第19話
第19話
女の人「・・卑弥呼は、利用されたんだと思う」
妹 「どういう事?」
女の人「まず、邪馬台国の場所だけど、北九州の一部」
「それも小さな勢力だったんじゃないかな」
妹 「ええっ、何でそうなるの?」
女の人「『魏志倭人伝』には かなり大きな規模だったと書かれているけど、」
「そこが問題なんだよ」
「日本は古くから大陸との争いが絶えなくて、」
「邪馬台国は日本遠征の一環だったと考えると辻褄が合うんじゃない?」
「現に南の狗奴国と対立してて、九州の大きささえも知る事が出来なかった」
「そして卑弥呼の死後、畿内を中心とする勢力に短期間で滅ぼされ、」
「邪馬台国の品々は戦利品として各地の権力者に分配された」
「『日本書紀』に記述が無いのは、小勢力だった事と、」
「その特異性が当時記録として残すべきではないと考えられたから」
「それで魏志倭人伝には失敗の記録として残ったんだと思う」
「卑弥呼はきっと、騙されたんだね」
妹 「何それっ!」「お姉ちゃんの話、出鱈目で すっごく つまんない!」
女の人「神楽さんは私の話、どう思います?」
神楽 「私からは何も話す事はありません」
「ただ、『問題と答えの関係』を考えるのには丁度良いかも知れませんね」
女の人「と、仰いますと?」
神楽 「これは、『問題』と『答え』は元々1つだったものが、」
「ある力によって分けられたのだとする考え方です」
「簡単に言うと、」
「作用した力を打消すだけの力を払う事が出来るなら、答えとして持つ状態になる」
「但し、この関係は一定ではないので、」
「支払った力に応じて答えが変化し、我々を迷わす事も導く事もあるでしょう」
「勿論、全ての問題が答えられる訳ではありませんから、」
「力の使い方によっては意図的に答えを隠す事も可能です」
「卑弥呼の話に限らず、我々の世界はそういった問題で溢れていますよね?」
「貴女方がこれから先、」
「大きな問題に直面したなら、一度考えてみては如何でしょうか」
………姉の車(帰り道)………
妹 「もぉ・・お姉ちゃん・・」
女の人「まあまあ」
妹 「・・・」
「ところでさあ、神楽さんの話、段々難しくなってくるね」
「『必然と偶然』、『問題と答えの関係』、何の事だかサッパリ分からないよ」
女の人「ふふっ、そうだね」「私達、期待されてるね」
………玄関(家の中)………
姉妹 「ただいま」
母親 「お帰りなさい」(41歳位で実年齢より若く見える)
女の人「お母さんが迎えてくれるなんて久し振りだね」
母親 「そんな事もありますよ」(明るく軽い感じで)
女の人「あっ、そうだ。最近お父さんの帰りが遅いけど、何かあったの?」
母親 「いいえ。お父さん、熱心な所があるから・・」
………次の日(9月1日)晴れ………
朝。洗面所から出る姉と、3メートル離れた所にいる制服姿の妹。
妹 「お姉ちゃん、おはよう」「負けないからね」
妹は何時ものように右手の甲(指先が光った状態)を姉に向け、
親指から順に光玉(ビー玉強)を次々に飛ばす。(時速10キロ)
しかし姉は、構える事も無く微動だにしない。
1秒後、光玉が姉の前(30センチ)に来ると、
まるで見えない壁があるかのように明るく光って消滅してしまう。
妹 「じゃあ、これは?」
小指からの5投目。
今度は姉の1メートル手前で減速し、姉の目の前で輝きながら消滅する。
女の人「まずは小手調べだね」
姉は右腕を肩の高さまで上げ、人差し指を妹に向けて、
光玉(ビー玉強)を3発連続で飛ばす。(0.5秒間隔、時速10キロ)
妹は、すぐに左手を胸の高さまで上げて拳を作ると、
拳が僅かに輝き、光玉が全て吸い込まれて行く。(この時、風がほんの少し起きる)
姉はその様子を確認すると、右手の人差し指を立てて目を閉じた。
妹も姉の仕草を見て、目を閉じ、両手の掌を顔に向ける。
3秒後。
姉妹は同時に目を開け、妹は光玉20発、(ビー玉強)
姉は光玉1発(ピンポン玉)を互いに飛ばし合った。(時速10キロ)
1秒後、妹は左手の拳で光玉を受け、風が少し起きる。一方姉は防御せずに全弾被弾。
ところが姉に変化は無く、ゆっくりと妹に向かって歩き、人差し指を妹の額に当てた。
(この間、妹は硬直したように動かない)
女の人「はい。私の勝ち」
妹 「えぇっ、引き分けだよぉ」
「お姉ちゃん、」
「『誘導』の派生である『停止』の方が『沈黙』より優位だって言いたいの?」
女の人「ううん。どうやら私、『沈黙』には耐性があるみたいなんだよ」
〈姉は人差し指の先から光玉(ビー玉)を出して見せた〉
「ほらね」
妹 「何それっ、お姉ちゃんズルばっかりじゃん」
………ダイニングキッチン………
テーブルに向かい合って座る姉妹。
キッチンには何時ものように母親が立ち、洗い物をしている。
妹の前にはトーストとジャム、姉の前には ご飯・味噌汁・焼き魚等が並ぶ。
姉妹 「頂きます」
女の人「今日は何時もと違う『風』が吹いてるね」
「誰かが起こしてる訳じゃないみたいだけど」
妹 「そうだね。何時もと違う何かが起きるのかも知れないね」
………20分後:玄関で姉が妹を送り出す………
妹 「じゃあ行ってくるね」
女の人「行ってらっしゃい」
「学校で使っちゃダメだよ」「・・一応ね」
………午前8時:姉が玄関を出ると、赤い車が止まる(神楽独り)………
神楽 「おはようございます」
女の人「おはようございます」
神楽 「今日の課題は、特にありません」「たまにはドライブも良いですよね」
女の人「そうですね」
〈姉が助手席に座ると、神楽は車を発進させる〉
神楽 「もうお気付きだとは思いますけど、貴女は最初からSクラスでした」
女の人「みたいですね」
神楽 「私は、貴女方に基本的な事から順に話すべきか迷いました」
「何故なら、『基本』となる『物』や『考え』は完全には特定できないからです」
「勿論、『基本が存在しない』と言っている訳ではありません」
「特定しようとすると、まるでそれを隠すかのように振舞う物が現れる」
女の人「それはつまり、『最小単位』の存在って事ですよね」
神楽 「はい」
女の人「私、子供の頃から、」
「基本問題よりも応用問題の方が得意だったので何となく分かります」
神楽 「そんな人・・、居ますよね」(神楽は嬉しそうな顔をする)
………30分後………
女の人「『風』ですよね」
神楽 「はい。私達の後方にターゲットが居ます」「将来有望な方です」
女の人「これも神楽さんの仕事なんですか?」
神楽 「世の中には、雨が降っているのに傘を差せない人も居ますよね」
「これは何時も行っている訳ではありませんが、」
「今日のような風の強い日にはメンバーが傘を差して廻るのです」
………午前11時前:とあるファーストフード店………
客がまばらの店内で、話し友達2人と早めの昼食を摂る妹。
(テーブルには、通路側から妹と友人A、対面に友人Bが座っている)
3人で雑談をしていると、突然 隣の友人Aが、
「ねえ、あの人」
〈妹は思わず、友人Aが見つめる先に目を向ける〉
女性 「なあんだ。こんな単純な手に引っ掛かっちゃうんだ」
(妹は体が硬直して動けない。それは友人2人も同じ)
「可愛いね」
〈女性は ゆっくりと歩いて妹の傍へ〉
「私の名は『風雅』」(20歳位で髪が短く、ツンとしてボーイッシュな感じ)
「自分では気を付けているつもりでも、」
「気を許した者が近くに居れば それも意味をなさない」
「良く、覚えておきなさい」
〈風雅は何もせず、そのまま店を出る〉
妹 「今の人・・」
友人A「えっ、何の話?」




