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秘術を使う民

はい、そうです。私も同じ民の血を引いています。


すんなりと、そう答えられたらよかったのに。

正直なところ私には分からなかった。

思い当たることが何もない、ということでもないけれど、それでも私は何の情報も持っていなかった。

ルシウス先生の秘密に対して、お返しできるような私の秘密。

それは残念ながら、私の手の中には握られていない。


「ごめんなさい…。何も心当たりがない、とは言えません。だけど、私の思うそれが先生の求める答えと繋がっているのか分からなくて…」


ルシウス先生が私に聞きたいことは分かっているけれど、その先に何を求めているのかまでは測りきれていない。

それがとても重要なことなのだろうというのも伝わってきている。

それなのに私は確信を持って言える答えを待っていないのだ。

本当に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

言葉だけでは足りないと思って、私は頭を下げた。


私はルシウス先生の言うように、先生と同じ民の血を引いているのだろうか。

自分では何も分からないことが、酷くもどかしかった。


ルシウス先生は、下げ続けている私の頭をポンポンと優しく撫でた。

言葉はなくても「謝らないで大丈夫だよ」と言ってくれているような気がした。

質問への答えにならない返答しかできていない私なのに、ルシウス先生はそれを責めたりしない。


「『リリアさんを家に帰す、いや私は帰りません』の話をしていたのにね。君から“ノルモンタニュー“という言葉が出て、僕は少し前のめりになってしまったみたいだ。謝るのはこちらのほうだよ。ごめんね」


私が顔を上げると、申し訳なさそうに眉を下げるルシウス先生の顔があった。

「いいえ、そんな…。謝らないでください。先生がそれほど関心を寄せることへの答えを持っていなくて、やっぱり私は申し訳なく思います。隠そうとしているわけではないんです。秘術を使う民の存在も、今先生がお話しになるまで本当に知らなくて…」


ルシウス先生はまた、私の頭を優しく撫でた。

「そうだよね。僕はリリアさんが知らないだろうって分かってたんだ。それなのに驚かせて、混乱させるようなことをたくさん言ってしまった…。ごめんね。少し話を聞いてもらってもいいかな?」


私が頷くと、ルシウス先生は私のペンダントに触れた。

「今日の昼間にね。リリアさんの首元にこのペンダントを見つけた時は、本当に驚いたんだ。まさかこんなところで見かけるとは思っていなかったから。だから信じられない気持ちで思わず手を伸ばしてしまったんだ。あの時も僕はリリアさんを驚かせたね」


私はお昼休みの図書館での出来事を思い出していた。

突然、首元に手が伸びてきたので、確かに小さく悲鳴を上げた。


「リリアさんの驚いた声で我に返った僕は、改めてペンダントに触れさせてもらう許可をもらったよね。あの時、僕は本当に秘術が掛かったものなのかを確かめていたんだ。見間違うはずはないんだけど、信じられなくてね。それで触れてみた結果、やっぱり見間違いではなかった。確かにこれには僕と同じ民の秘術が掛けられている。また、触れたことによって秘術の内容も分かった」


ルシウス先生はペンダントからそっと手を離した。

その反動で、私の胸元でペンダントが小さく左右に揺れた。


「一口に秘術と言っているけどね。そこに込められる効力の内容は様々にあるんだ。このペンダントは、簡単に言うとお守りのようなものでね。基本的には贈る相手の健康や幸せを願って、それに見合った作用のものを掛けているんだ。リリアさんのペンダントの場合ももちろんそうなんだけど…。中に1つだけ不思議な作用のものが掛けられていたんだ。これまで僕がリリアさんのことを同じ民だと認識できなかった理由もここにあるんだけど…。このペンダントには、魔力の種類を判りにくくする作用の秘術が掛けられているんだよ。これはあまり一般的ではない種類のもので、掛けるのに相当な魔力量を消費してしまう。だから、よほどのことじゃないと掛けないものなんだ。何故なんだろうと思って、とても気にかかった」


私はペンダントを手に取って、眺めてみた。

これをくれた人のことを思い出しながら。


「だけどリリアさんは何も知らない様子だから、不用意に聞けない。それに魔力の種類が判りにくい以上、リリアさんが同じ民なのかも分からない。秘術は僕たちの民に作用するものだから、リリアさんがそうじゃないなら気にしなくていいことになる。もしかしたら、この不思議な作用のペンダントをたまたま手に入れて付けているだけということも考えられるからね。だから、確かめるために本を見せたんだ」


本…。私は椅子から立ち上がって、荷物台のところまで行った。

そして、鞄からルシウス先生にもらった表紙に花の刺繍の入った紺色の本を取り出した。

それを持って戻り、再び椅子に座る。


「この本ですね」

私が差し出すと、ルシウス先生は本を受け取ってパラパラとページをめくった。

「そう、この本。ちなみにこの本って、どんな感じかな?」


『どんな感じかな』とは?

内容のことなのか、見た目のことなのか。

私はよく分からないままに、思ったことを口にした。


「紺色の小ぶりな本です。表紙の花の刺繍がきれいです。内容はまだ少ししか読めてないですけど、面白いです」

「そうだよね。実はこれにも掛けられていて、花の刺繍は僕たちだけに見えるものなんだ。リリアさんはこの本の存在を既に知っているようだったし、花の刺繍も見えている。やはり同じ民なんだと思った」

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