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ある昼休み(3)

やっとヒーローが登場しました。

お昼休みは残り10分くらいだったのに、どのくらい経ってるのだろうという気がしますよね。

「これは何事だ!!」


鋭く叫ぶ声がして、向き合っていた私もラルゴ様も声の聞こえた方を見た。

すると、遠巻きに私達を取り囲んでいる生徒の人垣も振り返り左右に分かれていく。


声の主が姿を現すと、近くにいる生徒は頭を下げようした。しかしその人は「そんなことしないでくれ」と言うように、右手を軽く左右に振っている。

集まった生徒たちから、次々に声が上がった。


生徒会長… フィリオ様…


声を上げてこの場に来たその人は、ふわふわとした金髪で吸い込まれるように透き通った青い瞳の美青年。

この学園の生徒会長を務めるほど優秀であり、またこの国の王位継承者でもある、フィリオ王太子殿下だった。


生徒たちのざわめきはまだ収まらなかったが、ラルゴ様が我先にと口を開いた。

「フィリオ殿下、お騒がせして申し訳ない。ただ、どうしても許せない事があったので、このおん…いや、リリアと話をしていたのです」


フィリオ様は向かい合う私たちのちょうど間のあたりまで来て、立ち止まった。

そしてラルゴ様の方をゆっくりと見る。

「許せない事とは?」

そう問いかける声はいつもより少し低い。

フィリオ様は怒っているような気がする。


だけどラルゴ様は、その変化に全く気付いた様子もなく話し始めた。

「こいつが、ローレンヌ嬢を階段から突き落とそうとしたんです。幸い私が受け止めることができたから怪我はなかったものの。いくらローレンヌ嬢が妬ましいからと言って、こんなこと…許せるわけがない。その上、私やモニカという証人もいるのに、こいつはそれを認めないどころか『図書館にいた』などという見えすいた嘘をついたのです。昼休みにあんなところに行こうと考えるバカな奴なんて、誰がいるっていうんだ」


話を聞いてフィリオ様は静かに頷くと、ローレンヌ様の方を見て言った。

「ローレンヌ、本当に怪我はない?」

ローレンヌ様はぽーっとした様子で頬に両手を当てて頷いた。

「はい、フィリオ様。私はこの通り大丈夫です。でも怪我がなかったからと言って今回のことは見過ごせません。ラルゴがいなかったら私はどうなっていたか。リリアを許すことはできませんわ」


ローレンヌ様の瞳は心なしか潤んでいるように見える。

見つめ合う美しい男女。それはまるで一枚の絵画のようだろう。

この場にいる生徒たちがその光景に見惚れていることからも分かる。

けれど、私は1人悲しい気持ちになっていた。


フィリオ様はここに来てから、一度も私のことを見ていない。


ラルゴ様が私の方に向き直り、睨みつけながら話しを続けた。

「俺も許せないね。父親は宰相、兄貴は生徒会副会長にしてフィリオ様の親友。ずいぶんと立派な家族をお持ちのようだ。その上、フィリオ様の婚約者だなんてな。吐き気がする。この際、敢えて言わせていただく。相応しくないですよ、こんな女。フィリオ様にも家族にさえも迷惑な存在だ。これまでのローレンヌ嬢に対する嫌がらせも暴走した親衛隊のせいじゃない。きっと全部こいつがやったんだ。自分でやってなかったのなら誰かにやらせたか。そうに決まってる。ローレンヌ嬢は華やかで美しい。今みたいにフィリオ様と見つめ合う姿はまるで絵画のようだ。この頃噂されているように、フィリオ様の隣に並ぶのはローレンヌ嬢の方が相応しいと思うのが大多数だろう。こんな地味なガリ勉よりよっぽど。俺だったらお断りだね。隣に置きたいなんて思うのは相当物好きな奴だろう。でもそんな物好きでも、こいつの性格がここまで邪悪で陰険だと知ったら離れていくだろうよ。あの父親や兄貴と同じ血が流れているだけあって相当頭の切れる奴だとは知っていたけど、それをこんなことに使うなんてな。俺だったら恥ずかしくて立ってられないね。最低の人間なんだよ、お前は。フィリオ様、そして俺たちの前から…」


そこで言葉が不意に止まった。


どうしたんだろう。

私はラルゴ様が憎しみのこもった表情をして、あまりにも酷いことを早口で捲し立てるので、顔を見ていられなくなって俯いてしまっていた。

段々と下を向き、地面を見るようになっていたため今がどういう状況なのか分からない。

なので、恐る恐る顔を上げてみる。


するとフィリオ様がラルゴ様と向かい合い、その手をラルゴ様の顔の前に差し出しているのが見えた。

ラルゴ様は俯く前に見た時のように憎しみのこもった表情はしておらず、ハッとした顔をしているように見える。

フィリオ様の表情はこちらからは見えない。

手が目の前に差し出されたことによって、ラルゴ様は最後まで言えなかったようだった。


私は先ほどまでのラルゴ様からの言葉で泣きそうになってしまっていたけれど、制服のワンピースを強く握りしめてどうにか感情を逃した。

泣いている場合ではないのだ。やっていないことで責められているのだから。


ちゃんと反論をしなくては。

そうやって、意を決して口を開こうとした時。

フィリオ様が言った。

「リリア、今は何も言わないし聞かない。すぐにこの場を離れなさい。あとで話がある」


フィリオ様の声は冷たかった。

初夏に向かうこの季節は少し体を動かすと汗ばむほど暖かい。それなのに、強い冷気が感じられてぶるりと震えた。

フィリオ様は今、確実に怒っている。

それは私に対して?

私に怒っているから、こちらを一度も見てくれないの?

私は本当にやっていない。それなのに、この場で反論することも許されないのですか?


フィリオ様なら、私のことを信じてくれると思っていた。それなのに。

堪えていた涙が両目から溢れ出す。視界がぼんやりしていく。


すると何かを感じ取ったのか、フィリオ様はここに来て初めてこちらを振り返ろうとした。

それが分かって思わず私は身を翻し、駆け出した。

フィリオ様に蔑まれた目で見られるのは耐えられなかった。


名前を呼ばれたような気がしたけれど、人垣を掻き分けて振り返ることなく走った。

毎日更新したいけれど、なかなか難しいですね。

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