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番外編:結付(1)

一度完結してから少し時間が経ってしまいましたが、伏線を回収していこうと思います。

時系列的には本編完結後の話です。

説明が多い形になるかな…。

温かい目で見守っていただけると嬉しいです。

コンコンコン


部屋の扉をノックする音がする。私は眺めていた本を閉じ、返事をした。

「はい」

「リリア、僕だよ。ちょっといいかな」


その声を聞いて急いで立ち上がる。

パタパタパタ ガチャリ


「お兄様。はい、もちろん大丈夫です。どうぞこちらに」

扉に駆け寄って開くと、お兄様を部屋の中へ招き入れた。

そして、身振りでソファを勧める。


「走ったりして平気?いや、そんなに長居するつもりはないんだ。リリアは疲れているだろうし」

お兄様が眉を下げて心配そうに言うので、私は首を左右にブンブンと振る。

「ううん、大丈夫。戻ってから少し…先程まで横になっていましたし…。それに私、お兄様が帰ってきたら、こちらからお部屋に会いに行こうと思っていたの」


遠慮するお兄様の腕を引っ張ってソファに座ってもらうと、私もその隣に座った。

そして、そのままの勢いで頭を下げる。

「お兄様、ごめんなさい」


少しの沈黙の後、お兄様は私の頭にポンポンと軽く触れた。

「強引だなあ。淑女らしくないぞ」

そう言って、ハハハと笑う。


私はあんなにも迷惑をかけてしまったのに…。

お兄様があまりにも普段と変わりなく接してくれるものだから、ポロリと涙が溢れてしまった。

涙は膝の上でグーに握った私の手の甲に落ちていく。


お兄様は私の肩を優しく撫でてくれた。

「リリア泣かないで。ほら顔を上げて。僕によく見せてよ」

言われて私が顔を上げると、お兄様は微笑みながら指で優しく涙を拭ってくれた。

「おかえり、リリア。昨日から大変だったね。そんな時に近くにいてやれなくて、本当にごめん。兄失格だよ」

お兄様の表情に影が射した。


「そんな…。お兄様は何も悪くないわ」

私は急ぎ否定する。

「いや、謝らせて欲しい。そのためにここへ来たんだよ。僕が昨日、側にいたら…。それにリリアがずっと抱えてきた苦悩にも気付いてあげられなかった…。2人が根本的にすれ違っているとは思っていなくて。傍から見ていて思い合っているのは充分に分かっていたから、まさかのことだったんだ。情けない兄だよ、本当に…」

一瞬置いてから「申し訳ない」と言うと、お兄様は頭を下げた。


「お兄様。そんな…。頭を下げたりしないで」

私は前屈みになったお兄様の肩を押して姿勢を元に戻そうとした。

けれど、ビクともしない。

どうにか顔を上げてもらいたくて、私は必死に語りかけた。


「お兄様。人の心の中は見えないもの。情けない兄だなんて、そんなことない。それにお兄様もメルブルエまで来てくれていたのでしょう?フィリオ様から教えていただきました。あのような手紙だけ残していなくなった私なのに、夜が明けきらないうちからフィリオ様と一緒に遠くまで馬で駆けてくださって…。だから、私に謝ることなど何にもないの。いつでもどんな時でも私の心強い味方でいてくれる、最高のお兄様だわ。私、ルシウス先生に伺ったのだけど、闇属性の魔法の影響を受けていたようなの。よく分からないのだけどね。とにかくあの時は『私は消えた方がいい』って。それしか考えられなくなっていて。そうじゃなかったら私、お兄様に…」

私が言い終わる前に、お兄様は私を抱きしめた。


フィリオ様への思いに関しては、私の身勝手な片思いだと思っていたから相談できなかったけれど、それ以外のことは何でも相談してきた。

いつもなら、いつもの状態だったなら、私は間違いなくお兄様に相談していたと思う。

あんな風に手紙だけ残して出て行ったりしない。


小さい頃から私を優しく見守ってくれるお兄様。

私が困った時、お兄様はいつでもどんな時でも助けてくれた。

今回もそう。フィリオ様と共にお兄様はメルブルエまで私を探しに来てくれていた。

メルブルエから他の街への交通手段は船か馬車。その為フィリオ様は港で私を待ち、お兄様は馬車の乗車場で私を待っていてくれたのだという。

私はフィリオ様とのお話の後、港からルシウス先生の転移魔法によって一足先に邸へと送り届けられたため、あちらでは会えなかった。


「…うん。僕も先程、ルシウス先生から聞かせてもらったよ。そのような暗示をかけるなど、決して許せることではない。準備もなく1人きりで家を出ることがどんなに危険か…。君を失わなくて、本当によかったっっ」


話す声から、お兄様が泣いているのが分かった。

私も涙が溢れて止まらない。

遠い昔にもこんな風にしたことがあった。

あの時は不安と寂しさとで泣く私をこうやって抱きしめてくれた。

お兄様はあの頃から変わらない。


しばらくして、お兄様がぽつりと言った。

「…前にもこんなことがあったね」

同じことをお兄様が思い出してくれていたのだと分かって、心がより暖かくなる。

私はこくこくと頷いた。


抱きしめる腕の力を緩めると、お兄様は少し体を離して私の顔を覗き込むように見てきた。

「リリアの髪の長さも、あの時と同じくらいかな」



あの時は―。

お兄様が4歳で私が3歳。

その時の私たちは“兄妹”ではなく“はとこ同士”だった。


私はマーベル公爵家の娘として育てられているけれど、本当はジョアン・ワンダー侯爵の娘だった。

マーベル公爵であるお父様と私の本当のお父様は従兄弟同士。

幼い頃からとても仲が良く、お互いが結婚してからは家族ぐるみで交流をしていた。

私もそれこそ赤ちゃんの頃からマーベル家に遊びにきていたという話なのだけれど、その時のことまでは覚えていない。


私が3歳の頃、ジョアンお父様はお母様とともに視察に向かう途中で“行方不明”となった。

崖下に落ちた馬車は見つかったけれど、2人は見つからなかったのだ。

ただ、あの高さから落ちて生きているとは考えづらく、近くの川に流されてしまったのだろうと言われている。

「今回の視察の道中は険しいところがあるから」という理由で、私はマーベル公爵家に預けられていたため助かったのだった。


事故の知らせを受けて、幼かった私は事態がうまく飲み込めなかった。

「迎えに来るから、良い子にして待ってるんだよ」

そう言って出掛けて行ったお父様とお母様。

それなのに、2人は帰ってこないのだという。

訳が分からなくて不安で寂しくて泣いてしまった私を優しく抱きしめて、一緒に泣いてくれたのはリックお兄様だった。

「そんな裏設定があったんだー」みたいな感じに、ゆる〜く楽しんでいただければと思います。

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