第11話
第11話
姉妹が雑談をしながら市街地を走る。
女の人「この風にしよっか?」
妹 「そうだね」
〈15分後〉
女の人「この辺かなぁ・・」
妹 「うーん。多分、あそこの病院だよねぇ」
〈病院の駐車場に車を止める〉
「私、もっと意外な場所だと思ってたんだけど・・」
女の人「取り敢えず、降りて調べてみる?」
妹 「ううん。このままでいい」
〈妹は目を閉じて『風』を感じ取る。姉も、妹の様子を見て真似をする〉
〈1分後〉
「何だろう。ほんの少しだけど、体が暖かくなるような感じがする」
女の人「うーん。私には『風の囁き』というか、」
「私の知らない何かを教えてくれる感じかなぁ」
「・・・」
「他の場所にも行ってみよっか」
妹 「うん」
………30分後………
妹 「今度は、この風にしようよ」
女の人「そうだね」
〈20分後〉
「また病院だね」
妹 「だね・・」
〈病院の駐車場に車を止め、姉妹は再び風を感じ取っている〉
「『風の囁き』って、これの事かなあ?」
女の人「確かに、ほんの少しだけど体が暖かくなるような・・」
「さっきと逆だね」
妹 「うーん。もっとヒントになるような物、無いのかなぁ」「こんな調子だと・・」
女の人「まあまあ。気を取り直して、他の場所へ行くね」
………30分後………
女の人「この風がいいかな?」
妹 「・・うん」
〈20分後〉
女の人「今度は神社だね」
妹 「今度こそ、何かあると良いんだけど・・」
〈神社の駐車場に車を止める〉
女の人「折角だから、お参りしていこうか」
妹 「・・そうだね」
〈姉妹が参道を少し歩くと、『百度石』が目に入る〉
「お姉ちゃん、この石よく見掛けるよね」
女の人「お百度石だね」
「・・・」
「あっ、そっか」「神楽さんが言いたかった事って、コレなんだよっ」
妹 「えっ、どういう事?」
女の人「つまりぃ、焦っちゃいけないって事だよ」
妹 「何それっ」
姉は不満げな妹の肩を押し、御手洗へ。姉妹はそこで手を洗い、口をすすぐ。
次に拝殿に進むと、まず姉が お賽銭を入れ、鈴を鳴らした。
(妹も お賽銭を入れ、鈴を鳴らす)
そして、姉が二礼二拍手一礼。妹も その様子を見て真似をする。
………拝殿前………
女の人「ねえ、あれからどんな事が出来るようになったの?」
妹 「えーっと・・」
「そうだ、『かくれんぼ』しない?」
「1分経ったら、私の『気配』を探ってみてよ」
妹はそう言うと、拝殿正面から反時計回りに裏側へ。
………1分後………
姉も反時計回りに妹を追う。
しかし、すぐに姉は拝殿を一周して元の場所に戻ってきた。
女の人「あれっ、何処に行ったんだろう」「気配はあるのに・・」
妹 「お姉ぇちゃん」
(妹は、姉の後ろから声を掛ける)
「どう?驚いた?」
「神楽さんの真似をしてみたんだぁ」
〈妹は得意げに姉の前へ〉
「はい。上出来です」
〈姉妹が声のする方を見ると、神楽が独り立っていた〉
姉妹 「神楽さん!」
「こんにちは」
神楽 「はい。こんにちは」
妹 「神楽さんって意地悪なんだよぉ」
「自分の気配を別の場所に作っておいて、突然現れるんだっ」
神楽 「私は意地悪で そうしている訳ではありませんよ」
「その場の情報を得る方法は能力者によって様々ですが、」
「気配の情報を優先する能力者を油断させるには都合が良いのです」
女の人「そうだったんですか?」
「私は意識しないと気配を感じ取れないので全く気付きませんでした」
「妹の挨拶が遅れる時があったのは、そのせいだったんですね」
神楽 「ちなみに、この能力は、使用者の戒めを兼ねて『虚栄』と呼ばれています」
妹 「ねえ、神楽さん」「実は、お願いがあるんだけど・・」
神楽 「はい。御影さんの事ですね」
「では、私の車の中で詳しくお話しましょう」
女の人「私は聞かないほうが良いですよね」「妹は独りでやりたいみたいだし」
「・・私、ここでずっと待ってますから」
神楽 「分かりました」
………駐車場:姉の車の近くに赤い車:後部座席に妹と神楽………
妹 「私、ある方法を思い付いたんです・・」
………(会話の途中から)………
妹 「私、御影さんを助けたい」
「でも、私には まだ力が足りなくて・・」
神楽 「今日、風を辿ってみて、何か気付いた事はありませんか?」
妹 「えーと。私にとって、ヒントになるような事は何も・・」
神楽 「あなたは、」
「対価さえ払えば どんな物でも すぐに手に入ると考えていませんか?」
「それは物理的に可能かどうかという問題ではなく、」
「この世界の『有りと有らゆる物』が結び付いている以上、」
「『物』や『能力』にも『時間の概念』が適用されるのです」
「例えば、時期と期間が外れると二度と入手できない物があったり、」
「常套手段では身に付かない物、或いは何倍もの労力が必要になる場合があります」
「それに、能力や才能は無限だと考える人も居ますが、実際は有限です」
「使えば減り、取り込めば増えます」
「まずは『風』を読んで、『流れ』を掴む事」
「勿論、自分の中に有る『流れ』も」
「そうすれば、自ずと為すべき事が見えてくるでしょう」
妹 「・・・」
〈妹は目を閉じて静かに考えている〉
「やっぱり私、今じゃないとダメなんです。どうしても」
〈妹は神楽の目をじっと見つめる〉
神楽 「そうですねえ」
「この代償は、」
「貴女にとって とても大きな物になるかも知れませんが、構いませんか?」
妹 「はい」
………30分後:拝殿の前:妹が姉の前まで ゆっくりと歩いて来る………
妹 「お姉ちゃん、帰ろっか」
女の人「ふふっ。意外に早かったね」
妹 「うん」「だって、私は優秀な能力者だからねっ」
………姉の車(帰り道)………
妹 「ねえ、お姉ちゃん」
女の人「何?」
妹 「能力者と戦う時、」
「見せたほうがいい能力と、見せないほうがいい能力があると思わない?」
女の人「急にどうしたの?」
妹 「例えば、お姉ちゃんがやってるオークション」
「贋作にサクラが入札してたら、」
「騙されたフリしてギリギリまで競って、サクラに落札させる」
「それから、真贋の区別が難しい品物に入札して、贋作を競争相手に落札させる」
「こっちが相手よりも何か上回る物を持ってないといけないけど、」
「たったの1回でいいから、相手に自分の能力を見せるのが大事なんだよ」
「私は『直球』だけじゃなく、『変化球』も持ってるよーってね」
女の人「うーん」
「機会があったらね」
妹 「もぉ、お姉ちゃんって・・」
………昼食後:妹の部屋:中央の敷物の上で正座している妹………
「何とか これを今日中にマスターしないと・・」
妹は目を瞑り人差し指を立てると、意識を集中させた。
………2時間後………
「これでどうかな?」
〈指先に光玉(ビー玉強)が現れる〉
「うん。大丈夫」「これで何とかなるよっ」
「・・・」
【でも、眠いから、ちょっと寝よっ・・】
………次の日(8月23日)午前9時:玄関………
妹 「じゃあ、行ってくるね」
女の人「いってらっしゃい」
「今日は良い風が吹いてるから、きっと上手く行くよ」
妹は近くのバス停からバスに乗り、駅へ。
そして駅前の道路に出ると、御影が運転する黒い車が止まった。
御影 「どうぞ、乗って下さい」
〈妹は助手席に座る〉
妹 「御影さん」
「まず、私の能力を見て下さい」
「これなら・きっと・大丈夫です」