第20話
第20話
………土曜日:朝:洗面所から出る姉と、パジャマ姿の妹………
妹 「お姉ちゃん、おはよう」
女の人「おはよう」
〈姉妹がすれ違う〉
「・・今日もダメだね」
〈姉は振り返って、硬直している妹に触れる〉
妹 「うー」
女の人「壁なんじゃない?」
〈姉妹が向き合う〉
妹 「私、毎日頑張ってるのになぁ・・」
「今日は御影さんの訓練があるのに、これじゃあ先に進めないよぉ」
〈姉は妹の様子を見て、1秒ほど目を閉じる〉
女の人「うーん。やっぱり、やり方に無理があるよ」
「ねえ、風雅って人に会ってから・・」
妹 「お姉ちゃんは黙ってて!」
………午前9時:姉妹が玄関を出ると、黒い車が止まる(助手席に朱雪)………
姉妹 「おはようございます」
御影 「おはようございます」
朱雪 「おはようございますぅ」
御影 「お二人とも、後ろに乗って下さい」
〈姉妹が乗り込み、御影は車を発進させる〉
「今日の訓練は・・」
女の人「すいません、ちょっと妹の事で・・」
妹 「お姉ちゃん!」
御影 「・・・」
「今日は妹さんの風が少し乱れているようです」
「回復するまで訓練を中止したほうが良いでしょう」
妹 「そんなぁ」
女の人「ほらほら・・」(姉は肘で妹を押す)
妹 「・・・」
「御影さん実は・・」
………(会話の途中から)………
妹 「私、構える時間があれば大抵の攻撃は防げるようになったと思うんです」
「でも ほんの一瞬、一瞬だったのに、私それが悔しくて・・」
御影 「此の間、『移流』のコツを教えました。出来るようになりましたか?」
妹 「それが・・」
御影 「では同じ事です」
妹 「・・・」
御影 「風雅は私の友人です」
「クラスはSS。現在、私の姉に代わって霹靂神の支部を任されています」
朱雪 「風雅様は『停止』が得意でぇ、」
「テニスコート位の範囲なら何人でも動きを止められますぅ」
女の人「風雅さんって、」
「わざわざ自分の能力を見せる位なんだから、悪い人じゃないですよね?」
御影 「はい」
「恐らく、」
「自分の采配一つで貴女方を監視する事も可能だと言いたかったのでしょう」
妹 「御影さん、神楽と霹靂神って、どうして戦ってるんですか?」
「お互い協力して神代を倒せばいいのに」
御影 「それは考え方の違いです」
「神楽の理は、」
「『善は悪をも凌ぐ悪、故に悪を征するのは善のみ』として霹靂神と戦っています」
妹 「えっ?」
女の人「それが『三竦み』の関係なんですね」
御影 「はい」
妹 「うーん。良く分からないけど、朱雪さんも同じ考えなんですか?」
朱雪 「神楽様は、従うのも従わないのも私達に任せると仰いました」
「霹靂神様はお優しい方で、戦いも善行も私達に任せると仰いました」
「お二方の考えは どちらも正しくて、とても素晴らしいと思いますぅ」
妹 「朱雪さん・・」(少し呆れた感じで)
………午前10時前:とあるショッピングセンター:駐車場………
御影 「今日の訓練は、予定を少し変更します」
〈4人は車を降り、御影を先頭に施設内のゲームセンターへ移動〉
妹 「えっ、ここ?」
………店内:エアホッケー(2台)………
御影 「ここで、『力』を素早く切り替える訓練を行います」
「『同属性・逆属性・異属性』を瞬間的に判断し、」
「攻撃と防御を上手く使い分ける事が出来れば合格です」
妹 「じゃあ、Aクラスの試験なんですか?」
御影 「はい」
「使用してよい能力は『蹉跌・誘導・沈黙・補佑・整流・貸与』の6つ」
「朱雪から1点でも取れれば、貴女方を神楽の主力メンバーとして認めます」
「・・・」(御影は1秒程 目を閉じ)
「始めて下さい」
〈朱雪は台にお金を入れ、妹が位置に着く〉
妹 【目を閉じて意識を集中しないと力が半減しちゃうけど、何とかなるかな?】
朱雪 「行きますよぉ」
妹 「あっ、はい」
〈妹は目を開けたまま『力』を使う〉
〈『マレット』を持つ手が少し光り、朱雪が打った『パック』を素早く打ち返す〉
「あれっ?」
〈妹は急に動きが鈍くなり、あっさりとゴールを奪われてしまう〉
「おっかしいなぁ」
〈妹は下からパックを取り出すと、すぐに目を閉じて力を溜める:1秒〉
〈しかし、打ち出したパックは朱雪に難無く返され、またゴールを奪われる〉
朱雪 「無理に返そうとせずに、まずは『流れ』を読むんですよっ」
妹 「これ、難しい・・」
………3分後:『0-7』で朱雪の勝利………
妹 「うー」
女の人「次は私の番だね」
〈妹と姉が交代する。朱雪は台にお金を入れ、二人が向き合う〉
朱雪 「行きますよぉ」
女の人「お願いします」
〈姉は、見た目 妹の時と同じようにパックを打ち返すが〉
朱雪 「わ、わわっ」
〈今度は逆に朱雪の動きが鈍くなり、あっさりとゴール〉
〈まるで立場が逆転したかのように次々と姉の攻撃が決まる〉
「はうぅ、強すぎますぅ」
………2分後:『7-0』で姉の勝利………
朱雪 「御影様ぁ、負けちゃいましたぁ」
御影 「朱雪、何事も経験です」
女の人「御影さん、私と勝負しませんか?」
御影 「・・はい」「構いません」
………御影と姉………
〈朱雪は台にお金を入れ、御影と姉が向き合う〉
御影 「宜しくお願いします」
女の人「こちらこそ」
〈先手は姉。マレットを持つ手が少し輝き、パックが光を放ちながら御影に向かう〉
〈御影は顔色一つ変えずに打ち返し、ラリーが20秒程続く〉
「あっ」
〈御影の攻撃が決まる〉
〈姉は下からパックを取り出すと、目を閉じて大きく息を吐いた〉
女の人「やっぱり強いですね」
御影 「はい」
〈次のラリーから30秒後〉
「えっ!?」
〈今度は御影がゴールを奪われる〉
女の人「御影さんにも癖があるんですね」
〈御影は何も言わずにパックを取り出すと、急に目付きが変わった〉
御影 「行きます」
〈御影の持つマレットが少し輝き、激しい攻防が開始される〉
〈パックが打ち返される度に『風』が起こり、発せられた光が微妙に変化する〉
女の人【・・御影さんって、こんなに強いのに、まだ力を隠してる気がする・・】
………開始から10分後………
最後に姉がゴールを決めて『5-5』の引き分け。
(妹と朱雪は黙って立ったまま、呆然としている)
御影 「貴女に大事な話があります」「場所を変えましょう」
女の人「えっ?、はい」
〈2人は建物の外へ〉
御影 「突然で恐縮ですが、9月30日、貴女に是非会って頂きたい方が居られます」
「都合をつけて頂けませんか?」
女の人「えーと、9月30日ですね」(姉はポケットから手帳を出して確認する)
「はい。分かりました」
御影 「申し訳ありません。詳しくは23日にお話します」
………黒い車(帰り道)………
妹 「あぁ、腕が疲れちゃったよぉ」
朱雪 「私もですぅ」
女の人「Aクラスになれたんだから、それくらい我慢しなくちゃね」
妹 「お姉ちゃんはいいよね。『移流』も1日で使えるようになったんだし」
「私も早くマスターしないと・・」
御影 「『移流』はSクラスの技です」
「能力者の中には、特別な訓練無しに扱えるようになる者も居ますが、」
「習得には長い年月が必要です」
妹 「そうなんだ。じゃあ朱雪さんは・・」
朱雪 「修行中ですぅ」
「『壁』は何とか作れますけどぉ、」
「遅くしたり、レベル5以上の攻撃は私の『移流』では防げないんですぅ」
………家の前………
姉妹 「御影さん、朱雪さん、さようなら」
御影 「さようなら」
朱雪 「またお会いしましょうね」
〈姉妹は玄関の戸を開け、中へ〉
妹 「まさか、お姉ちゃんが御影さんと引き分けるなんて・・」
女の人「日頃から鍛錬に励んでるからね。努力の賜物だよ」
妹 「嘘ぉ、お姉ちゃん絶対努力なんてしてないと思う」
「やっぱり、人生って不公平だよっ」
<別の時間:御影と朱雪>
朱雪 「御影様ぁ、さっきから黙ったままですよぉ」
御影 「神楽様に大事な報告があります」
「霹靂神・神楽・神代、この三者の関係は今、大きく変わろうとしています」
朱雪 「そうですよね。今日は私も驚きましたぁ」
「御影様の目が とっても怖かったですぅ」
御影 「その点に付いては私も反省しています」
「自分は今まで驕っていたのだと目が醒める思いです」
………午後1時前:昼食後:玄関で靴を履く妹………
女の人「ホントに独りで出掛けるの?」
妹 「だって、お姉ちゃんと私じゃレベルが違うんだもん」
「子供の頃、お父さんがよく言ってたよね」
「『人と同じ事をしてたら、何時まで経っても人と同じ』だって」
「私、このままじゃいけないと思うんだ」
女の人「そう。それも良いかも知れないね」
「でも、お父さんの話はそれだけじゃなかったでしょ?」
妹 「・・・」
女の人「いってらっしゃい」
………午後2時過ぎ:美術館に入る妹………
【・・何故か此処に来ちゃうんだよね。お姉ちゃんのバカ・・】
………館内………
10分後。妹は ある風景画を見ている女性に興味を示す。
妹は引き寄せられるように女性の隣へ行き、女性と共に絵画を見つめる。
(22歳位で髪が長く、美人)
妹 「不思議な絵ですよね」
女性 「はい。魂が込められていて、私のお気に入りなんですよっ」
「あなたもこの絵が好きなんですか?」
妹 「私、人が時間を掛けて作った物に興味があるんです」
「それは絵画でも、小説でも、マンガでもいい」
「どうしてこんな事を思い付けて、」
「どうしてこんな表現が出来るんだろうって思える物、」
「そういう物に惹かれるんです」
女性 「ふふふ。そうですよね」
「あっ、私、『鈴音』って言うんです」
「気分がすぐれない時や心にモヤモヤがある時とか、」
「気付いたら此処に居たりするんですよっ」
妹 「ふふっ、それ、私もです」
〈妹と鈴音は二人で絵画を見て回る〉
鈴音 「私は、美術館って平等だと思うんです」
「美術品の中には もの凄く高価な物や、人前に出てこない物が沢山ありますよね」
「美術館は人々に分け隔てなく機会を与え、」
「価値のある物を分配して心を豊かにさせる」
「素晴らしい事だと思いませんか?」
妹 「そう・・なのかな。私、そんな風に考えた事無かったです」




