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生徒会室にて

騒動からは少し過去の部分の、フィリオの視点になります。


「そういえば、またローレンヌ嬢の持ち物がなくなったって?」

「そうなんだよ、リック。これで何度目だろう」

放課後の生徒会室で、僕とリックは話し合っていた。

リックはうーんと唸りながら腕組みをして、

「この1ヶ月半くらいの間に10回は聞いている気がするよ、もっと多いかも」と答えた。


ここ最近、ローレンヌの持ち物は頻繁に盗まれている。

先輩達からこの4月に生徒会の仕事を引き継いで、初めての事件がこの件だった。


「それでまた、犯人は彼女の親衛隊の誰か?」

「ああ、そうみたいだ。今回もまた目撃者がいてね」

「ふーん。それでまた、やった本人は覚えてないと」

僕は頷いた。

そうなのだ。毎回犯人はすぐに見つかるが、問い詰めるとやった本人は盗んだことを覚えていないと言う。

じゃあ犯人というのが間違いなのかと言うとそんなことはなく、盗んだものはちゃんと持っているのだった。

それを指摘されると、どの生徒もみな一様に驚いていた。

初めの何人かは示し合わせて演技をしているのかと思っていたが、そうでもなさそうなのだ。

簡単なようで、簡単に解決しない妙な事件である。


「やはり何者かに操られているか…」

リックは声を潜めて言った。僕は頷く。

「そうであってほしくないけど、その可能性が高いね。禁忌の魔法を学園内で使っている誰かがいるということは、口に出すのも憚られる事態だと思う」


この王国には魔力を持つ者が存在する。

生活に役立つくらいのささやかな魔法を使う者から国を守る強大な魔法を使う者まで、様々に。

個人が持つ魔力量によって使える魔法の種類が決まってくるのだが、この魔力量は生まれつきのもので、修行などで後天的に増やしたりはできない。

基本的にどの特性の魔法も使っていいことになっているが、“闇属性“の中にある“人心を操る魔法“は禁忌の1つとされていた。


親衛隊の彼らを操っている誰かは、一体何が狙いなのだろう。

禁忌を冒してまでやるほどの何かがあるのだろうか。


「物を盗まれたりするのは、いじめでよくあるパターンだと思うけど。この件の場合は親衛隊が犯人なわけで、盗むこと自体の意味合いが変わってくるんだよね。それに黙っていじめられるようなタイプではないだろうし。かなり気が強いから」

「副会長!それは聞きようによっては問題発言になるよ」

僕がわざと大袈裟に指摘すると、リックは「ハハ、たしかに」と笑い、椅子の背もたれに寄り掛かった。

「ここだけの話にしておこう」

互いに視線を合わせて、笑った。


「ところで、噂が流れているよ。“美しいローレンヌ様こそ王太子妃にふさわしい。殿下も男性、より美しい者の方がいいと思ったのではないか。実際、ここのところ2人はよく会っている“だっけ。フィリオ殿下」

リックはわざとらしく僕の名前に敬称をつけて呼んだ。

彼とは幼い頃からの付き合いで、普段から敬語抜きに気さくに会話をしている。それがこうやって公の場でないところで敬称を付ける場合は、僕をからかっている時だ。


ローレンヌは、親衛隊ができるくらいなのだから美しい令嬢だろう。少々キツめな印象も魅力であると言える。

僕たちは同じ学年ではあるが、1年生の頃にはこれといって接点はなかった。

それが、この盗難事件を通して関わる機会が増えてきている。


だからといって僕が彼女に惹かれるなどということは起きていないし、これからも起きない。断言できる。

「実際、ここのところ2人はよく会っている」というのも本当のところはロマンの欠片もなく、ただ単に被害の聞き取り調査をしているだけなのだ。

さきほども生徒会室に被害を訴えに来ていて、

リックと入れ替わりに帰っていったところだった。


「そんなこと、わざわざ僕に聞く必要がないのくらい分かっているだろう。それにその噂を流した人物に僕は言いたい。“より美しい方“って、なんだと。あなたの目は節穴なんですかと。リリアは美しいんだ。見目はもちろん、心だって美しい。この世に誰も敵う相手なんていないんだよ」

僕の言葉をリックはニヤニヤしながら聴いている。そして、背もたれに預けていた体を起こして言った。

「まあ分かっているけどね。フィリオが昔から僕の妹一筋だってことは。なぜかリリア本人は分かってないみたいだけど。噂を流した人物は学園内でのリリアしか知らないんだろう。なんだか分からないけど、やたら地味にしてるからね」

リックの言葉に僕は思わず溜息をついてしまう。


そうなのだ。僕は昔からリリアが大好きで婚約までしているのに、リリア本人にはそれが全く伝わっていないようなのだ。冗談だと思われている節がある。

たくさんの楽しい時を一緒に過ごしてきて、普段の様子を見ていても、僕のことを慕ってくれているとは思う。

それなのに、いざ僕が甘い雰囲気を出そうとすると、リリアはいつも困ったような顔をするのだ。

「そんな、無理に気を遣っていただかなくても大丈夫ですから」と言うことまである。


「僕のことをリック2号とでも思っているんだろうね。兄のように思っている人物から、いきなり好きだの愛してるだの言われても困るんだろうなあ。地味な装いに関しては、僕もリリアに尋ねたことがあるよ。そうしたら彼女は「フィリオ様やお兄様のご迷惑にならないように」っていう謎の理由を言っていたね」

リックは僕の肩をポンと叩いた。

そして「女心っていうのは難しいですね、殿下。なにか、お力になって差し上げたいのはやまやまですが…」とニヤニヤしながら言った。


僕は呆れ顔を作る。

「またそうやって、僕をからかって楽しんでいるだろう。ともあれ、ローレンヌの盗難事件だけでなく、この噂の方も調べる必要がありそうだな」

リックは真面目な顔になって頷いた。

夜に更新したかったのですが、朝になってしまいました。

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