………
女の人「ただいま」
母親 「お帰りなさい」
妹 「お母さん、ただいま」
女の人「お父さんに掛けられた『蹉跌』は私達2人で無効化したから、お母さん安心して」
妹 「ちょっと、お姉ちゃん!」
女の人「ねえ、お母さん。『力』を隠す技、私達に教えてよっ」
母親 「いいですよ」
妹 「ええっつ!」
………リビング:母親と姉妹がテーブルを挟み、椅子とソファーに座っている………
母親 「まずは・・」
〈母親が口を開くと、母親から『風』が少し起きる〉
妹 「お母さんも風を纏ってたんだね」
母親 「これは『隠』と言って、母さんの一番得意な技なの」
「対象を包み込む感じをイメージしてみて」
「『隠』は『沈黙』の派生で、」
「『虚栄』を跳ね返す事も出来るから、追尾から逃れる時にも有効よ」
女の人「お母さん、こう?」(姉から風が完全に無くなる)
妹 「お姉ちゃん早っ」
母親 「はい。相変わらず呑込みが早いですね」
「一般にAクラスから使える技という事になっているけど、」
「隠したい『力』のレベルが高ければ、それだけ力の消費も多くなるから、」
「実質Sクラスの技ね」
「そうそう、」
「あなた達が会話中に何時も起こしてる『風』も、『隠』の一種なんだよ」
妹 「わぁ、バレてたよ、お姉ちゃん・・」
女の人「ふふっ、そうだね」
「あと、」
「今までは風と気配を意識して消そうとしてたから、完全には消せなかったけど、」
「これを使えば私が能力者だとは簡単には気付かれないよね」
妹 「ねえ、お母さん。これは、自分の意思や意識も隠せるの?」
「例えば、『操作』が使えるテレパスと戦う時とか」
母親 「ええ。出来ますよ」「但し、基本をマスターしてないとダメよ」
「あなた達にも先生が居るでしょ?」
妹 「うん。すっごい人達が居るよ」
女の人「ところで、お母さん」
「どうしてお父さんの『蹉跌』を自分で無効化しなかったの?」
妹 「そうだよ」
母親 「母さんね、あなた達 二人を産む時、自分の力を2つに分けたんだよ」
「母さんは自分の見た未来を信じてるからね」
「例えそれが、他の人達が見た未来と戦う結果になっても」
「だから、」
「あなた達ほどの力はもう残ってないし、使った力は すぐに回復もしないのよ」
姉妹 「・・・」(姉妹は無言のまま顔を見合わせる)
………昼食後:妹の部屋:中央の敷物の上で正座している妹………
「さてと、」
「『隠』の初歩は何とか出来るようになったから、『移流』の練習をしなくちゃね」
【・・そう。気持ちをリセットして、もう一度最初から・・】
〈妹は目を閉じて、意識を集中させる〉
【・・まず、自分の体の中から体の表面へ】
【そして、表面から周りへ】
【『力』が流れに乗って、壁を作り、循環するイメージ・・】
………姉の部屋:椅子に座って紅茶を飲みながら考え事をしている姉………
【・・うーん。私が知らない事って、まだまだ沢山あるんだぁ・・】
【きっと、世の中には『隠』が至る所に使われていて、】
【限られた人にしか本当の姿は見えないようになってる】
〈姉は人差し指を立てて、ビー玉位の光玉を出す〉
【・・『隠』を見破る力、『明』・・】
数秒後、光玉は次第に透明になりながら巨大化し、部屋全体に広がる。
すると、部屋に飾られている5枚の絵画全てが光を帯び始めた。
姉は立ち上がって、壁に掛けられている一枚の絵を手にし、
【私がこの絵を部屋に飾った理由は、】
【芸術性も然る事乍ら、この絵から『何か』を感じ取ったから】
【あの時は分からなかったけど、私はこの絵に隠された『力』に惹かれてたんだね】
【『補佑』に『整流』。どれも心地よくて、何時も私を和ませる・・】
「そうだっ、これを使えば良いんだよっ!」
………午後8時:神楽の支部:応接室:神楽と御影………
神楽 「御影さん。来週の日曜、あの二人を参加させようと思います」
「不測の事態に備えて、十分なフォローをお願いしますね」
御影 「新たな未来をご覧になったのですか?」
神楽 「とても良い方向に動いていますよ」
御影 「はい」「承知致しました」
<別の時間:鈴音>
とあるビルの空室。広さ70平米。(7.2×9.6メートル)
入り口から10メートル離れた窓辺に鈴音が独り。
(服装も雰囲気も、美術館に居た時とは まるで別人)
鈴音が視線を窓の外から扉に向けると、誰かが部屋へ入ってくる。
鈴音 「あら、意外に早かったわね。ちょっとは期待してもいいかな?」
〈入って来たのは男性:30歳位で長髪〉
男性 「神代の悪行を止められるのは、我々霹靂神だけ」
「好き勝手が出来るのも今のうちだ」
鈴音 「ふふふ。じゃあ、止めてみてよ」
〈鈴音は男性に向かって2メートル程歩く〉
「ねえ、私とゲームしない?」
「私に勝つ事が出来たら、私を好きにしていいわよ?」
男性 「『隠』か・・。しかし、容易い」
男性は右手の人差し指を立て、指先から光玉(ビー玉)を出す。
(光玉は次第に大きくなり、数秒で部屋全体を覆う)
程無く、床一面80センチ四方のマスに区切られ、
光で作られた『市松模様』が浮かび上がった。(9×12マス)
鈴音 「『パリティ・フィールド』って言うの」
「私の所まで無事に来られたら、あなたの勝ちでどうかしら?」
しかし男性は無言のまま一歩も動かず、3秒ほど目を閉じた後、
指先から光玉を鈴音に飛ばした。(時速20キロ)
男性 「その手には乗らない」
〈だが、光玉が鈴音まで1メートルの所に来ると、見えない壁に当たり一瞬で消滅〉
鈴音 「あら、ダメよ。ルールはちゃんと、守らなきゃね」
鈴音が右手の人差し指を立てると、
指先から光玉が男性に向かって飛んで行く。(時速7.5キロ)
(それを見た男性はすぐに構え、光玉から逃れるように部屋の中を走って移動)
2秒後。
何故か男性は突然動きが鈍くなり、片膝を突いて、遂には動かなくなってしまう。
そして、光玉が弧を描いて男性の背中へヒット。
「はい。ゲームオーバー」
5秒後。男性に入っていった光玉が体から出て、
七色に輝きながら ゆっくりと鈴音の方へ飛んで行く。
(男性は意識を失い、その場に倒れ込んだ)
鈴音は光玉を胸に取り込むと、急に穏やかな感じになり、
「ふふふ。今日の獲物はAAAってとこね・・」
「嗚呼、私を満たしてくれる王子様。早く現れないかなぁ」