第10話
第10話
妹は急に目を閉じて、意識を集中させる。(御影は一瞬だけ、妹の方に顔を向ける)
やがて5秒が過ぎ、
妹 「霹靂神って、物凄く大きな力を感じるけど、『人』ですよね。それも男の人」
御影 「はい」
〈無言のまま、3分経過〉
「少し、寄り道しても構いませんか?」
妹 「えっ?お姉さんに気付かれるんじゃ・・」
御影 「いいえ」「霹靂神様のお相手をしている間は大丈夫です」
<別の時間:支部の駐車場>
霹靂神が車から降りてくる。
(外見は30歳位、美形で背が高く、黒のロングコートを着て、両手には白の手袋)
周囲には、先に降りた侍女2人(20歳位)と、出迎えの女性(25歳位)が1人。
出迎えの女性は霹靂神に御辞儀をすると、向きを変えてエレベーターの方向へ歩いて行く。
霹靂神は女性の後ろを ゆっくりと歩き、その後ろを侍女が付いて歩く。
程無く全員がエレベーターに乗ると、女性が10階を押した。(この間、誰も喋らない)
………エレベーター内(10階)………
扉が開き、正面に立っている閃緑が御辞儀をする。
エレベーターから霹靂神と侍女が降り、
閃緑を先頭に4人で近くの部屋へ入って行った。(全員無言)
………黒い車(走行中)………
〈再び無言のまま、5分経過〉
妹 「1つ聞いてもいいですか?」
御影 「はい」
妹 「お姉さんの事、好きですか?」
「『波動』が似てないのが気になって・・」「まるで、態とそうしてるみたい」
御影 「・・・」
〈1分後〉
「着きました」
車は とある墓地の駐車場へ。(大型霊園ではなく普通の墓地)
そして、入り口付近に車を止めると、
御影 「暫く、そのままにして下さい」
御影は両手を膝の上に乗せて静かに目を閉じる。(ここから3分間微動だにしない)
妹は、御影の方を見たり、自分も目を閉じたりしてみるが、
状況が全く分からないので、最後の1分間は御影の顔をじっと見ているだけだった。
御影 「お待たせしました」「車を出します」
妹 「御影さん、今、何をしたんですか?」
御影 「いいえ」「私は何もしていません」
〈御影が車を発進させ、墓地を出る〉
「あれは、私が10歳の時です」
「父親の知人の紹介で、父と姉と私の3人は ある珍しい建物に遊びに行きました」
「建物の中には、今まで感じた事のない『風』が吹いていて、」
「私と姉は導かれるまま『ある部屋』へ入ったのです」
「そこで、私と姉は初めて霹靂神様にお会いし、頭を撫でて貰いました」
「『この子供達には隠れた才能がある』と、私は左手、姉は右手」
「すると次の日から、頭の中に姉の『声』が聞こえるようになりました」
「勿論、それは姉も同じ」
「それから一週間後。今度は他人の声も聞こえるようになったのです」
妹 「それが霹靂神に入った『切っ掛け』ですか?」
御影 「はい」「でも私は、霹靂神様にもう一度お会いしたいだけなのです」
「あれから10年。私は お目通りすら叶わない」
<別の時間:姉の部屋>
部屋には5枚の絵画(静物画が3枚、人物画が2枚)が飾られ、
本棚に画集と美術書。綺麗に片付けられた机の上にノートパソコンが置かれている。
〈姉はパソコンに向かって調べ物をしながら〉
「大体こんなもんかな・・」
〈横に置いてある紅茶を口にする〉
【・・ここ数ヶ月間でのオークションで、】
【私と張り合ったIDを調べると、出品者を評価してない人が何人かいる】
【落札者のIDはマスクされているから、】
【その人が他に どんな取引をしているのかまでは分からない】
【まずは、これらのIDを突き止めて、神代との関係を・・】
〈紅茶のカップを置き〉
「うーん」「どうしたらいいんだろう・・」
〈腕を組んで目を閉じる:1秒〉
「そうだっ・・」
〈インターネットの検索サイトにアクセス〉
【落札者は、お互いに『評価無し』の取引を持ち掛けているのかも知れないけど、】
【全ての出品者がそうするとは限らない】
【だから、出品者のIDと出品物、】
【それとオークションサイトの表示項目を検索すれば・・】
「あった!」
【・・なるほどね。私が気付いてない名品も幾つか落札してるみたい】
【ふふっ、この調子で他のIDも調べないとね・・】
………家の前:黒い車が止まる………
妹 「ありがとうございます」「送って頂いて助かりました」
御影 「いいえ」「私の役目ですから」
妹 「御影さん、さようなら。また今度」
〈妹が戸を開けて玄関に入ると、既に姉が立っており〉
女の人「どうだった?」
妹 「うん。バッチリだよ」「ちょっとドキドキしたけどね」
「お姉ちゃんの方こそ、どうなの?」
女の人「オークションの事なんだけど、どうやら、」
「神代は複数のIDを使って名品を落札したり、他の人の邪魔をしたりするみたい」
妹 「それで、そのIDは もう突き止めたの?」
女の人「半分くらい・・」
妹 「じゃあ、お姉ちゃんも同じように邪魔をすればいいんじゃない?」
「お姉ちゃんには『道』を見る能力があるんだから、」
「相手の誘いに乗ったと見せ掛けて、逆に相手を陥れる事だって出来るよね?」
女の人「ええっ、嫌だよ」「私そこまでしたくないし・・」
妹 「うーん」
「やっぱりお姉ちゃんって、甘いよねっ」
「使える能力があるのに使わないなんて、勿体無いよ」
女の人「・・・」
妹 「それと・・」「私、今日は疲れたから、少し寝るね・・」
………妹の部屋………
部屋の中には70センチ位の『ぬいぐるみ』が3つ。(入り口・中央の敷物・ベッドの上)
本棚の半分はマンガ、残りは小説。机の上に読みかけのマンガが置いてある。
〈妹はパジャマに着替えると、ベッドに上がって仰向けになる〉
「『バッチリだよ』とは言ったものの・・」
「あと1つ、要るよね」
「うーん。どうしようかなぁ・・」
………次の日(8月22日)朝:洗面所から出る姉と、パジャマ姿の妹………
妹 「お姉ちゃん、おはよう」
女の人「おはよう。今日は何時も通りだね」
妹 「うん」「お姉ちゃん、今日はどうするの?」
女の人「神楽さんに言われた通り、自然に吹く『風』の方向へ行こうと思うんだぁ」
妹 「そう、やっぱり、そうだよねっ」
………姉の車(走行中)………
妹 「ねえ、『お墓』も風が吹く方向に関係があると思う?」
女の人「えっ?」「うーん。有る気もするし、無い気もする・・」「何故だろうね」
「って、昨日何かあったんでしょう?」
妹 「そう」「でも、お姉ちゃんには まだ内緒だよぉ」




