第2話
第2話
神楽 「申し遅れました。私は神楽と申します」
女の人「此の間 美術館に行った時の、赤い車の人だよ」
妹 「ふうん、そうなんだ。あの時は間一髪だったよね」
神楽 「私は悪しき風を感じ、その風を鎮めに赴いただけです」
「貴女方の事は何も知りませんでした」
「今日出会ったのも、全て『風の導き』なのです」
妹 「じゃあやっぱり、あの絵が手に入ったのも偶然じゃないんだっ」
神楽 「それは、オークションで入手したと仰った絵ですよね」
「私が拝見しても宜しいですか?」
女の人「はい。勿論です」
姉は神楽を客間へ案内する。(妹は絵を抱えたまま後を付いて行く)
………客間(洋風)フローリングの部屋に複数の絵画:中央に落札した絵………
神楽 「この絵には『魂』が込められていますね」
妹 「魂と言うか、秘められた何かを感じる絵だと思う」
女の人「うーん、私は、凄く綺麗な絵だなぁとは思うんですけど、」
「『魂』って、そんなのあるんですか?」
神楽 「そうですねえ。『何か』と『何か』を引き合わせる力を持った物、」
「と言ったほうが正しいのかも知れませんね」
「きっと、前の所有者は、」
「この絵が別の人の所へ行きたがっていると感じたのではないでしょうか」
女の人「それで私の所に来たと?」
妹 「だから運命なんだって、お姉ちゃん」
女の人「・・・」
妹 「あっ、そうだ。この絵」
「お姉ちゃんの部屋から、妙な気配を感じたから持って来たんだよ」
〈持っている絵を出す〉
神楽 「この絵には、『蹉跌』の力が付加されています」
「持ち主が自身の利益に関係する行いをすると、何か悪い事を起こそうとします」
女の人「それを消す事って出来るんですか?」
神楽 「はい。但し、消した時に反動があります」
「でも、既に力は弱まっていますから、些細な事しか起きないでしょう」
妹 「えっ、何か起きるの?」「見たい、見たいっ」
女の人「すいません。お願いします」(姉は妹の頬を指でつついている)
神楽 「分かりました」
神楽は静かに目を閉じ、顔から20センチ位の所に右手の人差し指を立てた。
数秒後、指先からビー玉位の『光の玉』が出現する。(※以降『光玉』と表現)
神楽が目を開けて、指先を絵に近付けると、
光玉が吸い込まれるように絵の中へ入って行った。
そして、絵画全体が一瞬光り、
絵の中からビーズ玉位の光玉が3つ現れて、神楽・姉・妹の胸元へ消えていく。
妹 「わあ、面白ーい。ねえねえ、これからどうなるの?」
神楽 「これから数時間以内に、私達に1回ずつ、」
「ちょっとした『アクシデント』が起こります」
「自分の周りに吹く『風』に少し変化があった事に気付きましたか?」
女の人「いいえ、私には何も・・」
妹 「何だろう、よく分かんない」
神楽 「大丈夫。貴女方なら、すぐに分かるようになりますよ」
女の人「ところで、もうすぐ お昼ですよね」
「お母さんが留守なので、外食にしようと思うんですが、一緒に如何ですか?」
妹 「お姉ちゃん、今日は回転寿司にしようよ」
神楽 「ええ、私は構いませんよ」
………家の前:3人が玄関から出てくる(ガレージには姉の車と赤い車)………
〈姉は玄関に鍵を掛け〉
「私が運転します。神楽さん乗って下さい」
………姉の車(妹は助手席、神楽は姉の後ろの席):ギアを『ドライブ』に入れる………
女の人「まだ、ルールが何か答えていませんでしたよね」
妹 「えっ?、何?何?」
〈神楽は姉に話した内容を もう一度話す〉
「それって多分、『何かを信じる』って事じゃない?」
神楽 「はい、そうです」
女の人「そうなの?」
神楽 「では、『信じる』とは どういう意味を表すのか、ご存知ですか?」
姉妹 「・・・」(姉妹は一瞬 顔を見合わせる)
神楽 「この世界で何かを得るには、必ず何かを払わなければなりません」
「この時、それは同時に行われると思われがちですが、」
「実際には、一瞬だけ遅れるのです」
「つまり、何も持てない時間が存在し、」
「それは全てを失う可能性がある事を示しています」
「言い換えれば、どんな人でも『何か』を信じなくては存在できないのと同時に、」
「どんな人でも、何かに『騙される』可能性があるという事」
「『信じる』とは、その先の話なのです」
「ですから、まずは『声』を聞いて下さい」
「自分の声、人の声、物の声、風の声」
「あなたの信じる物は何ですか?」「それが私達のルールです」
………回転寿司店:駐車場………
妹 「さあて、今日は いっぱい食べるぞぉ」
店に入ると、丁度 奥のテーブル席が空いたところで、3人はそこへ案内される。
神楽は壁側の席(レーンの皿が戻って行く所)に座り、向かいに姉妹が座った。
………10分後………
3人が雑談をしながら食事を楽しんでいると、
レーンの戻り口の所で皿が支え始めた。(神楽が居る位置から支え始める)
妹 「あっ」
神楽 「いいえ、何もしなくても大丈夫です」
「というより、何もしてはいけません」
〈姉妹は連なっていく皿をじっと見ている:神楽はお茶を飲んでいる〉
〈やがて、3メートル近くの長さに達した時、再び皿が流れ始めた〉
神楽 「ほらね」
妹 「私、違う事を期待しちゃったっ」
女の人「何事も無くて良かったですね」(姉は妹の頬を指でつついている)
神楽 「風の流れが分かるようになると、」
「自分もまた、その『流れ』に乗れるようになるんです」
………15分後:レジの前………
女の人「ここは私が払います」
神楽 「そうですか。では、次は私が御馳走しますよ」
姉は財布から1万円札を出し、女性店員(24歳位)に渡す。
店員が受け取った1万円札をレジにを入れると、お釣りの金額が表示された。(自動レジ)
でも、お釣りが出てこない。
店員 「おかしいですね。少々お待ち下さい」
〈店員はカウンターからマイクを取り出し〉
「店長、レジまでお願いします」
10秒後。女性店長(30歳位)が現れ、腰に下げた鍵でレジを開ける。
そして、店長と店員が小銭の束(100円×50枚と10円×50枚)を崩して、
お釣り(紙幣と硬貨)を渡してきた。(後ろには別の客が精算を待っている)
店長 「すいません。お待たせしました」
姉は店員から お釣りを受け取り、3人で店を出る。(妹・姉・神楽の順)
この時 姉は、神楽が扉から出るのを待って、後ろの客を確認すると、
レジは正常に作動して、ちゃんと お釣りが出ているようだった。
神楽 「今、何かを感じませんでしたか?」
女の人「うーん、よく分かりません」
妹 「最後は私だね」
「お姉ちゃん、夕飯の買い物をお母さんから頼まれてたよね。すぐに行こうよ」
………近くのスーパー:店内………
妹がカゴを持ち、3人で手際よく材料を集める。
………レジの前………
妹 「多分、ここが一番早いと思う」
妹は小父さん(52歳位)の後ろに並ぶ。(姉と神楽は反対側の袋を詰める台へ移動)
今、丁度 前の人の精算が終わったところで、
すぐに小父さんの番になった。(カゴには6点しか入っていない)
姉と神楽が反対側から妹の様子を見ていると、程無く小父さんのカゴが空になり、
女性店員が合計金額を言って、小父さんはポケットから2つ折の財布を取り出した。
そして、財布から千円札を1枚出し、
次に小銭を出そうとするが、何故か右手の上で財布を逆さまにしてしまう。
案の定、小銭の何枚かは右手から こぼれ落ち、そこらじゅうに散らばってしまった。
【これって、私のせい?】
しかし、小父さんは散らばった小銭を反射的に追い掛け、7秒程で殆どを回収。
少し離れた所にも小銭が転がって行ったが、
近くに居た小母さん(49歳位)が残りを拾って小父さんに渡した。
(妹と姉は、ただ その様子見ているだけ)
その後、レジを済ませた妹と、待っていた姉が一緒に袋詰めを行い、
全員無言のまま店を出ると、姉妹は、何かから逃れるように素早く車に乗り込んだ。
妹 「風というか、確かに何時もと違う何かは感じたけど・・」
「でもこれ、まるで私達が悪い事をしてるみたいじゃない?」
神楽 「3つのアクシデントは、いずれ別の時間で起こる出来事だったのですが、」
「私達がその流れを少し変えたのです」
女の人「そうなんですか?」
神楽 「災いを無くしたり、減らす事は容易ではありません」
「安易な行動は、直接自分自身に反動として返って来ますし、」
「逆に良い『流れ』を生み出す事が出来れば、得られる物も数多くあります」
「今日はそれを実感してみて、貴女方は どう思いましたか?」
「私達と共に、行動してみませんか?」
妹 「私はやってもいいかな。だって私は『偶然』なんて信じないから」
「これも『運命』なんだと思う」
女の人「私は、もう少し考えてみたい」
「私には まだ、分からない事や知らない事が多過ぎる・・」
神楽 「いいですよ。まずは自分自身の声を聞いてみて下さい」
「私は待ってますから」