第14話
第14話
………次の日(8月27日)朝:洗面所から出る姉と、パジャマ姿の妹………
妹 「お姉ちゃん、覚悟ぉ」
〈姉に向かって ゆっくりと右手の拳を出す〉
女の人「はいはい。これで無効化」
〈右手の掌を妹の拳に当てる〉
〈1秒後、姉妹の周りに僅かな風が起こった〉
妹 「今日は最初だから、」
「お姉ちゃんに合わせて『蹉跌』にしたけど、明日からは本気で行くよぉ」
女の人「そうだね。私も早く、他の能力を使えるようにならないとね」
妹 「でも不思議だよ、」
「御影さんなら兎も角、お姉ちゃんの『補佑』は力を溜める必要がないなんて」
女の人「御影さんの話では、能力者の特性によって溜める時間が異なるのと、」
「力を受けた時の『耐性』にも個人差があるから過信しないように・・だったね」
妹 「そうそう。御影さんは実践的で、何でも知ってて、頼り甲斐があって・・」
女の人「はいはい」
………9時30分:姉妹が玄関を出ると、御影が運転する黒い車が止まる………
姉妹 「おはようございます」
御影 「おはようございます」「お二人とも、後ろに乗って下さい」
〈姉妹が車に乗る:姉は御影の後ろの席〉
「今日は、無効化の訓練です」
「今から行く場所で、」
「神代が建物内に仕掛けた『誘導』と『蹉跌』をお二人で無効化して下さい」
〈御影は車を発進させる〉
妹 「もしかして、此の間のスーパーじゃない?」
御影 「・・御存知でしたか」
「・・・」(御影は左手を軽く握り、口に当てる)
「では、1階と屋上をお願いします。私は、2階と3階を担当しますから」
姉妹 「はい」
〈暫く沈黙が続いた後〉
御影 「それでは、テレパシーについて お話しましょう」
妹 「待ってましたっ」
女の人「私も興味あります」
御影 「テレパシーは一般的に、」
「『言葉』や『感情』を直接相手に伝えるものと言われています」
「私の場合は、最初に聞こえたのが姉の言葉でした」
「一週間後には、他人の声も聞こえるようになったのですが、」
「厳密には言葉ではなく、感情に近いものでした」
「互いの波動が似ている程、詳細で直接的な伝達が可能で、」
「逆だと断片的な情報しか分かりません」
「そのため、長期間の訓練で相手の考えを推察する努力が必要になります」
妹 「すぐに習得できる方法ってないんですか?」
御影 「対象者の『フィードバック』があれば、」
「短期間での習得が可能になる場合もあります」
女の人「それって、『プロトコル』ですよね?」
御影 「そうとも言います」
妹 「・・・」(妹は姉の上腕を手で叩く)
女の人「昨日の行列は、どうして分かったんですか?」
御影 「実は、パスタ屋という情報を探ったのではなく、」
「何か変わった事や珍しい出来事が無いか、周辺の人々から聞き、」
「その中からパスタ屋に行列が出来ているとの情報を得たのです」
「逆に言うと、」
「人々の感情に変化がない物や、意味の無い単語の羅列等は難しいのです」
女の人「なるほど・・」
妹 「私、テレパシーが使えたらなぁって思うんですけど、やっぱりダメですか?」
御影 「はい」
女の人「あっ、そうだ」「神代と戦う方法」
「『アルゴリズム』を持ってるって事は、」
「その行動をチェックして、沢山集めれば見破れる確率が上がりますよね」
御影 「はい」「霹靂神では、神代のメンバーの何人かは解析済です」
妹 「凄い。それは御影さんが調べたんですか?」
御影 「私も含まれますが、霹靂神にはテレパスが複数居ます」
「それに、私の部下が大変優秀なのです」
………午前10時:大型スーパー:屋上の真ん中辺りに車を止める………
〈御影が目を閉じる:2秒〉
御影 「始めて下さい」
〈3人が車から降りる〉
女の人「私、1階から始めようと思うんだ」
妹 「じゃあ、ここが済んだら私も1階に行くね」
3人はバラバラの方向へ。
姉は中央のエレベーター、妹は駐車場の入り口、御影は奥のエスカレーター。
<姉:屋上のエレベーター前>
姉がガラス扉を開けて中に入る。エレベーターの前には誰も居ない。
【・・ここには『蹉跌』が仕掛けられている】
【能力者を『誘導』して、『蹉跌』で引っ掛けるパターンだね】
【あの時は、神楽さんが事前に無効化してくれてたんだ・・】
姉が右手を少し上げると、
指先から光玉(ビー玉)が出て、エレベーターの『ボタン』に入って行く。
1秒後。ボタンが一瞬光り、ボタンから光玉(ビーズ玉)が現れて、姉の胸元へ入った。
【この程度なら大丈夫・・かな?】
<妹:駐車場の入り口付近>
妹が目を閉じて人差し指を立てると、
2秒後に指先から光玉(ビー玉)が現れ、地面の中に入って行く。
1秒後。
周辺の地面が一瞬光り、地面から光玉(ビーズ玉)が出てきた。
妹は咄嗟に かわそうと体を捩るが、光玉は向きを変えて妹の背中に入ってしまう。
【・・あれっ、体が動かない・・】
〈5秒後〉
「びっくりしたぁ」
【私の『整流』、下手だったのかなぁ?】
【でも、気を取り直して次に行こう・・】
〈妹はエスカレーターがある場所へ行く〉
【・・ここにも『誘導』がある・・】
妹は同じ動作をする。今度は、出てきた光玉が左胸に入った。
【・・あっ、まただ・・】
「力が強すぎるんですよっ」
〈妹の後ろから女性(御影の運転手)が現れ、妹の正面に回る〉
女性 「『力』の中には、ぴったり合わせないと、」
「却って反動が大きくなるものもありますから、注意して下さい」
〈妹の硬直が解ける〉
妹 「あなたは御影さんの?」
女性 「はい、私は『朱雪』って言います」(軽い感じで)
「御影様を救って頂いて、ありがとうございましたぁ」
妹 「いいえ、気にしないで下さい」
朱雪 「ところでぇ、御影様の声を聞きたくないですかぁ?」
妹 「どういう事ですか?」
朱雪 「私が ある力を使うと、あなたにも御影様の声が聞こえるようになりますぅ」
「但し、あなたの声は届きませんし、」
「波動が違うので まず私が中継して調整を行う必要がありますけどぉ」
妹 「えーと、確かプロト・・」
朱雪 「はい、プロトコルです」
「やりますかぁ?」
妹 「・・はい。お願いします」
<姉:1階:食料品売り場:カゴを持って中へ>
【・・至る所に『誘導』が仕掛けられている】
【でも、私に『整流』なんて使えるのかなあ・・】
姉はパンコーナーへ。(菓子パンや食パンの袋詰めが棚に並んでいる)
前を見ると、ベビーカーを押す女性(30歳位)がカゴも持たずにパンを漁っていた。
女性は棚の奥にあるパンを1個ずつ取り出しては、
日付を確認する作業を延々と繰り返している。
姉が不審に思って近付くと、女性は棚の奥にあるパンを2つ取り、すぐにレジへ向かった。
【・・そうなんだ。私・・】
20分後。
姉は、カゴに食パン一斤と お菓子を2個入れた状態でレジへ向かう。
………レジ………
姉の前には、カゴ2つに大量の食品を入れた女性(35歳位)が1人。
レジの向こう側にいる男性2人(女性の家族)と話し込んでいる。
〈数分後〉
店員 「9343円です」
〈女性はバッグから長財布を取り出すと、何かを探し始めた〉
女性 「あれっ、何処行ったんだろ?」
〈女性はカードを一枚一枚取り出しては仕舞う作業を繰り返す〉
「前もって出しとけば良かった・・」
〈30秒後〉
「すいません、現金でもいいですか?」
女の人【・・これが、さっきの反動だよね?・・】
<妹:1階:入り口の外:右方向15メートル先の壁側に自動販売機が4台並んでいる>
妹が自販機の方向へ進むと、
向こうから背の低い小父さん(55歳位)が足早に近付いて来た。
小父さんは自販機の側まで来ると、
慣れた手付きで左手を返却口に入れ、次々と釣銭を確認する。(4台で僅か5秒の早技)
妹 【・・この人・・】
(小父さんは顔色ひとつ変えずに、妹とすれ違う)
妹は自販機の前に立ち、選んでいるフリをして『誘導』を無効化。
(4台目では実際にジュースを一本買う)
「これで良し・・っと」
<御影:3階の駐車場>
御影は駐車場を一回りしながら、
右手の指先から光玉を次々に飛ばす。(御影は溜める仕草をしない)
程無く、沢山の光玉(ビーズ玉)が御影の所へ一斉に集まって来た。
御影は慌てる様子もなく、左のポケットからピンクのハンカチを取り出すと、
まるで吸い込まれるように全ての光玉がハンカチの中へ入って行った。
<御影:2階>
御影は衣料品売り場や専門店を回る。
ここでも同じように、全ての光玉をハンカチに吸収させた。
………1階:トイレ前:姉と妹………
女の人「どう?」
妹 「もう、バッチリだよ」
「御影さんは もうとっくに終わってて、」
「『建物内の風は確認したから、車に戻りなさい』って言ってるよ」
女の人「何で分かるの?」
妹 「内緒」
〈姉妹は近くのエレベーターへ移動〉
女の人「意外に早く終わったね」
妹 「そうだね」




