第22話
第22話
〈神楽が席に座り、妹の目をじっと見る〉
妹 「私、あれから毎日『移流』の練習をしてるのに、ちっとも上手く出来ないんです」
「やっぱり、努力が足りないんでしょうか?」
「私、自分では凄く頑張ってると思うんです」
神楽 「『頑張ってる』・・ですか。貴女は『頑張る』とは何か、を知っていますか?」
妹 【・・やっぱり私、怒られるんだ。でも・・】
〈妹は無言のまま、神楽を見つめる〉
神楽 「自分で自分を知るのは難しい事です」
「自分の基準で自らを判断し、」
「『自分は頑張っているのだから、何時かは結果が出るだろう』と、」
「安易に考えてしまう者も少なくありません」
「しかし、その様な考えを持つ者は、」
「例え寿命が1000年あったとしても、結果に結び付く事はないのです」
「及ばぬ力を幾ら出そうとも何も変わりはしません」
「何故なら、物事が変化するには、『最小単位』を上回る『力』が必要だからです」
「単に『努力』や『頑張る』という言葉を自分に使う人は、」
「自分を把握出来ていない人」
「以前、貴女が『強くなりたい』と言った時、」
「私は『自分の中での変化を知る事から始めては如何?』と答えました」
「貴女は私の話を理解し、実行に移しましたか?」
妹 「・・はい」
神楽 「本当にそうですか?」
「貴女は自分に無理を強いる事を『頑張り』だと思い込んでいませんか?」
「『自分には無限の可能性がある』と考えているのかも知れませんが、」
「自分もまた、『有限』です」
「時には『休み』、時には『走る』。人は何時も歩ける訳ではありません」
「『力』を出せる状態にない人に『頑張れ』と励ましても逆効果なのと同じで、」
「貴女はそれを、自分自身に行おうとしている」
「一度、気持ちをリセットして、」
「自分に何が出来るのか、自分はどんな変化を起こせるのかを考えてみて下さい」
妹 「・・分かりました」
神楽 「どうです?」「頑張れそうですか?」
妹 「はい。神楽さん」
………姉:神楽が部屋に戻ってくる………
神楽 「お待たせしました」
〈姉は立ち上がり、神楽の前へ〉
「今日は助かりました」
女の人「いいえ、私こそ」
神楽 「妹さんが部屋の外でお待ちです」
「そうそう」
〈神楽は耳打ちするように〉
「今日は寄り道して帰ったほうが良いですよっ」
女の人「はい、そうします」
〈姉は扉の前まで行き〉
「失礼します」
………部屋の外:すぐに妹が近付いて来る………
妹 「お姉ちゃん・・」
女の人「話は車の中でっ」
姉は、廊下やエレベーターでも口を閉ざしたまま駐車場へ向かう。
………駐車場:車を発進させる………
女の人「お父さん、『蹉跌』を受けたんだね」
「一応 無効化はしておいたけど、大きな反動を貰ったから寄り道して帰るよっ」
妹 「えっ、お父さんに会ったの?」「『蹉跌』って、私、全然気付かなかったよ?」
女の人「きっと、『力』を隠す技があるんだよ。神楽さんはそれを教えたかったんだ」
〈3分後、路地に入る〉
妹 「わざわざ こんな所に入らなくても・・」
女の人「この状態だと、何処に居ても同じだからね」「あとは、自分の勘に頼るしかない」
………2分後:十字路………
(くの字になっていて先が見えず、左右の道は乗用車がやっと通れる幅)
正面に白の軽自動車(35歳位の女性)、
左からは茶色の軽自動車(25歳位の女性)の3台が出会い、停車する。
(左側の女性は、左を向いている)
女の人「私の道が優先なのかなぁ?」
〈姉がブレーキから足を離してアクセルを踏もうとした瞬間、左の車が動き出した〉
「わっ!」
〈運転者の女性は左を向いたまま、会釈して直進〉
〈幸い、左の車の加速が早く、何事も無かったかのように正面の車とも すれ違う〉
妹 「もぉ、お姉ちゃん!」
女の人「わあ、まるで吸い寄せられてるみたいだよ。お父さん よく無事だったね」
姉はそのまま進み、正面の2車線の道路へ右折して出る。(信号の無い脇道から道路へ)
目の前の信号は赤。
スクーターが一台止まっていて、
ハーフヘルメットを被った男性(35歳位で裸眼)が乗っている。
1分後。信号が変わり、姉が交差点を通過すると、
15メートル先の脇道から白の乗用車が左折して来て、スクーターの前に出た。
妹 「また何か起こりそうだね」
女の人「そうだね」
1分後。
乗用車が突然ハザードランプを点灯させ、減速する。(左側にラーメン屋の店舗がある)
姉はブレーキを踏み、右側から追い抜こうとする。スクーターは左側へ。
ところが、スクーターが乗用車の真横に来た瞬間、
乗用車が大きく左にハンドルを切り、接触しそうになる。
妹 「あっ!」
しかし、スクーターは機敏にかわし、かなり左に逸れながら道路に戻ってきた。
(乗用車はハザードランプを点灯させたまま、ラーメン屋の駐車場に入る)
女の人「危なかったね」
妹 「お姉ちゃん、他人を巻き込むのは良くないよぉ」
「近くのスーパーにでも寄ったほうがいいんじゃない?」
女の人「そうしよっか」
………10分後:大型スーパー(土日は9時30分開店)駐車場(平地)………
姉妹が車を降りて、入り口へ向かうと、
前方にカート11台を押している男性従業員の後姿が目に入る。
(カートの上に買い物カゴも載せている)
入り口付近の地面にはブロックタイルが敷き詰められていて、
従業員が音を立てながら数メートル進むと、
載っているカゴ(横に連ねた状態)がズレ、順番に半回転しながら次々と地面に落ちた。
姉妹は一瞬顔を見合わせるが、そのまま無言で横を通り過ぎ、店内へ。
………店内………
入ってすぐの所には雑貨のコーナー。
右に目を向けると、少し広めの空間があり、その先に飲食コーナーが見える。
数秒後、姉が視線を戻すと、
左から女性(60歳位)が前を横切って、飲食コーナーへ向かうところだった。
姉妹は何故か その女性を目で追う。
すると、飲食コーナーから男性(60歳位)が現れ、
その女性と距離5メートルの地点で何かを言い出した。
どうやら、夫婦で待ち合わせをしていたらしく、
どちらかが場所を間違えて口論になっている。(夫婦は5メートルの距離を保ったまま)
妹 「お姉ちゃん、行こ」
女の人「そうだね」
姉妹が左の方向へ少し進むと、
エスカレーター脇の自動販売機(紙コップ式)が視界に入った。
妹 「何か買ってみない?」
女の人「じゃあ、どれにする?」
妹 「ココアなんてどう?」
姉は自販機に百円玉を入れ、『ホットココア』のボタンを押す。
そして返却口からお釣りを取り、
ランプが点くまで10秒程待った後、コップを取り出した。
女の人「ああ、やっぱりだよ」
〈コップの中を見ると、ペースト状になった砂糖が底に溜まっているだけだった〉
妹 「もう殆ど呪いの域だね」
女の人「どうしよう。ちっとも収まる気配がないよ」
妹 「どうやら、私の出番かな?」
女の人「えっ?」
妹 「『流れ』って、こういう事じゃない?」
〈妹は目を閉じて人差し指を立てる〉
〈2秒後、ビー玉より少し小さい光玉が現れた〉
「コレ、使ってみて?」
女の人「これって・・」
〈姉が右手の人差し指で妹の指先に触れる〉
〈その直後、姉を中心に『風』が起こった〉
妹 「思った通り、上手く行ったみたいだね」
「ふふっ。私、反動を無効化できるんだっ」
「私、この力があれば神代と戦えるよ、お姉ちゃん!」
女の人「・・・」(姉は妹の額に人差し指を当てる)
「調子に乗らないのっ」
妹 「分かってるって。能力も、才能も、そして自分自身も有限なんだよね」