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番外編:結付(7)

更新の間隔が空いてしまい、ごめんなさい。

データが途中で消えてしまうというハプニングがありまして…。


尚、前話に加筆もしております。

話の筋は変わっていないので、読まずにこちらを読み進めても問題はありません。

表の顔を捨てる…。大切なものを手放す…。

本当なら自分自身が守りたかっただろう。守れるだけの力を持っているのだから尚更だ。

けれど、自分が側にいることで危険に晒す確率も高まってしまうのだ。

あの時点では、大切であるが故に離れなければならなかった。

それがどれほど辛いことだったか。

その決断をした時のその人の気持ちを思いやると、とても胸が痛む。


ふいに僕は、鈍い痛みを感じて視線を落とした。

膝に置いていた手を、自分でも気付かないうちに強く握ってしまっていたようだ。

手の平が上を向くように返して、ゆっくりと開いていく。

傷にはなっていなかったけれど、手の平にははっきりと爪の跡が残っていた。


「フィリオ、手…平気?治癒が必要ならするけど」


その声に僕は気を取り直して頭を上げた。

心配そうにこちらを見ているシリウスと目が合ったので、僕は「大丈夫、必要ないよ」という意味を込めて口角を上げてみせた。

話を中断させてしまったついでに、こちらから別角度の質問をしてみることにした。

聞いておきたい、重要なことだ。


「シリウスは、もう会って話せたの?」


僕の問いかけに、シリウスは微笑んだ。

予想していた通りの反応だった。


「さきほど一瞬だけね。廊下の向こう側にいたから話してはいないけど。ただ軽く手を振ってくれたよ。さすがに情報が早いよね。僕が真実に辿り着いた途端に姿を見せてくれるんだから。今はモニカ嬢の取り調べに出掛けている。ここに来る前に団長から聞いた話だと、夕方には戻って来られるとのことだった。本格的に話せるのはそこからになる」


「よかった。そうだろうとは思っていたけれど、本当によかった。やっと再会することができたね。ディオンから知らない間に出されていた課題をクリアして、シリウスの実力を認めさせることができたんだ。おめでとう。それから、なるほどそうか。ディオンは黒の丸薬のことを追っているから、聴取も担当しているわけか…。モニカ嬢から有益な情報が出てくることを願うよ」


僕とシリウスはどちらからともなく頷き合った。



〜昨晩。マーベル公爵邸にて、リリアの行方が判明した後〜


謎の人物と共に隣街のメルブルエに行ってしまったというリリア。

謎の人物が一体誰なのか、見当も付かない。心配で堪らない。

今すぐにメルブルエに駆け付けたいけれど、向かう道は夜の闇の中で通るのは困難だった。

他には転移魔法という方法がある。

けれど、自分がそれほど行ったことがない場所に使うのは難易度が上がっているのに加えて、自分の今の精神状態を考えると、正確性に欠けるだろう。

こんな時にシリウスがいてくれたなら…。

彼は現在何らかの極秘任務に就いているようで、ここ最近会えていない。

どうにかして彼の力を借りられないだろうか。


「フィリオ様にお話しておかなければならないことがあります。リリアとの未来を幼い頃から変わらずに望み、真剣に考えてくださっていることがよく分かりました。だからこそ、お伝えしなければならない」


僕が考えを巡らせていると、畏った様子のマーベル公爵から声を掛けられた。

僕は一旦考えを止め、頷いて耳を傾ける。


「リリアの実の父親であるジョアン・ワンダーには別名があるのです。ディオンと言います。フィリオ様もご存知でしょう。魔導師のディオンは、私の従兄弟なのです」


マーベル公爵からそう言われた時、僕は驚きのあまり声も出せなかった。


魔導師ディオンとジョアン・ワンダー侯爵が同一人物だったなんて。

2人に“秘術を使う民“という共通点はあるものの、聞かされるまではそんなこと、考えたこともなかった。今までに一度だって。


この国に『爵位を持つ者が魔導師になってはならない』という決まりがあるのならば、分からない話ではない。

けれど、そういった決まりはない。

過去に存在したこともない。

現に魔術師団の中にも爵位を持つ者は何人もいるし、シリウスにしたって辺境伯を継承する立場だ。

だから本来、ジョアンはディオンという架空の人物を名乗る必要などなくて、“侯爵であり魔導師でもあるジョアン“で全く問題はないはずなのだ。


「なぜ、そのようなことを…。それに、ということは生きている?」

動揺が収まらない中、僕はやっとの思いでマーベル公爵に尋ねた。


どうしてなのか?ということも分からない、また行方不明と思っていたのに、そうではない?


「ジョアンがディオンとなった理由は、“私“です。私が宰相になることを邪魔したくないんだ、そうジョアンは言いました。『出る杭は打たれる』という言葉がありますよね。自分が目立つことで私に迷惑がかかるのではないか、そういうことを心配してくれたのです」


この理由を聞いて、僕は「なるほど」と納得した。

“秘術を使う民“の血を引いていることを隠している理由と同じようなことだ。

優れている故の苦労。

これはどうにかならないものか…などと考えている間にも、マーベル公爵の話は続いていく。


「それから…。ジョアンが行方不明になった理由ですが。それは“リリア“にあります。誤解がないように伝えたいのですが、あの子に問題があるわけではないですよ。あの子はフィリオ様もご存知の通り良い子です。ジョアン達はリリアを守るため、夫婦揃って姿を隠したのです。あの時はそうするより他に方法がなかった。もちろん2人とも行方不明ではありません。私自身も頻繁に連絡を取ることは難しいですが、無事です。ちゃんと生きております」


思いもよらないところで出てきた名前と、ワンダー侯爵夫妻の行方不明事件が作られたものだったということに僕は衝撃を受けた。

あの事件は貴族社会で知らない者がいないほどに有名なものなのだ。

侯爵夫妻が馬車の事故で行方不明となって何年も見つかっていないなど、大事件以外の何物でもない。

それが、まさか嘘だなんて。

これほど大掛かりな嘘をつかなくてはならないほどの事態とは?

天才魔導師の力を持ってしても解決できず、切羽詰まった状態だったのだということが分かる。

リリアは何から守られているのか。

狙っているのは誰なのか。

次で終わるかなと言っておりましたが、もうちょっと必要でした。

説明することが多く、長くなってしまって…。


読んでくださっている方、ありがとうございます。

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