第12話
第12話
御影 「分かりました」
「では最初に、『誘導』を私に見せて下さい」
御影は車を発進させる。
妹が目を閉じ、人差し指を立てて意識を集中させると、
2秒程で指先に光玉(ビー玉)が現れる。
妹 「これでどうですか?」
御影 「はい」「結構です。次は・・」
………(会話の途中から)………
妹 「・・っと、こんな感じです」
御影 「はい」「貴女の力なら申し分ありません」
妹 「御影さん、それじゃあ・・」
御影 「・・・」
御影は何も答えない。
そして、2人は無言のまま2分が過ぎ、『赤信号』で車は止まる。
御影 「恐れ入りますが、さっきのを『もう一度』私に見せて頂けませんか?」
妹 「えっ?」「はい、いいですよ」
妹は再び目を閉じると、人差し指を立て、意識を集中させる。
しかし、すぐに妹は目を開け、ゆっくりと腕を下ろした。
御影 「ごめんなさい・・」
………10分後:霹靂神の支部………
駐車場に車を止める。
御影が先に降り、妹がその後を付いて歩く。
2人は黙ったままエレベーターに乗ると、御影は10階を押した。
………10階:2人は、ある部屋の前に立ち、御影が扉をノックする………
閃緑 「どうぞ」
御影と妹が中に入ると、中央のテーブル前に閃緑が独り。
壁には大きな絵画(横幅2メートル半、『レンブラント:夜警』に似た絵)が掛けてあり、
豪華なソファーが置かれている。
閃緑 「その子、霹靂神に入りそうかい?」
御影 「いいえ」
閃緑 「だろうね」
「心が読めないと思ったら、この子はずっと、私達の気配と風を探ってたんだねえ」
御影 「・・はい」
閃緑 「御影、この子を隣の部屋へ」
「私が無力化させるから、御影は見ているだけでいいよ」
………隣の部屋:大きなダブルベッドが2つ:大きな窓に閉められたカーテン………
閃緑 「この子を寝かせて」
妹はベッドの左側に腰を下ろし、靴を脱いで仰向けになる。
そして、ゆっくりと目を閉じた。
閃緑 「おや、この子、自分の体に強力な『誘導』を掛けているね」
「レベルが低い能力者が触れると、」
「暫くの間 行動を迷わせる護身用の『トラップ』だねえ」
「・・それなら まず、『誘導』の無効化から始めようか」
閃緑は目を閉じて右手の人差し指を立てる。
次の瞬間、御影が閃緑の後ろから抱き付いた。
「姉さん、私は、もう耐えられなくなりました」
閃緑 「何を言い出すの?」「私達は一生・・」
妹が目を開ける。
ほぼ同時に、閃緑と御影がベッドへ倒れ込んでくる。
(妹は咄嗟に横に転がりながら、ベッドの右側へ)
閃緑と御影は抱き付いた状態のまま動かない。
(妹は左側へ移動して自分の靴を履き、暫く二人の様子を見ている)
………妹:深呼吸………
〈妹は気を落ち着かせて、真剣な顔をする〉
「これで御影さんは助かるよね」
妹は目を瞑り、人差し指を立てた。
1分後、指先に光玉(ビー玉強)が現れる。
………御影と閃緑(二人とも並んで横顔を向けている)………
妹の指先が御影の頭部へ近付き、光玉が御影の額に吸い込まれて行く。
3秒後。
御影の体全体から僅かな光が発せられると、御影は ゆっくりと目を開けた。
「ごめんなさいっ」「貴女を危険な目に遭わせてしまいました」
妹 「ううん。私が勝手にやった事だから、気にしないで」
(閃緑はベッドで目を閉じたまま)
………黒い車(走行中)………
妹 「私、心を読ませない方法がアレしか思い付かなくて・・」
「やっぱり不十分ですよね」
御影 「はい」
妹 「でも、御影さんが『操作』で助けてくれて」
「それに私、『誘導』が護身に使えるなんて知らなかったし・・」
御影 「私は自分の事しか考えていませんでした」
「でも・・」
………家の前………
妹 「御影さん、さようなら。またね」
御影 「はい」「近いうちに またお会いしましょう」
〈妹は御影と別れた後、嬉しそうに玄関の戸を開ける〉
妹 「お姉ちゃん、ただいま・・って、あれっ?」
〈妹は靴を脱いで、床に上がる:姉が奥から現れる〉
女の人「おかえり」
妹 「お姉ちゃん、聞いて聞いて」
女の人「はいはい。ちゃんと聞いてあげるから・・」
「でもその前に、神楽さんからの伝言を伝えるね」
妹 「うん」
女の人「3日間外出禁止!」「だって」
妹 「えっ、何で!?」
女の人「休養しなさいって事だよ」「頑張ったね」
妹 「うん」
<別の時間:霹靂神の御前>
女 「御影から退身の申し出がありました。如何なさいますか?」
霹靂神「許す」「大儀であったと伝えよ」
女 「承知致しました」
………次の日(8月24日)朝:洗面所から出る姉と、パジャマ姿の妹………
妹 「わっ、お姉ちゃん居たの?ぶつかるかと思った・・」
女の人「ふふっ、やっぱりね」
妹 「うぅ、普通の女子高生に逆戻りだよぉ」
女の人「もうすぐ新学期だし、宿題を片付けるのには丁度いいんじゃない?」
妹 「もぉ、お姉ちゃんのバカ・・」
………2日後(8月26日)午後:とある喫茶店(駐車場に赤い車と姉の車)………
姉妹が扉を開けて中に入ると、神楽と御影が奥の席で待っていた。
(テーブルには既にアイスコーヒーが2つとアイスティーが2つ置かれている)
神楽 「お呼び立てして すみません」「今日は、お二人に新しいメンバーを紹介します」
妹 「やったぁ!」
御影 「初めまして。私は御影と申します」
女の人「初めまして」「妹がお世話になりました」
御影 「いいえ」「私がこうして居られるのも妹さんのお蔭です」
「私もやっと、姉と正面から向き合えるようになりました」
妹 「・・・」(妹は少し照れる)
「ねえ、御影さんの力があれば、戦いも有利になるよね」
神楽 「はい。御影さんのクラスはSSですから、普通なら幹部候補です」
御影 「私はただ、貴女方のお役に立ちたい。それだけです」
神楽 「という訳で、御影さんに お二人の指導をお願いしました」
妹 「わぁーい!」
女の人「御影さん、宜しくお願いします」
御影 「はい」「此方こそ」
〈神楽と妹はアイスコーヒー、御影と姉はアイスティーを口にして〉
妹 「ところで神楽さん、私の考え方で合ってました?」
神楽 「はい。答えの1つです」
「テレパシーが使えるようになると、」
「意思の距離を絶えず調整しなくてはなりません」
「特に御影さんの場合は、お姉さんとの距離を保つ為に自身の『波動』を変え、」
「必要な時以外はテレパシーを使わないようにしていました」
「今回は逆に、互いの『波動』を同じにして、」
「2つの意思を『個』が失われる限界まで近付けた後、」
「外からの『力』で分離・再構築する方法です」
女の人「それって、『誘電分極』によって引き寄せられた物体が、」
「電荷を貰って離れる現象と同じですか?」
神楽 「少し違います」
妹 「ちょっと、お姉ちゃん!」
神楽 「勿論、対象者の意思の強さや、」
「波動を絶えず同じにするという かなり難しい条件が必要となります」
御影 「あの時、妹さんの『虚栄』の力が強力で、」
「姉は自分の波動を変える事が出来ませんでした」
妹 「『虚栄』って、人や物にも使えるんですよねえ?」
「気配だけだけど、『分身』を作ったり、自分が他人になったり」
神楽 「ええ。その調子で色んな可能性を考えてみて下さい」
「能力者と戦う場合、レパートリーが多いに越した事はありませんが、」
「どのように扱うかが特に重要です」
………喫茶店の外:扉が開き、妹・姉・御影が出てくる………
妹 「ねえ、御影さん。早速で悪いんだけど、始めて貰えませんか?」
「私、8割くらい回復しました」
御影 「宜しいのですか?」
女の人「是非、お願いします」
〈神楽が扉を開けて出てくる〉
神楽 「それでは、私はこれで失礼します」「皆さん、頑張って下さいね」




